/斜陽の架かる一軒家。
―――くるくるくるくる。
くるくるくるとしながら家の鍵を差し込んで、くるっと回して玄関の扉を開いた。
「ただいまー」
いつも通りの挨拶をして、脱いだ靴は綺麗に整える。
返事はなかった。
「もう、また今日も遅いんだから。お兄ちゃん」
兄への不満を溢しながら、喉の渇いていた私は台所へ向かった。
「あー、また片付けるの忘れて。」
私のお兄ちゃんは朝は忙しい。何度注意しても片付けはしてくれないし、この前なんか戸締りも忘れていった。私が最初に見つけなかったら、一体どんな事になってんだろうと心配になる。
「もう・・・」
制服の上着を脱いで、私は袖を捲くった。
台所の片付けを終えて、更に洗濯も済ませてから、私は続けて夕飯の支度に取り掛かった。
「ふんふーん、ふふんふーん」
上機嫌に鼻歌なんか歌っちゃったりして。
「・・・ずず・・・うーん。もうちょっと濃い方が好きかな」
味付けを微調整する。勿論、お兄ちゃんの好みに合わせてだった。
夕食の準備をほぼ終えて、書置きもちゃんとテーブルの上に残した。
「うんっ、これでよし」
一度頷いてから、顔をあげて。
「あっ、もうこんな時間っ。急がないとお兄ちゃんが帰ってきちゃうよ」
時刻は夕方から夜に差し掛かる頃。遊びまわってるお兄ちゃんも帰ってくる時間。
―――くるくるくるくる。
もう時計は二周は回っていた。
あんまり遅くなるとお兄ちゃんが心配するだろうから、そう考えながら私は慌てて玄関の外へ急いだ。
がちゃり、と玄関の扉が私の目の前で開く。
「・・・・・・」
お兄ちゃんは挨拶もせず。私の姿を眺めた、学校の制服に鞄なんていう出で立ちを。
「おかえり、お兄ちゃんっ。今日も遅かったね、だめだよ、遊んでばかりいちゃ。勉強もちゃんとしてる?」
「・・・いや、お前」
「私?、私は遊びに行くんじゃないよ。帰るんだよ、あ、もしかして送ってくれるの?ミキ、嬉しいなぁ」
「誰だよ、お前?」
くるくるくるくる。
お兄ちゃんは私の事をわからないみたいだった。
「あはっ、ミキだよ?」
「だから・・・人の家でなにやってるんだって、言ってんだよ。おい、警察呼ぶぞ」
可笑しいな。可笑しいな。
「ちっ・・・とっとと出てけよ。」
オカシイナ。お兄ちゃんは私を放って、むしろ相手にする事自体がうっとおしそうに、私を避けて玄関をあがっていった。
「―――母さん、勝手に近所のガキ、あげてんじゃねぇよ」
そして、誰もいない食卓に向けて、吐き捨てるようにそう言っていた。
くるくるくるくる。
「ちっ、また今日もいねぇのかよ。」
リビングから顔を引っ込ませて、お兄ちゃんは悪態を吐くと。私をもう一度うざそうに見遣って。そのまま、二階のお兄ちゃんの部屋に踵を返していった。
「くるくるくるくる」
くるくるくるくる。
言葉に出して、私は鞄の中からソレを持ち出した。
「コレを見てくれたら、お兄ちゃんも思い出してくれるよね」
手の中で器用に回してみせる。
「ふふっ」
軽快なステップを踏んで、私は二階に続く階段を上った。
「なんだよ、俺になんか用かよ。ふざけてんじゃねぇぞ」
「あははー」
「・・・おい、それ」
「アハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「く、くるってんのか!?」
「くるくるくるくる」
ザクッ
「ぃ―――ぎゃあああああああああああああああああ」
BADEND.
誰の為の息抜きなのかよくわからなくなってますが。続けます。
今回の評価
「赤点です。状況をよく読みましょう。」
次回に向けて。
「両親不在で勝手にお邪魔する近所の子供は要注意。」