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魔法の味はキスの味  作者: 長野晃輝
2章 京都編
17/29

天秤たちの暗躍 2‐2

 この小説はフィクションです。


 コメディ(特にラブ要素)が、……足りない

     ♎♎♎♎♎♎♎



 魔法陣に乗り、寝台特急よりも速く京都へ彼らは飛んで行った。

 魔法陣はどうやらその中は完全に周囲から切り離されているらしく、座ることも寝そべることもできた。

 アッセルは未だに熟睡するアイナを横に寝かし、手元で何やら図示魔術らしき宙に浮かぶ図形を操作していた。

 どうもこの魔術でアッセルが全ての魔法陣を操作しているらしく、残りの三人は何もすることはなく、夜明けを迎える京の山々を眺める。

「これからどこに行くんだ?」

 眞左人はそれにも飽きてしまい、アッセルに尋ねた。

「軍が京都で俺たちを待ってる。一応場所は指定されてるが……」

「いや、そこまで正確な情報はいらないんだが……」

 そうか、とアッセルは興味なさ気に、といってもおそらく事実興味がないのだろう、呑気に欠伸を一つした。

 やっぱ、なんか調子狂うんだよなと眞左人は肩を竦める。

「俺たち、何しに行くんだっけ?」

「えーと、……確か人探しでしょう?」

 瑞樹は昨日、アッセルが見せたあの写真の少女を思い出しながら言う。

「いや、それはあくまでも序でだ」

「え!?そうなのか?」

 アッセルから話を聞いていないリーナは首を傾げていたが、三人は気にすることもなく話を続ける。

「何のために俺たちが軍服を着てると思う?」

「それは……、軍に紛れるため?」

 おずおずと瑞樹が答える。

「当たらずとも遠からず。俺たちはこれから軍に協力する」

「協力ってどういうことだよ?」

 射殺すような鋭い眼光と深淵まで響くような低い声で眞左人は尋ねた。

 リーナどころか付き合いの長い瑞樹までが恐怖を感じるような雰囲気を纏った彼に、やはりアッセルは飄々としたように笑う。

「大したことじゃない。陰陽師と戦うだけさ」

「……陰陽師?」

「陰陽師って、安倍清明とか?」

 瑞樹は日本で最も有名であろう陰陽師の名を挙げて確認する。

 魔術師というフィクションのような存在が一般化した現在でも、陰陽師などと言う存在は未知のもので、普通そんな存在を口に出されれば疑いたくもなるものだ。

「……多分、お前の想像してるような陰陽師は実在しないぞ」

「じゃあ、どんな奴らなんだ?陰陽師ってのは?」

「長くなるぞ」

 それでもいいのか、という言葉は言わずともその場のものは全員心得ていた。

「???」

 リーナという例外を除いて、だが。


「陰陽師は歴史上のものと、今魔術師と敵対しようとしてるものは全く違う」

 歴史上彼らは西洋のシャーマンや風水を用いた占い師のような役割に加え、暦を読む(かつては太陰暦だったため、月の満ち欠けなど星を見ることは重要だった)役割もあったという。

 ちなみによくフィクションで描かれる魑魅魍魎を討伐する陰陽師については、それは俺の知るところじゃないとアッセルは何故か威張って返答した。

「だが、これから出会うであろう陰陽師は、魔術師とそう変わらない。大雑把に言って魔術みたいな術を使うそうだ」

「ウソだろう?」

 嘲笑じみた鼻笑を混ぜて眞左人は言い返す。

「『この世は物理法則で縛られている。故に人の思うように万物を変化させるためにはその出力が必要である』

 グラム・ジュリアの有名な論にもあるじゃねーか。俺たち魔術師は魔力をその出力にして魔術を発動することができる。陰陽師たちは一体何を出力にそんな力を使うって言うんだ?」

「これが唯一歴史の陰陽師と現代の陰陽師に共通することかもしれないがな。奴らは風水の地理的要因から力を引き出すんだ」

 前を見ているアッセルには、後ろを飛ぶ眞左人の顔が見えなかったが、おそらく眉を顰めて首を捻っているのだろう。

「その引き出した力は一体何なの?」

「単純だ。星の力」

 瑞樹の質問に対してアッセルは淡々と返した。


『星?』

 意図せず瑞樹と眞左人の声が重なる。

「そう星。まあ、陰陽師たちはそんなこと意識してないだろうけどな」

 何故そんなことをお前が知っているのだと二人してその背を半眼で凝視してしまう。

 まあ、どうせ「異世界人だから」などと言われはぐらかされるのだろうと二人は今しばらく我慢することにした。

「ガイア理論とかいろいろ組み合わせるとそういう結論に行きつくんだよ」

 ガイア理論とは地球という星と、その中の生物や環境を一つの大きな生命とみなすもので、それぞれが関係して調和のとれたシステムのように機能するという仮説である。ガイア仮説とも呼ばれる。

