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2 最終試練

 この小説はフィクションです。

 今回は釣り要素は少ないかもしれません。

〈一八九五年世界初の魔術と科学を使った戦争が始まった〉

〈きっかけは当時のイギリスの皇太子がフランスの魔術師に暗殺されたことだ〉

〈フランスは国家の干渉を否定したが、犯人の魔術師が国家の暗部の仕事を引き受けていた事実からイギリスは報復のために戦争を仕掛けた。(これにはその時のイギリスが植民地主義に則った支配活動を盛んに行っていた背景がある)〉

〈科学的進歩を遂げたイギリスは、最先端の兵器である戦車や改良した戦艦や潜水艦、また一部では飛行機を使って戦争を有利に進めた〉

〈しかし、フランスの魔術師全員が協力し発動した大規模魔術により互いの国だけでなくヨーロッパ一帯が大きなダメージを受けることになった。

 自然は枯れ果て、人の住めるような土地でなくなった欧州の回復には百年はかかるといわれていた〉

〈科学と魔法がぶつかり合う戦争の皮肉さを世界に伝え、この戦争は終結した〉

〈それから百年以上が経過した現在、科学と魔法を使った戦争は起きず、対話による世界統治が今もなお行われている〉

〈表向きでは、ね?〉


     ☽☽☽☽☽☽☽☽


 シンラとホムラが稽古をしていた道場のある山の麓に、シンラは家を借りて住んでいる。

 四五六回目のキスを防いだシンラはくたくたになっていた。

 風呂に入らずに寝てしまったため、翌朝にシャワーを浴びてから彼は道場に向かう。

(今日は何を作ろうか?)

 そんなことを考えながら朝の市場をうろつくシンラは手慣れた感じで食材を見ていく。

 道場には調理場があるため、普段からそこで稽古をしているシンラは借りた家よりも、道場で食事を取ることが多い。

 食事の度に山を上り下りするのは体力には自信のあるシンラでも遠慮したくなることだ。(一時期は体力向上のために敢えて家と道場を往復していたが、今のシンラは体力よりも魔力を使うための訓練が必要なために止めている)

