五話
その夜、依頼人がこういう活動用にと作らせた戦闘服に身を包み賊のアジト近辺に簡易の基地を設置する。基地といっても、簡素なテントの中にリュウとニジヤが待機していて、万が一の際に対応できるように、フクロウをテイムして周辺警戒をしている程度だ。
「周囲はクリアっす。どっかの商会の馬車を襲った時食いもんにありついたのか、飲み食いしてますね。」
「早く終わらせたら私たちも食事にしようか」
「飲み屋くらいしか開いてないですよ?」
「いいだろ、いつものバルで。特別におごってやる」
「ほんとですか!?やったぁボスのおごりー」
敵拠点を目の前にしてなんとも緊張感のない会話だが、そこは仕方ない。それぞれ持ち場につくために別れる。今回はニジヤの魔道具があるため、無線機の様に会話ができる。通常、無線機は大きな戦の時など軍事利用が中心で、設備も大きく場所をとるため今まではニジヤが小さな動物に紙を持たせるという形で連絡を取っていた。つまりこのピアス型の魔道具は本来王家にまず報告をするべきなのだが、便利屋の活動にのみ用いることを条件にめをつむられている。
「入口到着。アシレはどうだ」
「準備できてます!」
「意外とクリアに聞こえるもんだな。あー、ここからはコードネームで応答せよ。本作戦はケーナイン突入後、様子を見て俺も突入する。他二人は待機しておけ。本時刻より、作戦を開始する。」
一転、空気が張り詰める。ケーナインことアシレは小回りの利くナイフを握り直し、裏口から突入する。正面入り口にはセイレンが待機している。ゆっくり扉を開き、中を確認する。賊どもの警戒心は薄く、のんきに酒と食事に騒ぎながら笑いあっていて、がはは、という下品な笑いに頭が痛くなる。さっさと済ませたい、と考えながら賊たちがいる手前の部屋にたどり着く。薄く開いている扉から明かりがさしている。心の中で、突入のカウントをする。
「こちらケーナイン。突入します」
さん、に、いち。
携帯型閃光弾を部屋の床めがけてたたきつけると同時に目を背ける。なんだ、まぶしい、などとわめく声を無視して、首の後ろをナイフの柄で力いっぱい殴る。ひとり、ふたりと気絶させていき、視界が晴れたものが鈍い剣で切りかかってくるのをナイフで跳ね返し、みぞおちに一撃いれる。途中で突入してきたセイレンが、アシレが倒していった男どもをロープで縛り上げる。見える敵を倒し切り、息をついたアシレの背後に、先ほど腹を殴った男が意識を取り戻し、殴りかかるのがみえた。セイレンは気づいて声を出そうとするが、それでは遅い。考える間もなく喉元を震わせていた。
あたりに響き渡る歌声。それはアシレに襲い掛かろうとしていた男の意識を奪った。
どさ、という鈍い音と、途切れた歌声にアシレはハッと飲まれていた意識を手繰り寄せた。耳にするのは初めてではない。自分たちには牙をむかないその歌は妙に心地よくて、聞き入ってしまうのだ。
「すみません、ボス。油断しました」
ぼんやりとしているセイレンの顔を覗き込み、口元の布を下して笑った。
「あ…嗚呼、お前なら大丈夫だったと思ったんだが、」
「それでも!助かりました」
「…なら、いい」




