23 告白
ロアス視点
『次こそ勝つ!やぁ!はぁ!とりゃあ!』
カンッ カンッ カンッ コンッ
『腕だけで振るな!体全体を使え!』
『このっ!やぁ!はぁ!たぁ!』
カンッ カンッ カンッ コーン・・・
『はぁ、はぁ、くっそ〜』
木刀を弾かれたレニーが悔しそうに芝生の上に転がった。
『剣にもっと体重を乗せろと言っているだろう』
『やってるよ〜ちくしょ〜・・・。いつになったらロアスに勝てるんだ?』
『この調子だと10年はかかるな』
『まじか〜・・・』
『そろそろ講義が始まるんじゃないのか?』
『ん?あ、そうだ。ロアス、またな!』
レニーが孤児院へ向かうと、俺は治療院の病棟へ向かった。
二階へ上がって病室に入ると、ベッドに座ったリナ嬢が小説を開いたまま寝入ってしまっていた。
そっとベッド脇の椅子に座ると、リナ嬢が目を開けた。
「ロアス様・・・」
「起こしてしまったか?」
「いえ・・・ウトウトしていただけです」
「そうか・・・」
リナ嬢は事故から三ヶ月経った頃に目を覚ましたが、今も体力の回復とリハビリのために引き続きこの治療院に入院している。
「ロアス様、少し散歩に連れて行ってもらえませんか?」
「そうだな。行こう」
俺はベッドに横たわるリナ嬢を抱き上げると車椅子にそっと降ろした。
リハビリを開始してからすでに二ヶ月が過ぎていたが、彼女はまだ思うように歩けなかった。
「涼しくなりましたね」
「寒くないか?」
「大丈夫です。空気が澄んでいて気持ちいいです」
「そうか・・・」
車椅子を押して外廊下を歩いていると、修道女たちが挨拶をして通り過ぎていった。
「ロアス様は長い間よく我慢出来ましたね。私はここにいると寂しくて・・・」
「俺は見習い騎士の時に一年間寮に暮らしていたからな」
「ホームシックになりませんでしたか?」
「ならなかったな。飯はまずくて大変だったが・・・」
「ふふっ。ここはご飯が美味しいですから、私は贅沢なことを言っていますね」
「確かにそうだな」
修道院を一周して病室に戻ると、リナ嬢が何か言いたげな顔でこちらを見ていた。
「どうした?喉が渇いたのか?」
すると彼女は意を決した顔をして口を開いた。
「ロアス様・・・もうこちらへは来ないでください」
「・・・急にどうした?」
「毎日のように来てくださって・・・本当に嬉しかったです。でもこれ以上ロアス様のご負担にはなりたくないんです」
「俺は負担だと思ったことは一度も・・・」
「それでも・・・私はいつ歩けるようになるかもわかりませんし、もしかしたら一生このままかもしれません」
「そんなことはない。時間が経てばきっと回復するはずだ」
「ですが、それまでずっとロアス様に頼るわけには参りません」
そう言って彼女は申し訳なさそうに俯いた。
「迷惑だったか?」
「そんな!違います!ただロアス様の貴重なお時間を奪うことはしたくないんです」
なぜ彼女はこんなことを言うんだ?
本当は俺と一緒にいたいと思ってくれているはずだ。
それは彼女のこれまでの態度を見れば明らかだった。
視線が合うと頬を赤らめて、抱き上げると彼女の胸は高鳴っていた。
俺が訪れると満面の笑みを浮かべて、帰る時には今にも泣きそうな顔で俺を見送った。
「リナ嬢・・・頼むから本当のことを言ってくれ」
「・・・・」
「君の本当の気持ちを教えてほしい」
「・・・・」
「俺と一緒にいたいのか、いたくないのか・・・どっちなんだ?」
「私は・・・」
「俺が同情でこんなことをしていると思っているのか?俺が君といたいから、君の力になりたいからここにいる」
すると彼女の黒い瞳からポロポロと涙が溢れた。
「うぅ・・・」
彼女は俺の胸にうずくまって嗚咽を漏らした。
「これ以上・・・あなたの負担になりたくないんです・・・」
「大丈夫だ。負担に思ったことはない」
「でも・・・この先歩けるようになるのかわからなくて・・・」
「もし歩けないままだとしても俺はリナ嬢と共に生きたい・・・。お願いだ。君の側にいさせてくれないか?」
するとリナ嬢は信じられないという顔で俺を見上げた。
俺は彼女の涙を拭いながら、これまで言葉に出来なかった想いを口にした。
「俺は君を愛している・・・。どうしようもないくらい・・・君を愛しているんだ・・・」
「・・・・」
呆然としているリナ嬢の顎を上げてそっと唇を重ねると、彼女はピクッと体を強張らせた。
それが拒絶ではないとわかった俺は少しずつ探るように口付けを深めていった。
そうしてしばらくお互いの体温を感じ合っていると、リナ嬢が恥ずかしそうに体を離した。
「すまない。衝動が抑えられなかった・・・」
「い、いえ・・・」
「俺はそろそろ帰ろう。あまり長居してもな・・・」
邪念を振り払うように椅子から立ち上がると、リナ嬢が俺の腕を掴んだ。
「ロアス様・・・」
「どうした?」
「あの・・・わ、私もロアス様のことを・・・愛していますっ」
「・・・ふっ。そうか」
俺は愛おしい彼女の頬に触れた。
「ではまた明日来る」
「はい。お待ちしております」
次回、最終話です☺️