 馴染みの店に顔を出して商品を見ているときだった。

「おう! シンラ、今から道場にいくのか?」

 よく言って快活な、悪く言って無遠慮な声がかけられた。

 面倒くさそうにゆっくりと振り返り半眼になって睨み付けた。

 そこには身長百九十センチを超えた巨漢が立っていた。

 ぼたぼたと汗を掻いている男の年はシンラと同い年かそれより上だろう。

 ランニングシャツというラフな格好をしている男の両腕には腕を守るための白金の鉄鋼手(ガントレット)が着けられていた。

「朝から五月蠅いぞ、銀」

「朝からシケた顔してんなシンラ」

 巨漢の名は御子柴(みこしば)(ぎん)。シンラと同じ魔術師である。

「今日もごくろうだな」

 シンラは冷たく言いながらさっさと退散した方がこの店のためだなと思い、会計を済ませた。

「おう! 俺は体力がないからな~」

「代わりに瞬間的な力があるだろう?」

「一発屋みたいで嫌だな。その言い方。というか体力なかったら俺の場合致命的だぞ?」

 苦笑いしている銀を尻目に、シンラはさっさと買い物を済ませる。

「お前みたいに遠距離魔術が得意ならいいんだけど、俺はそういうのは苦手だしな」

 知るかと思いながらシンラは朝の人混みを抜けていく。

「待てよ!」

 慌てたのか銀は少し声を荒げた。

 ため息を吐いてシンラは茶屋の近くで銀を待つ。あの巨漢ならここがわかると考え、敢えて離れた結果である。まあ、巨漢ゆえにここにたどり着くのはもう暫く掛かるだろうが。

 銀とシンラが出会ったのもこの朝市だった。

 いつも通りに買い物を済ませ、家を出たときにあの巨漢が声を掛けてきたのだ。


「お前魔術師だろう?」

「そうだが、君もか?」

 肩に掛けた野球のバットケースの中に入れた魔法出力器(デバイス)を見ながら言われたので、おそらくそうなのだろうと見当をつけてシンラはそう返した。

「おう! 由緒正しき鋼拳流派の魔術師、御子柴銀だ」

 鋼拳流とは確か魔力を己の拳に集め、放つことを得意とした魔術師の流派だったはずだとシンラは思い出しながら、

「俺は紅先生に魔術を教わっているシンラ・ミトセだ」

「お前、日本人なのに名前を先に言うのか?」

「ああ、まあいろいろあってな」

「まあいいけど。それで紅って言ったらあの童貞殺し(チェリーキラー)か?」

 ああ、こんなところにまであなたの名は轟いてますよ。師匠。

 本気で泣きたくなったが今は我慢する時だ。

「ああ。そうだけど」

「教わってる、てことはまだ契約はまだなのか?」

 契約とはもちろん魔術を使うために精霊と行う契約のことだ。

「ああ、俺はまだ弟子(マイスター)止まりだよ」

 弟子とは魔術を師から直接学ぶ魔術師見習いを指す言葉である。反対の意味として魔術学校(スクール)で魔術を学ぶものを学生(スチューデント)と呼ぶ。

「そうか。なんか嬉しいな。俺、自分以外で弟子を見たことがなくてな。なんか親近感が湧くよ」

 そんな風にして銀とシンラは出会ったのだが、その結果としてホムラのキスが魔力を渡すのに、実は何の意味もないことだと知ることになる。

 シンラにとっては喜ぶべきか悲しむべきか非常に判断に困る出会いだった。


「しかしまあ羨ましい限りだぜ。あんな美人の師匠に毎日のようにキスされてるなんてさ」

 魔法出力器を取ってから道場へと向かう道程に銀は付いて行く。

「どこがだよ? そのうち俺は結婚できなくなりそうで震えているというのに」

 本気でそう思っているのだからこの男は、と銀は頭を抱える。

「いくら年下好きの紅先生だからってあんなにお前に執着しないだろう? あの人だって本気じゃないのか?」

「そうは言ってもな。本気だろうがなんだろうが、浮気の心配を年がら年中かけてくれそうなあの人とそういう関係になれるとは思えないんだよ」

 この鈍感がぁ!! と再び頭を抱える銀。シンラが前を見て歩いているから良かったものの、もし振り返った時この男はなんというのだろうか。

「いい加減開放して欲しいよ」

「だったら、さっさと契約済まして、弟子を卒業したらいいじゃねーか」

 いい加減に言ってからしまったと銀は後悔した。後押しするつもりなんてさらさらなかったのに、あまりの鈍感さに呆れて口を滑らしてしまった銀は、考え込むシンラに別の話題を提供することにした。

「それよりさ、またこの魔法出力器を調整してくれないか?」

 銀は自分の鉄鋼手を指さしながら乾いた笑みを浮かべる。

「別にそんなこまめに調整する必要はないだろう?」

 自身の杖の形をした魔法出力器を軽く持ち上げながらシンラは言う。

 魔術師にとって魔法出力器とは魔術の発射口にして、照準器、武器にして、防具である。

 射出系、および照射の魔術なら発射口になり、座標指定系の魔術なら照準器、戦闘時は近接武器や防御にも使える。

 魔術師になくてはならないものがこの魔法出力器である。

「だけど、定期的に見てやらないと誤発(ミステイク)が起こるかもしれないだろ?」

 誤発とは銃の不発のように魔術が発動しなかったり、使うつもりもないのに魔術が発動してしまったりすることである。未熟な魔術師が誤発で怪我をすることも少なくはない。

 だが、それにしても年に数回のチェックをすれば、契約済みの魔術師が誤発を起こすことはほとんどない。

「だとしてもだ。俺がやるより自分でやる方がいいだろう?」

「お前がやった方が使い勝手がいいんだよ。頼めるか?」

「ああ、まあ分かった。そのうち渡してくれ。中の式は弄ってもいいんだな?」

「おお! いいぞ。むしろどんどん弄ってくれ」

 気持ち悪いなと思いながら銀は諦めたように息を吐く。

(結局この鈍感の意思を逸らすことはできなかったな)

 シンラは眼に何か意思のようなものを宿していた。


     ☀☀☀☀☀☀☀☀


「師匠、折り入って話があります」

 いつもの道場の脇にある和室(ちなみにホムラはこの部屋で生活している)で朝食をホムラとともに取っていたシンラが気を見計らって、その話題を切り出した。

ふぁに()? しんふぁふん(シンラ君)?」

「いや、食べ終わってからでいいですよ?」

ふぁりあふぉう(ありがとう)

 苦笑いを浮かべる。そんなリスみたいに頬一杯に溜めなくてもいいのに。

 ホムラが食べ終わるのを見届けてから、改めて切り出す。

「師匠、僕に精霊との契約の方法を教えてください」

 シンラの口調(真面目な時彼は一人称が僕になる)にホムラもきりっと表情を変える。

「ようやくね。シンラ君は自分から動かないから、このままずっと弟子でいるつもりなのかと思っちゃったよ。まああたしんはそっちのほうがよかったけどなぁ。くっくっく」

 シンラはホムラの茶々にも反応せずに、じっとその言葉を待っている。

 にひっとホムラはいたずらっ子のように笑う。

「それじゃ、道場に行こうか」

 それは提案ではなく指示だった。


 二人は対峙していた。

 二人のその手には己の魔法出力器を固く握っている。

「これは師匠から弟子への最後の試練だよ。あたしんに習った魔術、武術、その他もろもろの技術を使ってあたしんを倒せばクリアね」

 二人の服装は先程までの流行の服の上にマントを羽織っていた。

 これは魔術師の正装である。魔術師界ではマントかもしくはローブを着ることが人への敬意であり、自身の誇りを示すことを意味する。

 ホムラは刀を振るうために動きやすいよう自身で切り刻んだ赤と黒のマントを、シンラは真新しい黒いマントをそれぞれ羽織る。

「じゃ、始めようか」

すっとホムラは音もなくシンラに歩み寄る。

どんな攻撃が来るかわからないので、隙のない構えを取っていたシンラに。

ホムラはキスをした。いつものような激しく求めるようなキスではない。軽く触れあっただけで彼女の方から離れていく。

「ぐぅ!!」

 しかし違いはそれだけではなかった。

 シンラの体に残っていた魔力。ホムラから与えられたその《炎》の魔力の大半が持ち主の元に帰った。

 しかし、シンラはわかっている。彼女は奪ったのだ。その力を。

 これで勝負は苦しくなった。

 そうシンラは痛感し、改めて魔法出力器(デバイス)を握り直す。

「魔術師の愛の語らいは、互いを喰らい合うように……」

 赤く輝く炎の申し子は歌うように、呪文のようにその言葉を告げる。

「おいで、愛弟子(マイスター)


 意外に早く出せました。

 次回は師弟対決です!


 キスはありません!!!

 残念!!


㊟誤字脱字がありましたので修正しました。

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