表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の味はキスの味  作者: 長野晃輝
2章 京都編
11/29

1 寝台特急

 この小説はフィクションです。


 釣り、なのだろうか?


 ようやく追加いたしました。いつもより少なめですがご容赦を。

     ☽☽☽+❀❀❀


 京都へは寝台特急を使って向かうことになった。

 最も早い上に、資金に拘らなければ快適な旅を送れるためである。

 一応日本最強の魔術師の一人であるホムラは仕事をしなくても暮らせる経済力を持っていたりする。

 加えてこの旅自体軍の仕事なのでホムラは軍宛てで領収書を貰っている。ちなみにその他のメンツはその様子を見て見ぬふりをしていた。



 二段ベッドが二つ備えられたプライベートを確保した寝台車の一室。男女別にしようとシンラが頑なに主張したため、ホムラは別室で一人寂しくいるはずである。

 しかし、男女別のはずなのだが……。

「……どうしてこうなった?」

 呟いたシンラに両腕を巻きつけるようにサクラが抱き付いていた。

 彼女は上機嫌なようで、今にも鼻歌を歌いかねないほど幸せそうな顔をしていた。

「精霊は、物理法則に従えないんですよ~。だからこうして、抱き付いてないとわたし電車で移動できないですから」

 すりすりと顔を腕に擦り付けるサクラは小動物っぽく、はたで見ている銀は正直可愛いと思いながらその様子を見ていた。

 そんな銀の精霊である猫の姿をした《アルテミス》は彼の肩に爪を立ててしがみついている。おそらくホムラの精霊の《天照》も似たような格好で彼女の体を攫んでいるのだろう。

「……主よ。あなたは僕の自制心をどこまで試すのですか?」

 精霊とはいってもサクラの外見は美少女そのもの。腕に感じる柔らかさや、仄かに香る甘さなどは少年には刺激的過ぎた。

「気持ちは分かるが、壊れるなよ」

 気の毒そうな表情で銀は祈り始めたシンラをたしなめる。

「……悪いけど少し寝るから」

 シンラは一言断りを入れ、サクラを引っ張るように連れながらベッドに座り込んだ。

「ああ、頑張れよ」

 この状況では別の意味と捉えられそうな銀の言葉だったが、シンラはその意を正確に汲んだのか、軽く空いた手を上げてカーテンを閉めた。

『あなたはどうするの?銀?』

 眠たそうに欠伸をしながら《アルテミス》は尋ねる。

「俺はまだ眠たくないし、食堂車で何か飲んで暇を潰すさ」

 彼はそう返し、部屋のスライド式の扉を開いた。

「……」

 出る前にシンラとサクラが入ったベッドを一瞥し、彼は部屋を出た。

 別車両に移ろうとした時、「ちょ、サクラ!腕を噛むな!!」という叫びが聞こえた気がしたが、銀も《アルテミス》も気にせずに食堂車を目指したという。


     ♎♎♎×☽☽☽


 正裁の天秤ジャスティバランサーのメンバーたる青年・藤原眞左人は食堂車で目を点にしていた。

「はむはむ。……あ、瑞樹さん。そっちのチョコパフェも一口ください」

「いいわよ。代わりにそっちの抹茶パフェを貰うからね」 

「二人だけずるいです~。わたしにもください~。メロンパフェあげますから~」

 六人掛けの食堂のテーブルの一つ、眞左人の正面でその光景は展開されていた。

 三人の美少女がパフェをあ~ンし合っているのだ。

 眞左人は知る由もないが精霊少女たるサクラとシンラ・ミトセの絡みも目の毒だったが、こっちもかなりの猛毒だった。

 ぶすーっとしながらコーヒーを味わう眞左人の隣に窓を眺める男がいた。

 片目でその青年を眞左人は見る。

 茶色の外套を脱ぎ、ひどく細身の黒い長袖とジーンズを身に着けた彼はアッセル・リーヒニスト。

 眞左人たち正裁の天秤のリーダーたる青年で、自己申告によると異世界人だという。

 アッセルは意外にも甘党らしく、ココアと持参したイチゴの練乳漬けという自作料理を食べていた。

「胸やけそうなメニューですね」

 少し皮肉を混ぜた言葉にアッセルは微笑んで、

「どうも最近糖分が足りない気がしてな」

 と返し、ココアを飲み干して笑う。

「ところで、みんなこれからのどうするのか、わかってるな?」

 口調を鋭く、表情も引き締めたアッセルは左前から順に顔を見ていく。

 彼の正面でチョコパフェを食べるポニーテールに結った稲妻のように青白い髪と、アメジストの瞳を持った少女は橋口瑞樹。

 彼女は眞左人が元々所属していた組織である人災警官隊テロル・キーパーズの一員だった。

 その隣で抹茶パフェを前に置いた少女はリーナ・リーネ。ルナタワーの事件の際、アッセルに救われた旧欧州人の少女だ。今は赤いコートと黒のスカートでお洒落をしている彼女は短い間に瑞樹と親交を深めたらしい。

 最後の少女はリーナと同様ルナタワーの住人だったアイナ・レフェルト。日本人と旧欧州人のハーフで、銀のショートストレートヘアと黒と灰色のオッドアイを持つ少女だった。

「これから俺たちは魔術の抗争の中に進むわけだからな、緊張感を持てとは言わないが、それを意識してくれよ」

「意識と言われてもどうすればいいの?」

 瑞樹は不満げにパフェのスプーンを振り回した。

「とりあえずは……」

 アッセルは自分の背後に目をやり、その青年を見ていた。

「目立たないようにしろ」

 ぼそりと呟きココアを口に含んだ。

「何ですかそれは……」

 三人は呆れたように目を細めながらも、彼の言う通り息を殺しながらも、食事を進めるのだった。



 御子柴銀は食堂車に入った途端に魔術師の集団を見つけていた。

 集団といっても、魔術師は見たところ二人だけのようだった。

 一人は青白い髪の女性で、彼女からは溢れんばかりの魔力を感じた。

 もう一人は黒髪の青年で、その髪の毛に引っ張るように掴む妖精のような小人が彼の目に映った。

(まあ、でも珍しくもないか。魔術師は日本の人口の三割強。公共交通機関に乗ればすぐ見つかるし)

