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貴婦人転生~七生八重子、七度の転生  作者: 倉沢トモエ


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たらちねのナントカ①社(やしろ)におはすはどなたなりや

太郎「こんにちは! ホームセンターナベシマです! 代表取締役、鍋島太郎です!」

すみれ「仕入れ担当、鍋島すみれです!」

太郎「今日も、おすすめ商品をご紹介します!

 ところですみれさん、夏休みが近いんですけどエアコンのお手入れ、お悩みの方多いですよね。ホコリやカビ、困りますよね、何とかなりませんか?」


   ◆


 太郎氏は、アザラシのかぶりものをしている。

 すみれ氏は、ラッコのかぶりものをしている。

 いつも何かかぶりものをして、丁寧に商品説明をする。そんな動画を撮影している。


「息子さんと同級生なんだって? 渡辺君」

「ええ、そうなんですよ」


 貸しスタジオ「ステージQ」のアルバイト、渡辺綱木は揉み手をして支配人のほうへ身を乗り出した。

 支配人、柴原琴美。長年地元テレビ局で制作をしていたが、何を思ったのか子育てが終わったタイミングで独立しスタジオを立ち上げた。


「ご子息は親友なんでございまして、はい」

「じゃ、あのお二人のことよく知ってるんだ。機材の手配とかいろいろスムーズでよかったんだけど、

 あのさ、あの部屋、おかしいとこなかった?」

「おかしい? いえ、特には」

「そうかあ」


 支配人は腕を組んで、


「あの109は先月増設した部屋でさあ。おかげでキレイでいいんだけど、鍵が壊れて閉じ込められるとか、急に電源落ちたりとか、なんだか頻発してるのよ。何度か業者さん呼んでさあ」


 増築したのは地上に一室、地下に一室。

 109はその地下の方だ。


「なんです? 心霊的なあれじゃないですよね」

「あたしそういうの信じないよ、渡辺君。単に故障だよ。

 ただ、出来たばかりの部屋の出鼻くじかれたみたいでモヤモヤするんだよね。別にもろもろ値切ったりしてないんだけどなあ」

「まあ、トラブルがあればわたくしが尽力させていただきますので、ハイ」


 いつもの調子のいい綱木である。


   ◆


 お父っつあんとおっ母さんが動画撮影をしていたそのころ、あたくしは帰宅したところでございました。

 あたくしの家は、化け猫ブチャ公がいるほかはなんの変哲もない一戸建てなんでございまして、お隣の八重子さんのお家も同様です。普通の建売住宅です。二階建て木造住宅。


 と申しますのも二年前までの話でございまして。


「お帰りなさいませ」


 たいして広くもない敷地に無理やり三階建ての邸宅をでっちあげたのが、現在のあたくしの家でございます。一丁前に警備会社のステッカーが貼られております。通いの家政婦の戸田さんにはそろそろお世話になって一年になります。


「ブチ蔵さまがお待ちかねです」


 奉公先に化け猫が当たり前にいるというのに顔色一つ変えないんですから、戸田さんもただ者ではないと思いますが、白髪交じりの婦人の年の功、胆力ということにして、そこはお互い触れておりません。くわばらくわばら。


「おう、帰ったな啓太!」


 お待ちかねというその場所は、あたくしの部屋の片隅なんですがね。

 ちょっとばかり趣味がわるいですよ。


「カー、うめえな。これも売れるぜ?」


 だらしなくブチャ公ががっついておりますのは、開発中のキャットフードでございます。近年隣県へも店舗展開が進むホームセンターナベシマの自社ブランド品で、我が家がだしぬけに邸宅になったのはこの事業のせいなんでございます。


「いつまでも荒物屋ナベシマじゃあ、俺っちまで貧乏暮らしに付き合わされるって気づいたわけよ」


 いつもの計算ですが一世代が三十年として猫が祟るのは七代、サンシチニジュウイチの、ざっくり二百十年近くも祟って、気が付くのが遅すぎると思います。


「俺っちの言う通りこさえれば、この通り売れて売れて仕方がねえだろうよ?」


 ブチャ公はあたくしの勉強部屋のかたすみで金ぴかの座布団に鎮座ましまして、ああ趣味が悪い。寝床が神棚みたいになっております。化け猫のくせに神棚とは罰当たりです。


「ブチャ公様!!」


 あたくしが鞄も置いていないのに勝手に部屋に飛び込んで来た者がおります。

 恥ずかしながら同居家族でございます。


「ブチャ公様、ご機嫌うるわしゅう!」


 身長百八十センチの高そうなスーツを着たイケメンがいきなり土下座です。

 余りのイケメンぶりに、にわかに親類とは信じてもらえないことの多い従兄、年配の方には佐田啓二と呼ばれる啓一郎兄さんでございます。甘いマスクでございます。

 この神棚と金ぴか座布団を持ち込んだのは、こいつでございます。なんであたくしの部屋に。


「こら、啓太! ブチャ公様のご機嫌をうかがえ!」

「なんであたくしまで」


 荒物屋のせがれらしく電話番や伝票の読み合わせをする店も事務所ももう自宅にはないんですからあたくしは今、家の商売には関係ないんでございますよ。進路もまだ決めておりませんよ。ブチャ公の面倒をいつも見ておりますよ。そのうえ土下座までなんてごめんですよ。


「頭が高けえぞ、啓太!」


 やかましいったらありゃしません。

 これから新作落語の稽古も明後日の模試の支度もしなけりゃなりませんってのに。


「みなさま」


 そこに戸田さんが落ち着き払っていらっしゃったのです。


「夕食の支度が出来上がってございますので」


 十九時が戸田さんの定時でございますので、本日おいとまの御挨拶でございました。

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