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十一話

あの会話以降、何か考えるように黙ったフウをそっとしたまま、その日の任務を終えた。便利屋に戻ると今日はアシレもいた。


「戻りました」


「おう、おかえり」


「あ、ニジヤどうなの?加護持ちのガキ」


「アシレ、ガキはやめなさい」


「だんだん話してくれるようになってきたっす。今日は、加護が両親にどう思われるか気に病んでるみたいでした」


「大抵の加護持ちは幼少期に発現するからその問題多いんだよなぁ。でもあそこの親はずいぶん愛してる様子だったけどな。教育が終わってからはまた一緒に暮らしたいって」


「そうなんすよね、未知の力への嫌悪とかが感じられないんで心配いらないと思うんすけど」


「まぁしょうがねぇな、そればっかりは。自分でもよくわからない力が急に身に付きました、って言われても不安のほうが大きいだろ」


「セイレンさんもそうだったんすか?」


セイレンは少し考えるそぶりをして、笑った。


「そりゃ俺も初めは戸惑ったさ。でも俺には戻る場所も待ってる人もいなかった。だからあきらめんのは早かった」


何でもないことのように言ってのけるセイレンにニジヤはどんな顔をしたらいいのかわからなかった。軽く受け流すのも、深刻な顔をするのも、きっとセイレンは求めていない。だから、真剣に受け止めることにした。


「ただ、最初から愛されちまったら、それがない生活は厳しいだろうな。無くなったものばっかりに囚われる。でも待ってくれる両親がいて、お前っていう話し相手もいるんだろ?」


ニジヤは母親からの愛は知っている。兄弟からの愛も知っている。そして、それらを失ったことはない。失う重さを知らない。離れる恐怖を知らない。大人になって、自然に家を離れて、でも家に顔を出せば、温かく迎えてくれるだろう。フウの気持ちも、セイレンの気持ちもわかったような顔をすることしかできない。


「そんな深く考えすぎんなよ。別にそいつは気持ちを丸々理解してくれる相手を求めてる訳じゃないんだからさ。お前にだってできることがあるだろ。してやりたいことが、あるんだろ」



四日目。教会の準備が予定よりも早く済んだため、ニジヤがこの家を訪れるのは今日が最後になった。明日、太陽が昇るのと一緒に教会の使者が迎えに来て、数年加護持ちとしての教育を受けることとなる。そして教育が完了後、加護が暴走しないように抑制の魔道具を埋め込まれ、両親のもとへ返されることになっている。その間、世間では貴族にメイドとして召し上げられたという設定になるらしい。

家に入ると、不安そうに眉をひそめたフウがいつもと同じ椅子に座っていた。昨日までは斜め向かいに座っていたが、今日は隣の椅子を引いた。ニジヤから口を開いた。


「昨日の、その、質問なんすけど」


「…なに」


「本人に聞いてみたんすよ。そしたら、まぁ、その、ちょっと境遇が、君とは違う感じで、あんま参考になんなかったんすけど」


「…うん。それで?」


「俺なりに、昨日考えてみて、俺から見たら、君は心配しなくていいくらいめちゃくちゃ愛されてるっすよ。初めて見る魔道具を、全然知らないのに熱心に見つめて、君を守ってくれるものだから、ありがたそうにして」


フウの肩が揺れる。小さな体躯を震わせながら、声を出さぬように耐えていた。ずっと、耐えていた。零れ落ちたそれは身にまとったワンピースの膝を濡らして、染みを作る。


「俺は君じゃないから、君の気持ちを分かってあげることはできないし、わかったようなことも言いたくない。だから、いち友人…いや、知り合い?なんか、よくわかんないおにーさんの言葉だと思って聞いてほしいんすけど」


すぅ、と息を吸い込む。こんなに言葉を選んで人に伝えようとしたのはいつぶりだろうか。緊張で心臓もバクバクだけれど、それでもきっと、これはニジヤが伝えるべき言葉だ。


「きっと、君もたくさんの人から愛される人に、なるっす」


フウはぐいっと涙をぬぐうと、ニジヤに向けて歪な笑顔を作った。


「な、何それ!あったりまえでしょ!あたしが愛されるのなんて!」


思わずニジヤも笑って、今度は張っていた糸が切れたようにフウがわんわんと泣き始めた。ニジヤは焦って移動用バッグから布という布を取り出した。

しばらく泣いて、戻ってきた母親に驚かれ、察した母親が温かくフウを抱きしめた。そうしていると帰ってきた父親も、よくわからないまま抱きしめた。

帰り際、目を腫らしたままのフウに呼び止められる。


「ねぇ!ニジヤ!」


「はいはい、なんすか?」


「今日まで、ありがと。あと、あんたのとこの所長?さんに伝えておいて頂戴。仕方ないから、将来働いてやってもいいわよって」


ニジヤは思わなかった言葉にぱちくりと目を瞬かせ、そのあと笑った。


「伝えとくっすよ。将来有望な女の子がいるって」


「あら、女の子だなんて。あたしは立派なレディよ!」


「たくさんお勉強したらレディになれるっすね」


「もう!…お手紙は、書いていいんだって。パパとママと、身分がしっかりしてる人なら。だから、ちゃんと返事よこしなさいよ!おっきなお友達さん!」


「しょうがないっすね。うちのかわいいフクロウで届けてあげるっすよ!」

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