 銀はなるべくその集団と顔を合わせないようにゆっくりと、しかし迅速に一番端のテーブルに着き、コーヒーをオーダーした。

 彼も多少名の知られた魔術師である。それ故の危険もあるのだ。

 身内である魔術師に襲われる危険だ。

 それには二つの理由がある。

 一つ所謂腕試しの為に、銀は時たま厄介ごとに巻き込まれることもあった。

 とにかく、認識の無い魔術師には関わらないのが吉だった。

 彼は手持ちの携帯を取り出し、メールを開いた。

 そのメールは陰陽師に関する報告だった。

 運ばれてきたコーヒーを受け取りながらも、彼の瞳はメールの文章を追う。

『陰陽師とは日本古来から存在する者たちですぅ。その役目はぁ、主にぃ占いとか暦読みとかだそーでーす』

 絵文字がふんだんに使われたそのメールをどこか微笑ましそうに彼は読み進めていった。

『最もそれはぁ表向きの話であってぇ、裏では今日の都の繁栄のため治水工事や、土木建築を指揮していたようですぅ。というのもぉ、陰陽師は風水学にも通じる点があったらしいですぅ』

 京都や奈良の都は、風水的に良いとされる配置をなされていた。古来の人々はより深く迷信や伝説、呪術を信仰していた。まるで今の科学のように。

『風水だけでなく、陰陽師は地理的な観点や伝承などに伝わる現象を起こしたと言われていますぅ。これは式神の力を用いた精霊魔術と解釈されてますがぁ、彼らはそうだとは認めていません~』

 どのような現象を起こすにしろ、それにはエネルギーが必要になる。人が体を動かすにも、空気が動くにも何かしらのエネルギーの働きがあってこそ、現象は発生する。

 魔術という現象は精霊がもたらす魔力というエネルギーが引き起こすものだ。

(なら、もし陰陽師が不可思議な現象を起こすことができるとした場合は一体何のエネルギーを使っているのか……)

 思考をまとめながら、銀はさらにメールを読み進める。

『今回の騒乱の原因は日本の首都についてだそうですぅ。風水的に首都東京は素晴らしい条件であるそうですがぁ、それもあと数年で変化するそうですぅ。それで陰陽師や京都出身の貴族は京都に首都を移せと要求しているそうですぅ

 でもぉ、日本政府はそれを聞き入れようとしてないらしいですぅ』

 それもそうかなと銀は納得していた。

 日本政府の中枢を掌握するのは科学派の貴族たちである。風水などという非科学的な問題を気にはしないのだろう。

『それで陰陽師たちは、「それならいっそ我々が日本を支配する!」とか言って反乱を計画中とのことですぅ』

(極端すぎるわ……)

銀は飲み干したコーヒーカップを置き、最後の文章に目を通す。

『追伸(ですぅ)。今度、お買い物に付き合ってくださいね。お姉さま(・・・・)

 彼はフッと空気が緩んだような笑みを浮かべ、返信を打った。

『お姉ちゃんに任せなさい。あゆみに似合うような服を見つけたから楽しみにしててね』

 携帯をポケットにしまい、ふと先程の魔術師たちの席を見ると、そこにはもう誰も座っていなかった。

 銀は特に気にした様子もなく、勘定を済ませて自分のベッドへと歩き始めた。



     ☀☀☀☀☀☀☀



 銀が食堂車へ向かってから五分ほどで、サクラは寝てしまった。

 煩悩との戦いのプロたるシンラは、精霊に睡眠は必要か否かという疑問を真剣に考えた結果、三十分で眠気に襲われ、何事もなく夜を過ごすはずだった。

 しかし、そんなことを認めるはずもない人物が一人。

 肩に寝息をたてる赤い小鳥を乗せた少女。紅ホムラ、その人である。

「ふふふ。旅の一夜というおいしいイベントをこのあたしんが見逃すはずないのよ」

 先日のサクラとシンラのキス以来、片時も離れようとしないサクラに(といっても契約精霊なので仕方が無いはずなのだが)、耐え難い嫉妬心に身を焦がしていた彼女はなんとしてもこの機会にシンラを振り向かせたいのだ。

(旅は人を開放的にする。つまり、今シンラ君に迫ればごちそう様できるかもしれないわ!!)

 じゅるっと滴る唾液を吹きながら彼女は、シンラが眠るベッドへ蛇のようににゅるっと潜り込んだ。

 そこはいつもと同じように温かく、心休まるような空間だった。

 ゆっくりと彼女はシンラの枕まで這い進む。

「……」

 そこでは横になった彼が、静かに眠っていた。

 安らかなその顔を見ているとホムラは何だか自分が急に恥ずかしく感じられた。

 計画を変更し、彼女はこのまま寝顔を眺めることにした。

(……シンラ君。ちょっと生き急いでるようで、あたしんを支えてくれた人)

 黙っていると昔のことを思い出してしまう。

 ホムラはそれを振り払うようにシンラの肩に額を付けた。そして、その細い両手を彼の腕に絡める。

 失うことを恐れているかのように、しっかりと離れないように握る。

 そこからシンラの体温がじんわりと伝わる。

 温かく、安心して瞳を閉ざすことのできる温度。

「極東の太陽」とも揶揄される炎の魔術師の彼女が求めた温度だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