六話
その場にいた賊のすべてをロープで縛り上げ、基地に戻ると、ニジヤがいつもの兵士へフクロウを飛ばす。これで、民からの通報を受けて偶々訪れた先で縛り上げられた賊を見つけたため、事情を聴くために応急に連行する、という筋書き通りにことが進む。
「あっさり終わりましたねー。今日はセイレンさんのおごりっすよね?」
「約束しちまったからなぁ。好きなだけ食え」
「やりぃ!」
簡易基地も撤収し、事務所に戻りいつもの格好になった一同はそろって食事に出かけていた。事前に取り付けたおごりの確認をして喜んでいるニジヤたちから少しだけ遅れた歩調で、残り二人がついていく。切り出したのはリュウ。
「お疲れ、アシレ。今回もスムーズだったね」
「…そんな回りくどい感じのはいらないですよ。ボスのこと聞きたいんですよね?」
「あはは、アシレはセイレン以外には冷めてるよね、相変わらず。じゃあ単刀直入に聞くけど、『祝福』使ったんだよね?アシレを守るために」
「嫌な言い方しますね、リュウさん。そうですよ。俺が使わせちゃいました」
「それについてどう思ってるの?」
「嬉しいですね。ボスが、セイレンさんが俺のことを守ってくれた。それだけのことですよね?」
「…本当に君は」
セイレンの持つ『祝福』を、リュウはあまり使わせたくない。それは、セイレン自身が使うことをよく思っていないから。あれは、『祝福』という名の【呪い】であると考えているのを、一番近くで見てきた、つもりだった。その力を使わせないことがリュウにできる最大限の配慮だと思っていた。だが、アシレはそうではない。元々、アシレはセイレンに憧れ、貴族の名を捨てて便利屋に来た。セイレン以外はあまり興味がなく、それがセイレン自身があまり使いたくないと思っている力だとしても、自分のために使われたそれは喜ばしいのだ。歌声だって、美しいと思うし庇護下にいることを良しとしている。
どちらが正しいわけでもない。セイレンはそういう態度のアシレを気にすることなく、守るべき仲間だと思っている。リュウも、同じく。どちらの配慮も、憧憬も、わかっていて受け入れている。どちらも、同じようにセイレンを思っているだけなのだ。
そこには打算や恋情などなく、二人を突き動かしているのは、どうしようもない憧れだけ。
「おい、おせぇぞ。そこ二人」
「また二人で言い合いっすか?早くいきましょうよー、俺腹減りました!」
「だ、そうだ。その辺にしとけ」
「ボスを待たせるなんて!早くいきましょ、リュウさん!」
「はいはい。…まったく、かなわないなぁ」
「ボス―!俺酒呑みたいです!」
「えー、じゃあ俺も呑みたいっす!」
「しょうがねぇなぁ。お前は?」
「私は遠慮…いや、一杯くらい付き合おうかな」
「珍しいな、リュウが呑むなんて」
「なんだ、セイレンが聞いたんじゃないか」
「よし!今日は呑むぞお前ら!」
「何時まででも付き合います!」
「俺はちょっと寝たいっす…」
歪ながらも補いあって形になっているこのセイレンの居場所。アシレの盲目さは少々気になるが、なんだかんだつり合いが取れているこの場所に、悪くはないかと、リュウは空を見上げた。
夜が、ふける。




