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貴婦人転生~七生八重子、七度の転生  作者: 倉沢トモエ


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たらちねのナントカ③みづからことの姓名を問いたまふか

「おっと、邪魔者は部屋に戻るよ。はははは。

 あっ、お世話になっております」


 何をおっしゃっているんでしょうか啓一郎兄さんは。

 自分の食器を持ったままスマホに対応しつつ、台所へ行ってしまいました(食堂で食事をするからといって、食器を下げてくださる戸田さんがいらっしゃるのは十一時から七時ですからね)。


「おう、ションベンたれ。入れ入れ」


 いつの間にかブチャ公が玄関に出て大きな声を出しております。

 ションベンたれ、ということは、やはり訪問者は八重子さんだったようで。


 ちょっと待ってくださいよ。


 模試の勉強。覚えがないのに約束をしたことになっている。


 八重子さんが、だしぬけにやって来る。


 あたくしの頭の中に、なんだかもやっとした、あまりよくない予感が広がってまいります。


「おう、啓太、来たぞ」


 ブチャ公に続いて食堂へ顔を出しますのは、学区一の美少女、八重子さんです。

 艶やかな黒髪にすらりと伸びたなめらかな手足、その微笑は古であれば値千金と呼ばれたことでしょう。

 値千金の笑みで、八重子さんは申しました。


今夕(こんせき)の急な(おとな)い、ご寛恕めされ」


 ん?


 なんと?


「わが父母(ちちはは)出張(では)りにて、わらわは母屋にひとりなれど、戸田殿、夕餉の席をばととのえて、わらわを招きはべるなり」

「おう、言うの忘れてたけどよ、今晩ションベンたれが一人で留守番だってからよ、お前の帰ってくる前に啓一郎とババアが晩飯どうですか、模試の勉強もありますよね、っつったんだってよ」


 ブチャ公。今それをおっしゃるとは、ホウレンソウがなってませんよ。

 兄さんも。中間試験追試だったあたくしに何か気を利かせたつもりだか知りませんが、なんですか。

 そして八重子さん。いつもにまして言葉がおかしいんですが、それはやっぱり、あの、


「ごめんなさい八重子さん。お前さん、今、()()()()()()?」


 八重子さんは、これまで七度異世界へ転生していらっしゃるのです。

 ですから、時々その時の記憶が出てくることがあるんでございますよ。こないだはそのために、異世界の化物と戦ってみたり大変でした。


「みづからことの姓名を問いたまふか?」


 なんだか落語研究会としては、聞きなれた言葉を聞きましたよ。あたくし相手ということで、わざとですかね。


「みづからことの姓名は、」


 あたくしも古典落語は落語研究会のたしなみとして稽古しておりますが、『たらちね』という、長屋の八っつぁんに嫁いできた丁寧すぎる言葉で話すお嫁さんが混乱を招く噺があるんです。その名乗りの場面と同じですよ。わざとですかね。


「父は芳春国(ほうしゅんこく)都の学寮師範にて、姓は風吹(ふぶき)名は藤吾(とうご)、母は(らん)女と申せしが、父齢三十、母齢二十八の折、夢に流星天へ向かう様を見てわらわを孕みしゆえに、星と申せしは幼名、長じてのちは(あかつき)と名乗りはべるなり」


 常春の国、芳春国。

 八重子さん二度目の転生先です。

 素でこんな言葉遣いの国なんですか。わかりにくいですね。

 それとも、七度の転生がすべて貴婦人だったそうですから、これが芳春国のやんごとなき話し方なんですかね。


「あー……」


 あたくし、言葉が出ませんで、なんとか申し上げたのが、


「まあとにかく、おあがんなさい」


 あたくしはおつゆやお菜を温め、ご飯をよそわなけりゃいけませんので、一旦台所に退散しました。

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