 二人が理解したのかアッセルは様子見たが、考え込んではいなかったので話を進める。

「というよりも、そうと結論付けざるを得ない。俺も実際に見たわけじゃないが、陰陽師ってのは本当に何もないところから炎を出したっていうんだよ」

 実際魔術師が見ても、魔力は欠片も感じられず、また数値化で見ても魔力らしき数値はなかったと言う。

 だが、確かに陰陽師は何かの力を引き出して、具象を起こしていたのだけは分かったという。

「……なんかすごいのと戦うのね」

 瑞樹は実感がないからか、他人事のように話していた。

Notそれほど muchでもない。タネも仕掛けもあるんだ。奴らは条件を整えないと力が引き出せない。例えば東西南北に四方神の模った置物を置かないと力が使えない。あいつらは下準備に時間が掛かるんだからな」

アッセルは面倒臭そうに頭を掻く。

「ただ、俺たちはあいつらのホームに行くんだ。その手間もあってないようなものかもしれないな」

 アッセルは誰にも聞こえないようにそっと呟いた。


 彼らが京都に到着した時、東の山の頂上に太陽が鎮座しているように太陽の弧と山の先端が重なっていた。

 空から見る京都は四方が山に囲われていて、典型的な盆地の地形をしていた。街並みは大通りだけを辿れば確かに碁盤の網目のようだった。

 アッセルは町を見渡し、明らかに雰囲気から浮いている黒いワゴン車を見つけた。

 十台から二十台ほどぞろぞろと大通りを進むそれらをアッセルは追いかけるように魔法陣の速度を落とすように図示魔術を調整する。

「あれは?」

 眞左人は魔法陣から身を乗り出すようにしてワゴン車を指さす。

「軍の車両だよ」

「何でそういうことが分かるんですか?」

 些か退屈していたのか腕を頭上に伸ばしていた瑞樹が言う。

「事前情報かな。軍の中にも俺たちの協力者もいるから、そいつに聞いた」

「……なんかいろんなところに仲間がいますね」

「まあな。各々勝手にやってくれてるさ」

 アッセルはどこか皮肉っぽく笑ったが嬉しそうでもあった

 加入当初はアッセル一人の才で成り立っているようであったが、どうやらそういう訳でもなかったらしい。

 それは、アッセルの、正裁の天秤の意思に賛同した人々が努力した結果なのだろうか。眞左人はふとそんなことを考えていた。

「……ていうか、場所を指定されてるんじゃないんですか?」

「ああ、そうだ」

「だったら、何でそこへ行かないんですか?」

「くっくっく、誰が馬鹿正直に指定された場所に行くものか」

 あくどいと言うよりはイタズラする子供の様に笑いアッセルは言ってのけた。

「……いいんですか?」

 眞左人は鈍い頭痛を感じて眉間を指で揉み解した。この人何がしたいんだよ。

「覚えておけ。相手が用意した場所に出向くのは、信頼できる相手じゃなければ止めておけ」

 彼は息を呑むような迫力ある真顔で言う。

「軍は味方じゃないのか?」

「どちらでもない。だからこそ油断してはいけないんだよ」

「そうか……。でも、俺たち軍に協力するんだろう?最初からそんな警戒心丸出しで、信頼されないんじゃないのか?」

 もしも信頼されなければ、自分たちのようなどこの馬の骨とも分からない者たちが、今陰陽師とごたごたを起こしている軍に協力させてもらえるとは思えない。むしろ敵かと疑われても仕方ない。

 しかし、アッセルは不敵に微笑んだ。

「そうならないように手は打ってある。軍の上層部のあいつら・・・・が無視できないようにな」

 眞左人はくっくっくと悪役みたいに笑い始めたアッセルの背を見て、重い溜息を吐いた。

 そんな時、ピピピと電子音が鳴った。

 それはアッセルの携帯の音だった。

 アッセルは茶色の外套の下から携帯を取り出し、通話ボタンを押した。



 一方その少し前。

 アッセルに命じられ九州での科学実験を視察していた白葉孝広は宿を抜け出していた。

 木造建築の小さな民宿の振りをした海底都市への入り口を背に彼は、手元の地図を見る。

 それは研究施設のお披露目の際に渡されたもので、海底都市の施設の地図だ。

「数値化」

 孝広は呟き、魔術を発動させる。

 シンラも多用する数値化だが、孝広のそれは特に遠距離の座標を数値として認識できる。

 それは空間に関わる界属性の魔術を使う孝広にはなくてはならない魔術だ。(もっとも彼は目に見える範囲なら問題なく魔術を使えるのだが)

