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小さい先輩と大きい後輩の温泉物語  作者: うみのうさぎ


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3/5

表の仕事 裏の仕事

フロントの時計が、夕方5時を指した。


フロント内側の事務所扉が開かれる


沙織「ここからは私がフロント入りますね」


黒髪ロングヘアで眼鏡を掛けた女性がカウンターに入る。

須藤沙織 三十二歳。この温泉施設「桜華」の業務全体を把握している社員で、主に事務所内で勤務しているが防犯モニター越しに現場各所を把握している。


萌香「お願いします」


萌香が一礼すると、須藤は一瞬その小さな背を見下ろし、いつものように淡々とうなずいた。


沙織「リネン、溜まってるでしょ。二人で行ってきて」


萌香「はい」


萌香は静香に目配せする。

静香は「了解です!」と元気よく返事をして、カウンターの内側を回り込んだ。


リネン室に入ると、空気が変わる。

湿気と洗剤の匂いが混ざった、作業場の匂い。


リネンルームの洗濯機は、ちょうど止まったところだった。

蓋を開けると、洗い立てのバスタオルが顔を出す。


静香「うわ、これ全部バスタオルですか?」


静香が素直に声を上げる。


萌香「濡れたタオルは重いから、無理しないで」


萌香はそう言いながら、慣れた手つきでタオルを取り出し、バスケットに整えて入れていく。

畳みはしない。干す前提のまとめ方だ。


静香も見よう見まねで続くが、どうしても詰め込みがちになる。


静香「バスケットと言えば、私バスケ部でしたから体力には自信あります!」


萌香「詰めすぎると、運ぶとき落ちるよ」


静香「あ、ほんとだ……」


静香は慌てて入れ直した。


バスケットを二人で持ち、隣の機械室へ移動する。

同じ姿勢で並んで歩くと体格差でバスケットが傾くので萌香は少し腕を曲げて静香に合わせる。

機械室の扉を開いた瞬間空気が変わったお湯を温める為のボイラーや循環ポンプなどが唸りを上げる騒音と熱気に満ちた空間。


銀色に輝く機械や配管の隙間が人が1人歩ける程度の通路になっており、狭いスペースに物干竿が掛けられている、萌香が一枚ずつバスタオルを掛けていく。

間隔は均等。風が通るように。


静香は隣で、少しだけ間を詰めて干そうとして、手を止めた。


静香「……間、これくらい空けた方がいいんですね」


萌香「うん。乾きムラが出るから」


静香「なるほど」


静香は頷きながら、同じ幅を意識してタオルを掛け直す。


背丈の差で、静香の方が高い位置まで手が届く。

萌香は一番上のバーを任せ、下段を担当する。


作業は黙々と続く。

フロントとは違い、誰にも見られない場所。

ここでは、背の高さも見た目も、あまり関係がない。


静香「先輩」


騒音に負けないように、少し声を張って静香が言った。


静香「フロントより、こっちの仕事の方が好きかもです」


萌香は一瞬だけ考えてから答えた。


萌香「私は、どっちも必要だと思ってる」


静香「え?」


萌香「表も、裏も。どっちが欠けても、施設は回らないから」


静香は少し驚いた顔をした、そしてイタズラっぽく笑った。


静香「……先輩、ちゃんと大人ですね!」


今度は萌香が少し驚いた顔をした、そして微笑みながら言った。


萌香「静香はまだ子供っぽい所あるけど、しっかり、ついて来れる?」

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