後日譚 替え玉
ロアス視点
「団長、俺を国境部隊に入れてください」
「バカなことを言うな。あそこは第三騎士団の奴らで編成されているのを知っているだろう?それにお前はもう騎士じゃない・・・」
「荷物持ちでも何でもします!俺を第三騎士団に推薦してもらえませんか?」
「お前そこまでしてモンテタールに行きたいのか?」
「はい・・・。どうしても戻りたいんです」
「嫁さんが心配なのはわかるが・・・こればっかりは俺にもどうすることも出来ん。すまんな・・・」
今回も団長から期待していたような返答を聞くことが出来ず落胆しながら執務室を出ると、廊下にセインが立っていた。
「ロアス、また来たのか」
「あぁ」
「まだ諦めてないのか?」
「諦めるわけないだろう」
「そこまで心配しなくても大丈夫じゃないのか?リナの実家があるスナーフェン地方は国境からだいぶ離れているだろう」
「だがこの先どうなるかはわからない。わざわざそんなことを言うために俺を待っていたのか?」
「ははっ。怒るなよ・・・。お前がそんなにモンテタールに行きたいんなら、俺にいい考えがある」
「いい考え?」
「あぁ。お前に紹介したい奴がいる」
セインは俺を連れて騎士寮に向かうと、二階の一室に俺を通した。
「こいつはジェイだ」
「よろしくお願いします」
「ロアスだ」
訳もわからないまま部屋の主と握手を交わすと、セインが俺たちの肩を掴んだ。
「ジェイは明日国境部隊に送られるそうだ」
「そうか・・・」
「でもこいつがどうしても行きたくないって言うんだ」
行きたくない?
「セイン・・・お前まさか・・・」
「そういうことだ」
「それはさすがに無理があるだろう。バレるに決まっている」
「大丈夫だ。こいつはいつもこうやって前髪で顔を隠してるから、騎士団でこいつの顔を知っている奴はそういない」
「・・・そうなのか?」
ジェイに目をやると彼はコクっと頷いた。
「僕は情報部隊なので、他の方たちとあまり面識がないんです」
「情報部隊・・・」
戦場で知り得た情報を本部や各部隊に伝達する部隊で、彼らは機密保持のために他の隊員たちとは馴れ合わないと聞いたことがある。
「それで?顔は髪で隠せたとして・・・体型はどうするんだ?」
ジェイの身長は俺と変わらないように見えたが、彼は随分と細かった。
「確かに。ジェイがいきなりマッチョになってたら変だよな・・・」
そう言ってセインが頭を掻くと、ジェイが焦った様子で口を開いた。
「あ、あの、僕は兄さんのお下がりの外套をいつも羽織っているので、これを着たら体格を誤魔化せるかもしれません」
「どれだ?」
「これです」
ジェイが手渡して来たのは彼にしてはオーバーサイズの外套だった。
「確かにこれを着れば多少は誤魔化せるかもしれないな・・・」
「ロアス、どうするんだ?行くなら明日までに決めるしかないぞ?」
「あぁ・・・。替え玉がバレたらお前もただではすまない。わかっているのか?」
「はい。でも命を落とすよりはマシですから」
ジェイはすでに決心しているようだった。
「そうか・・・。なら俺が代わりに行こう」
「本当ですか??」
「あぁ」
「ありがとうございます!!」
ジェイは涙ぐみながら何度も頭を下げた。
「じゃあ少しでもジェイに近づけるようにロアスの髪型を変えないとな」
「僕に任せてください。いつも自分で髪を切っていますので」
「そうか・・・。では頼む」
三日後、関所を通過して国境部隊に合流した俺は、周りの隊員たちが寝静まったのを見計らってテントから抜け出した。
まずは食料か・・・。
国境沿いの高山を越えるためには最低限の食料が必要だ。
人目を避けながら食料庫へ向かっていると、中年の騎士と正面からばったり出くわしてしまった。
「おい、お前・・・ここで何をしている」
「・・・・」
「どこの部隊だ?」
「・・・情報部隊です」
「何の用だ?」
「その・・・先程ここへ着いたばかりで、夕食をまだとっていないんです。食料を少し分けてもらえませんか?」
「そうだったのか・・・。腹が減っていたら眠れないだろう。少し待ってろ」
「はい」
しばらく待っていると、彼が干し肉とパンを持って戻って来た。
「すまないがこれで勘弁してくれ。上から節約しろと言われていてな」
「十分です。ありがとうございます」
バレなかったか・・・。
俺はホッと胸を撫で下ろした。
あとは剣だな。
情報部隊の騎士が剣を持っているのは不自然かと思い屋敷から持って来ることが出来なかった。
ここで調達するしかないが、武器庫に近づくとさすがに怪しまれてしまうだろう。
どうしたものかと考えていると、ふと戦死者が一時的に葬られている墓穴の近くに武器が積まれてあったことを思い出した。
こういうことは本来したくはないが、今は手段を選んでいる場合ではなかった。
俺は墓穴へ向かうと、戦死者が使用していた武器の中から程度のいい剣を選んだ。
「すまない・・・」
俺はこの剣を必ず騎士団に返すと誓ってその場を後にした。




