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魔法の味はキスの味  作者: 長野晃輝
2章 京都編
27/29

11 敵対→友情?

神(読者様)よ……遅筆な私目をお許しください……


 それはシンラにとって賭けだった。

 波光来は彼に残った光属性の魔力を全て消費させた。

 それはすなわち彼にはもう光属性の魔術を使えないということだ。

 彼に残されたのは相性的に悪い炎の魔力だけだ。

 だが、彼の魔術は炎だけではない。

 魔術の式を吸収する術、無属性魔術がある。


 如意の一撃を魔力強奪者エレメントスティーラーは手首に付けた腕輪型デバイスで防いだ。

 金属の砕けるような音と共に、骨も砕けたような痛みが走る。

(こいつもさっきの鉄鋼手の奴と同じ、移動魔術を!)

 痛む左手で金属棒を弾き返す。

 シンラが体勢を立て直すよりも早く、魔力強奪者は魔術を使おうと再び指で文字を刻み魔術を発動する。

 水壁。

 水の壁を作りだし、敵の侵入を防ぐ水属性の魔術。

 しかし、現れた水の壁はゆらゆらと揺らぎ、ついには割れた水風船から落ちる水のように一気に重力に従って床に崩れ落ちた。残った水は床を濡らすことなく消失する。

 魔術の誤発ミステイクだった。

(っ! やっぱ、魔法出力器がイッてやがる!)

 左手の腕輪型デバイスを見ると、ひびが入り、一部表面が剥離していた、

(今の一撃で壊れるほど軟なデバイスではないはずだけど、くそ!)

 魔術が誤発した以上、腕輪のデバイスを使って魔術を行使するべきではない。

 水壁は壁の崩壊程度で済んだものの、もし攻撃性のある魔術が誤発すれば、魔力強奪者自身にも危険が及ぶ。

 それは避けるべきだ。

(そうなると……俺に使えるのはこいつだけか)

 既に魔術式が発動し、安定している吸収剣ディオクーパーには影響はないが、魔生糸の魔力を使った魔術と自身の水属性の魔術が使えなくなってしまった。

(何の因果かね~。最期にお前さんに頼ることになるなんて)

 追い込まれてはいたが、彼は負けるとは全く思っていなかった。

 魔術師である限り吸収剣の前では無力だ。

 魔術を吸収する絶対的な彼の矛であり盾である吸収剣の前では、全ての魔力は等しく無力なのだから。



 如意の一撃を防がれたシンラの行動は早かった。

「はああああ!!」

 すぐさま如意を引いて、掛け声とともに突きを放った。

 狙いは胴体の鳩尾。

 カチリと何かがはまったような音が静かに響く。

 しかし、突きを躱すことに全神経を注ぐ魔力強奪者にはそれが何なのか気にする余裕はない。

 突きを躱されたシンラは、突き出した方の如意の持ち方を逆さにして、付きを躱した魔力強奪者の脇腹を狙い、横一文字にそれを振った。

 突き出した如意が魔力強奪者の脇腹にヒットする。

 魔力強奪者の口から苦痛に満ちた息を漏らすが、その場に踏み留まった。

(流石に一撃じゃ仕留められないか……)

 間髪入れずに如意を振うが敵は素早い身のこなしで回避した。

 彼はそのままバックステップで距離を取ろうとする。

(距離を取られれば、こっちの負けだ!)

 既にシンラには魔力がほとんどない。

 もし使えたとしても、相手の吸収剣がある限り、王手チェックメイトをかけるには一切魔力を使用することはできない。

 防御にも、攻撃にも全く。

 シンラは躊躇なく前へと踏み出した

「はああああ!!」

 気合の籠った一声とともに繰り出された突き。

 狙いは敵の鳩尾。

 しかし、紙一重で躱されてしまう。

 躱したことで少し余裕が産まれたのか、魔力強奪者の表情が緩む。

(反応が速い!)

 おそらく先程と同じ攻撃は読まれるだろう。そうなれば今度こそ距離を取られてしまう。

(仕掛けるならここだ!)

 シンラは床を両足で思いっ切り蹴った。


 近接戦闘で最長の攻撃距離を誇るのは間違いなく拳銃である。ついで投擲武器。槍の類が挙げられる。

 では逆に近接戦闘で最短の攻撃距離を持つ武器とはなんだろうか。

 答えは身体だ。

 己が身体こそが最も短い有効攻撃範囲を誇る。

 シンラの武器でもある魔法出力器「如意」は特殊機構によってその長さを変える。それによって純粋な近接戦闘で反則的なまでの優位性を生む。

 だが、それにも弱点はある。

 それは手に握る武器である以上、手よりもリーチが長いことだ。

 純粋な格闘の間合いに入ってしまえば、例え如意を持っていても有利とはいえない。

 短いリーチを補う有利点が身体を使った格闘にはある。

 それはその短いリーチに入っていれば、ほかのどの武器よりも早い攻撃を行えることだ。


 床を蹴ったシンラはすぐに肩を魔力強奪者へ向ける。

 所謂ショルダータックルだ。

 シンラの肩が魔力強奪者の胸部へ突き刺さる。当然シンラの肩にも鈍い痛みが走る。

 だが気にしている暇はない。このまま押し倒して、その間に術を撃ち込まなければならない。

 だが、予想に反して魔力強奪者は押し込むことができなかった。

 単に鍛えているためか、それとも体格差故なのか。

 シンラは歯噛みした。

(なら無理やりにでも解術魔術をぶつける!)

