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貴婦人転生~七生八重子、七度の転生  作者: 倉沢トモエ


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たらちねのナントカ②夕餉(ゆうげ)のありかは、いづくぞや

 今の家になってから、夕飯をダイニングキッチンではなく、食堂でいただくようになったんですが、いやあ、最初落ち着かなかったもんでございます。


 社長、邸宅に住んでダイニングキッチンでは収まりがつきませんよと誰かに言われたそうなんですが、なんというか手前の家だってえのに、合宿所やフードコートのようです。


 客人をお招きするような食堂なら、も少し重厚そうな什器に凝ると思うのですが、白のすっきりした四人掛けテーブルが三台とカラフルな椅子が並んでおりまして、親に訊ねたところ研修や打ち合わせで使うから、と言うんですよ。家庭なのに。そんなもんなんでしょうか。


 確かに時々研修や勉強会が行われているようで、ホワイトボードとプロジェクターも別室にあるんですなあ。


 とはいえ、ダイニングキッチンに戻ろうにも既に戸田さんの領域ですので、何となく遠慮してしまうのです。

 家の事情なので慣れるほかなく、今ではなんとなくここでも落ち着いて食事ができるように思えてきたとこなんでございますよ。


「ハア晩飯だア晩飯だア、ヨイショっとお!」


 変な歌を歌いながらブチャ公の奴、身体を人間の大きさに変えました。背丈はあたくしくらいですが、尻尾の数は多いですし恰幅もよろしいもんですから掛けた椅子からはみ出そうです。

 さんざキャットフードの試作を食い散らかしていたというのに、夕飯に好物が出るとなるとこうして気まぐれにあたくしどもと同じ卓につくんです。そしてまた食い散らかすんですから、これも祟りのひとつなんでしょうかね。


「俺っち、ババアのこさえたイワシ汁には目がねえときたもんだ」


 ババアとは戸田さんに失礼でござんしょう。毒蝮三太夫師匠ほどの貫禄がなければおいそれと言えないもんですよババアなんて。ブチャ公にはその貫禄が足りませんよ、貫禄が。二百年以上も齢を重ねておきながら。馬齢を重ねてなんて、馬に失礼ですよ。

 イワシ汁というのは、イワシのつみれ汁のことでして、本日は透き通ったすまし汁に白髪ネギなどが浮身になって、たいそう上品な仕立ての一品です。ブチャ公が行儀悪く食い散らかすなんて勿体ないんです。

 本日の献立はこのつみれ汁と、精進揚げ、ほうれん草の白和えに五目ご飯でございます。

 戸田さん、いただきます。


「家での夕飯は三日ぶりかあ」


 啓一郎も、ほっとして箸を取ります。

 ブチャ公があたくしの両親を焚きつけて商売を大きくしたもんですから、夕飯に家族が揃うのは週に何度もなくなっちまったじゃありませんか。


「叔父さんと叔母さんは、今日は保護猫団体への寄付の件が長引いたから、動画撮影も押してて少し遅くなるってさ」


 保護猫団体に、というのはキャットフードで財を成したことからの流れなんですが、動画というのはちょいと説明いたします。

 ふたりは会社のおすすめ商品を取り上げる動画に時々社長夫妻として出ているんですよ。あたくしに似て出たがりのケがあります。


「動画撮影に時間を取られるようになるなんて、お父っつぁんもおっ母さんも、去年までは思ってもみなかったでしょうにねえ」


 わが親たちはかぶりものをして、学芸会みたいな小芝居でおすすめ商品を説明するんでございますが、妙に受けが良くて、図に乗っているんでございます。


 しかしなんですね。おいしい夕飯をいただいていて、見落としていたんですが、


「ところで啓一郎兄さん。そちらのお膳はどなたがいらっしゃるんです?」


 あたくし、兄さん、ブチャ公のほかにお箸がもう一膳置かれております。


「え、なんだよえへへへ」


 にやにやといやらしい笑いが出てくるもんで、イケメン営業職が台無しですよ。


「ションベンたれが来るんだよ」

「は?」


 ションベンたれというのは、お隣の八重子さんのことです。齢二歳のときの粗相をいつまでもあげつらうのはブチャ公の不徳です。


「なんでまた?」

「模試があるんだろ? いいなあ、青春だなあ」


 本当にイケメンが台無しです。どうなっているんでしょう。

 それに模試とはなんでしょう。模試は明後日ですが、八重子さんとそんな約束してないんですよ。


「あ、ほら」


 玄関の呼び出しが鳴りました。

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