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一話

「おばちゃーん、最後のお客さん帰ったよー。」


「あいよ、いつも悪いねぇ。うちの子が急に熱出すもんだから」


「全然平気だよ!いつもお世話になってるし、むしろタダでいいくらいだもん」


「そういう訳にはいかないよ。セイレンさんにもよろしく言っといておくれ。はい、これお代」


「はーい。また食べに来るね!」


アシレはスキップでもしだしそうな雰囲気で帰路につく。王都の中心を少し外れて、細い路地を慣れたように進む。見えてきたのはぼんやりとした明かりで照らされた一軒の店。店、と言いうより事務所のようなものだが。からん、と扉を開くと中には二人の男がいた。その一人にアシレは声をかける。


「ボス、戻りましたー!」


つり目と首に浮き出た鱗が目に付くセイレンが気だるげに返事をする。


「おう、おばちゃんどうだった?」


「アンちゃんの熱も下がってきたみたいですよ。これ、報酬です!」


「それは何より。それはお前がもらっとけ」


「え、うちが受けた依頼なら店に入るのが当たり前です!普段だって報酬もらってますし!」


「だって俺ら今回働いてねぇし。な?」


「…わかりました。ボスは言い出したら曲げませんもんね。あれ、ニジヤは?」


そういって事務所内を見渡すアシレに、コーヒーの入ったマグカップを渡しながらリュウが答える。セイレンは社長椅子のような一つ離れたところにある机で、先ほどリュウが淹れた紅茶を飲んでいる。


「ニジヤは近くの飼い犬が逃げ出したとかで行ってもらってるよ」


食堂の助っ人、飼い犬探し。大抵そういった雑務をこなしているこの店の名は『人魚の虚』。いわゆる便利屋である。セイレンを店主として従業員三名であるこの小さな店は、普段は町の困りごとを解決して回る便利屋である。しかし、とあるツテからそうではない依頼が舞い込むことも多い。厄介ごとを運んでくるのは、セイレンとリュウの学友であった人物なのだが、彼の頼みとあらば断われるはずもない。

三人が談笑していると、からん、と扉が開く。入ってきたのは先ほど話題が出たニジヤだった。


「あ~、つかれた…。戻りましたー」


「お疲れさん」


「お疲れ様、ニジヤ。どうだった?飼い犬の件は」


「王都中探しまわって、見つかったと思ったら遊んでくれると勘違いして追いかけっこが始まりました…」


「それは、ご苦労様だね。コーヒー淹れようか?」


「いや、今は水のが欲しいっす。あ、あと、セイレンさんに伝言頼まれました」

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