 左手で彼は図示魔術グラフィックスを描く。

 描いた図形をそのまま押し付けるように魔力強奪者の右手の術式へと手を伸ばした。

「やあっ!!」

 気合いの一声と共に術を放つ。しかし。

「甘いっ!」

 押し倒されたところを踏ん張り堪えているという無理な状態だというのに、腕を引きながら体を逸らし、魔力強奪者は攻撃を躱そうとした。

 さらに魔力強奪者は左手でシンラの身体を押し、支えにするようにして体勢を立て直そうとした。

 これではシンラだけが倒れ、魔力強奪者は立ったままという状況になってしまう。

 そうなれば魔力の無いシンラには魔力強奪者に勝つ方法も無い。

(もう、だめだ)

 そうシンラは諦めかけていた時だった。

光漣乗こうれんじょう!」

 それはシンラの唯一無二の友。御子柴銀声だった。

 詠唱魔術スペルによって発動した魔術で銀は魔力強奪者の足元に、俯せのまま移動した。

 光漣乗はシンラが「波光来」として模倣した魔術の原型。波光来と同じように魔力により擬似的に実体化した光によって高速移動する術だ。

 銀の光漣乗はシンラが見様見真似で模倣した波光来よりも抜群に安定した魔術だ。移動の際に生じる体への負荷を減らし、さらに魔力の消費量も少ない。

 大本は彼の魔術なのだから当然と言えば当然である。

 移動した銀は魔力強奪者の足を掴んで、そのまま転倒させた。

「なっ!?」

 魔力強奪者はその時になってようやく銀が足元にいることに気が付いた。

 それも無理はない。光蓮乗の発動と詠唱が聞こえるまでのタイムラグはほとんどないに等しい。

 詠唱が聞こえた時には既に移動は完了しているのだ。

 だからこそ、魔力強奪者は為す術もなく転倒した。

 シンラもまた横転したが、すぐさま起き上がり、魔力強奪者の右手を掴んだ。

「これで終わりだ!」

 解術魔術が魔力強奪者の右手の魔術・吸収剣を破壊した。

 世界中の音が消失したようにシンラには思えた。

 勝ったのだ。

 シンラ・ミトセは魔力強奪者に勝つことができたのだ。

 思わず気が抜けてしまった。そして、同時に体中がズキズキと痛みだした。

 波光来を使った反動に今更体が悲鳴を上げ始めたのだった。

 痛みで一瞬体の力を抜いたその瞬間、様々なことが起きた。

 魔力強奪者がシンラの腕を握りしめ、銀の鉄鋼手をはめた腕を蹴った。

「ぐっ!」

 シンラの身体の関節という関節が悲鳴を上げたように痛む。

 腕を骨ごと握り潰してしまいそうなほどの握力で締め上げられた。

 痛みでシンラは魔力強奪者の腕を放してしまった。

 ほとんど同時に魔力強奪者は銀の顔へ向けて蹴りを放った。

 銀は両腕で顔を守るため、魔力強奪者の足から手を放す。

 金属と人体がぶつかる乾いた音が響いた。

「銀!」

 苦しいそうな吐息と共にシンラは銀の名を呼んだ。

「いやいや。ホントいいとこまで行ったよ? 君たちは」

 シンラの腕を放して、魔力強奪者は立ち上がった。

 シンラはすぐに立ち上がろうとしたが、魔力強奪者は彼の腹部に強烈な蹴りを見舞った。

「ぐはっ!」

 腹部を抑えシンラは蹲った。

「でも、決定打が足りないな。俺はまだ健在だし、この吸収剣も……」

 シンラを見下ろしつつ魔力強奪者は詠唱を唱える。

「魔力を喰らえ。吸収剣!」

 しかし、彼の右手に輝く光刃が現れることはなかった。

「なに?」

 数回詠唱を唱え直しても吸収剣は発動しなかった。

「お前……何を、!?」

 シンラの胸倉を掴みあげようと迫る魔力強奪者の眼前を握り拳ほどの氷の礫が通過した。

 冷や汗を流しながら、氷が来た方向へと顔を向ける。

「……」

 ヘルが氷の礫を周囲に漂わせながら、睨み付けていた。

「……なるほど」

 にやりと魔力強奪者は微笑んだ。

「……二人に触れたら、あなたの頭をこれで砕く」

 淡々と宣言したヘルだが、その瞳には荒々しい炎が渦巻いているように鋭い光が宿っていた。

「ここらが引き際か」

 魔力強奪者はヘルを睨みながら後退して行く。

 それを見てもヘルは油断なく敵の顔を睨み付けたままだった。

「おい。そこの少年。君の名前を聞きたい」

 後退りしながら魔力強奪者は尋ねた。

「お、俺か? ……シンラ」

「森羅ね……。お前とまたいつか戦いたい」

 えっ? とシンラが言う前に、ヘルが「引くならさっさとしなさい。でないと……」と絶対零度の声音を出したことで、口を閉ざした。

 なんだかヘルはうかつに触れられないほど怒っているようだった。魔力強奪者に勝てなかったことが悔しかったのだろうか。

「おおこわ。森羅! 再戦の約束に俺の名前を憶えておけ!

 俺は千里せんりだ! 次会ったときは魔力強奪者エレメントスティーラーなんて品の無い名で呼ぶなよ! って!」

 しびれを切らせたのかヘルが数発氷の礫を放った。

「やめろ! お、俺は約束を守って、びゃあああ! いいい、今頭狙ったろ!?」

「さっさと消えなさい!」

 魔力強奪者改め、千里は「おおお、覚えてろよおおお」と叫びながら廊下の向こうへ消えて行った。

 さっきまでの凶悪さ加減とはかけ離れた姿に、その場に残されたシンラたちを何とも言えない空気が包んでいた。

 しかし、その空気も勝利によって得られたものだ。

 シンラは銀とヘルと顔を合わせ、ようやく表情を緩めた。


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