 目指すは海底都市の西側に位置するFブロック。そこでは主にバイオ技術について研究しているという。

 胸の内ポケットにしまった白く細長いタクトを取り出す。

 そして、海面に向かってそれを振った。


 影縫いという魔術はタクトを移動する位置に振ることで発動する。

 しかし、タクトを振るのはあくまで方向を自身に強く認識させるためだ。

 彼の使う挙動魔術とは一つの行動に一つの魔術の発動を自身に刷り込み使用可能となる魔術発動法である。

その挙動を自身に刷り込む段階で、魔術と挙動に関連性を持たせた方が刷り込みにかかる時間は短縮される。

 例えば藤原眞左人の加速は小太刀を抜くと行動から、物事の起点という点と加速の始まりを共通点として刷り込んでいた。

 数値化で見た座標にタクトを向け、彼は空間と空間を繋ぎ、一瞬で飛んだ。

 タクトを懐に収め、孝広は「解除」と小さくつぶやいた。数値で表せられていた視界が元の光と色の世界に戻る。

(どうも数値化は慣れないな)

 やはり普通の方がいいなと思いながら孝広は周りを見渡す。

 そこは廊下で、左右の道は緩やかにカーブを描いて、天井は異常に高かった。

(そういえばここはドームのような形だったな)

 地上と行き来する際に何度も見たことだが、この海底都市はブロックごとにドーム状の建物が七つある。中央には電力や都市内の酸素の供給など都市の設備をコントロールするAブロックがあり、その周りを残りのBからFブロックが囲んでいる。それぞれのブロックには隣接するブロックに通じる通路があり、それは大きな六角形を模っている。中央のAブロックだけは全てのブロックに通じるように六つの通路が作られている。

 孝広は天井を見上げた。

 半透明のドームの天井から漆黒の宇宙のような海中の様子が覗けた。太陽の光が届かないほど海底でもないはずなのだが、太陽が顔を出さず月も沈んでいるこんな早朝では星の光しか空にはない。その弱々しい光ではここまでは照らせないのだ。

 次に壁を見る。

 片方の壁には覗き穴のような窓が作られていて、そこからは海底の様子が見ることができた。

 反対側にはそのようなものはなく、どうやら個人の研究室らしく、名前の書かれたプレートがあった。

 ただ、何処を見ても扉らしきものも、認証装置のようなものもないので一体どうやって部屋に入るのか孝広には見当もつかなかった。

(……とにかく探すか)

 文句の言っても仕方ないので、孝広は円の端を歩くような気分を味わいながら廊下を進んだ。

外周がどれほどあるのかは分からないが孝広の予想よりは早く目標の研究室の前に辿り着いた。

 やはり扉も何もなく、孝広よりも頭一つ低い位置に掛けられたプレートには『新島にいじま四音しおん』と書かれていた。

(新島、四音……。間違いなさそうだな)

 事前にアッセルに指定されていたことは二つ。この研究施設の研究内容の確認と、この研究室の主、新島四音という女性に正裁の天秤として・・・・・・・・コンタクトを取ることだった。

(一体何を考えているのか知らないが……。こんなことをしていいのか?)

 もちろんよくない。

 孝広は元が付くとはいえ警察組織の、それも一つの部署を任されていた人間だ。まさかその人物がこうして盗人のようにこそこそ忍び込むことになるとは夢にも思わなかった。

(すまん。美玲みれい。……父さん、犯罪者になっちゃった)

 今は遠き愛娘の無邪気な笑顔を思い出しながら、それでも部屋の中へ移動するため界の魔術を発動させる。

 数値化によって壁の厚さなどを計算に入れ、彼は座標から座標を移動する。

 移動した先の部屋は生活臭のしない、真っ白な部屋だった。

(明かりがついている?)

 慌てて周囲を見渡したが、人影はどこにもなかった。

(……留守?)

 しかし明かりはついている。落ち着いて部屋を見渡してもやはり誰もいなかった。

 部屋は壁紙も床も天井も白く、さらにテーブルも可動式の椅子などの家具もまた全て白に統一されており、病院のようにどこか無機質なイメージを与える。

 しかし、辺りに散乱している服や装飾品、本やルーズリーフ、資料類。フラスコや試験管などがその印象をぶち壊していた。

(これは、つまりこの部屋の主がそういう性格だと言うことか)

 無頓着、あるいは一つの事に執着すると他の事は気にしないのだろうか。

 少し奥には更なる扉があった。〈study office〉とプレートが掛けられているため、どうやらその先は研究室らしい。

 突如として扉が開いた。

 そこから髪をターバンのようなもので保護し、マスクで顔を覆い、白衣を身に纏った細身の女性だった。

 意表を突かれた孝広だったが、落ち着いてすぐにでもタクトに手を伸ばせるように構えを取った。

(さすがに騒がれでもしたら厄介だ)

「こんな朝方から一体何の用なのかしら?」

 しかし、その女性はマスクを取りながらむしろ余裕に満ちた姿で微笑みながらそう言った。




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