ミスした人ほど、覚えるから
乾いたバスタオルをバスケットに詰め、2人はリネン室に戻った。
萌香は一枚手に取り、三つ折りに畳む。
端を揃え、空気を抜く。
それを貸し出し用のバッグに、向きを揃えて入れていく。
静香も隣で同じ作業を始めた。
少しだけ不揃いだが、数をこなす内に、段々と整っている。
しばらく、タオルが擦れる音だけが続いた。
萌香「さっき」
萌香が、手を止めずに言った。
萌香「裏の仕事の方が好きって、言ってたよね」
静香の指が、一瞬だけ止まる。
静香「……はい」
萌香は顔を上げない。
問い詰めるつもりはなかった。
萌香「どうして?」
静香は、畳みかけのタオルを見つめたまま、少し考えてから口を開いた。
静香「フロントで……怒られるのが、結構つらくて」
声は小さい。
「言い方がきついお客さんとか、ロッカー位置に対するクレームとか。
私、何が悪かったのか分からないまま謝ることもあって……」
萌香は、次のタオルを取る。
萌香「うん」
それだけ言って、続きを促す。
静香「間違えたのは私なんですけど、
一度怒られると頭が真っ白になって、またミスしそうで……」
静香は、ぎゅっとタオルを握った。
静香「だから、裏の仕事なら、
怒られたり、お客さんのクレームとか無いから良いなって感じがして」
萌香は、三つ折りを終えて、バッグに入れる。
萌香「私も」
ぽつりと、言った。
萌香「最初の頃、毎日のように怒られてた」
静香が顔を上げる。
静香「え?」
萌香「ロッカーの選び方も、
下足箱とロッカーキーの管理も、
お客さんへの言葉遣いも」
萌香は、少しだけ苦笑した。
萌香「同じこと、何回も間違えてた」
静香「……先輩が?」
萌香「うん。今の静香と、ほとんど同じ」
静香の目が、はっきりと見開かれる。
静香「全然、そんなふうに見えないです」
萌香「見えなくなっただけ」
萌香は言った。
萌香「未だに偶にミスもするし、クレームを言われる事だってある
ただ、怒られる前に気づけるようになっただけ」
静香は、ゆっくりとタオルを畳み直す。
静香「私も……そうなれますか」
萌香「なれるよ」
即答だった。
静香「ミスした人ほど、覚えるから」
静香は一瞬黙り、それから小さく息を吐いた。
静香「……先輩も、同じことで悩んでたって知れて、
ちょっと安心しました」
萌香は、最後のバッグを閉じる。
萌香「一人で抱えなくていい」
そう言って、初めて静香を見る。
静香は、少し照れたように笑った。
静香「ありがとうございます。
……私、もう少し頑張ってみます」
萌香「うん、焦らずに私について来てね」
リネン室に、並んだタオルは最後の1枚だけが、完璧に折り目が揃っていた




