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小さい先輩と大きい後輩の温泉物語  作者: うみのうさぎ


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5/5

これって温泉回ですね

静香「有難うございました!」


最後のお客さんが退館すると

営業終了を告げる館内放送が切られ、「桜華」の館内は一気に静かになった。


静香がタイムカードを打刻する。

「カチッ」という音が、やけに大きく響いた。


須藤「お疲れさまでした」


須藤の声に軽く頭を下げ、静香はロッカーへ向かおうとする。


その背中に、萌香が声を掛けた。


萌香「静香ちょっと待って」


振り返った静香の表情は、まだ少し仕事モードのままだ。


静香「はい?」


萌香は一瞬だけ言葉を選び、それからいつもより柔らかい声で言った。


萌香「温泉、入って行かない?」


静香は、きょとんとする。


静香「えっ、私たちが入ってもいいんですか?」


萌香「今日はもう閉館後だし。朝の掃除でお湯は全部入れ替えるから大丈夫よ

 それに疲れたでしょ」


静香は一拍置いて、ぱっと表情を明るくした。


静香「行きます!」


即答だった。


静香「これって温泉回ですね、先輩!」


そう言いながら、視線が自然と萌香の方へ向く。


静香「……先輩と一緒に入るの、ちょっと楽しみです」


萌香は、それを聞いて小さく息を吐いた。


静香「温泉回って何を言ってるのよ? 職場なんだから毎日が温泉回じゃない」


そう言いながらも、胸の高まりを感じていた。


閉館後の浴室は静けさの中で浴槽へ注がれるお湯の音だけが響いている。


体を洗おうと萌香が、腰掛けに座ろうとしたときだった。


静香「先輩」


静香が、少し躊躇いがちに声をかける。


静香「背中……流します」


萌香は一瞬、目を瞬かせた。


萌香「えっ?」


静香「その……いつも助けてもらってるので」


そう言って、静香は桶を手に取る。

断られると思っていたのか、表情は少し緊張していた。


萌香は短く息を吐き、肩の力を抜く。


萌香「……じゃあ、お願いしようかな」


静香はほっとしたようにうなずき、萌香の後ろに回った。


シャワーの音が、一定のリズムで続く。

泡立てたタオルが、そっと背中に触れる。


静香「初めて会った時は」


静香が、ぽつりと話し始めた。


静香「一目見て、すっごくかわいい子だなって思ってました。

 本気で年下に見えて……」


萌香は何も言わない。

ただ、身を任せる。


静香「でも、一緒に仕事してフロントでの動きとか、

 リネンでの段取りとか、

 見てるうちに……」


手の動きが、少しだけ丁寧になる。


静香「この人、ちゃんと周りを見てるんだって」


静香は続けた。


静香「怒られても、逃げないで、

 ちゃんと覚えてきた人なんだって」


萌香の背中に、温かい湯が流れる。


静香「それで……」


静香は言葉を探すように、一拍置いた。


静香「見た目は可愛いのに行動とか考えは大人みたいで。

 そのギャップで……」


声が、小さくなる。


静香「……私は先輩の事を、」


そこまで言った時だった。


沙織「2人とも」


湯船の方から、落ち着いた声が飛んでくる。


「仲がいいのは結構だけど」


2人が同時に振り向くと、

湯船に肩まで浸かった須藤沙織が、こちらを見ていた。


沙織「いつまでも洗いっこしてると、風邪ひくわよ」


静香は、はっとしてタオルを下ろす。


静香「す、すみません!」


萌香も小さく頭を下げた。


萌香「今、行きます」


須藤はふっと息をつき、湯に肩を沈め直す。


沙織「明日は2人とも早番でしょ、さっさと温まりなさい」


その言葉に、浴場の空気が少しだけ緩んだ。


萌香は立ち上がり、静香に目配せする。


萌香「続きは、また今度」


静香は少し照れたように笑う


静香「……先輩、それってどういう意味ですか?」


二人は並んで、湯船へ向かう。


萌香「今は話はいいから、私と一緒に来て」

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