フロント業務
フロント前に、人が溜まり始めた。
昼下がりのピークだ。
萌香は出入り口からフロント周りまで視線を動かし全体を見渡す。
年配の夫婦、子ども連れ、ひとり客。
更衣室で動線が重ならないよう、頭の中で配置を組み立てる。
下足入れの鍵を受け取り引き換えに更衣室のロッカーキーを渡す。
2つの鍵は必ず対になるよう番号の付いた棚に戻す。
これが崩れたら、帰りが地獄になる。
帰りの客がフロントに来ると萌香は、ロッカーキーを受け取り棚から手早く下足入れの鍵を渡す。
萌香「ありがとうございます、こちら二十番ロッカーのお客様の下足入れの鍵になります。またお越しくださいませ」
次は入店客がフロントへやって来る。
静香が隣でキーを手に取る。
静香「えっと……空いてるの、ここですか?」
萌香は一瞬だけ静香の手元を見る。
その番号だと、ちょうど今着替えに入る団体と対面の配置だから被る。
萌香「……一つ飛ばして、こっちにしよう」
静香「えっ対面も気にするんですか?」
萌香「当然でしょ着替えには左右だけじゃなく前後の空間も必要なんだから」
静香はきょとんとした顔で、少しだけ遅れてうなずいた。
静香「なるほど……」
萌香はそれ以上は何も言わない。
説明すればできる仕事じゃない。
見て、感じて、覚えるしかない。
小柄な体で、カウンターの内側を忙しなく動く。
棚の一番上の段のロッカーキー萌香の身長だと踏み台が必要だ
萌香「小野さん 一番をお客様にお渡しして」
静香「はい! こちら、一番です。」
番号が一桁台の棚の一番上のロッカーキーは自然と静香の担当になった
客から見れば、ただキーを渡しているだけ。
でも萌香は知っている。
この仕事は、場を整える仕事だ。
人がぶつからないように。
混乱が起きないように。
最後に「気持ちよかった」と帰ってもらえるように。
「……先輩」
ふいに、静香が小声で言った。
「これ、結構難しいですね」
萌香は、少し嬉しそうに。
「うん。しっかり付いてきなさい」




