22 君の想い
ロアス視点
マンションを出てチェイストン家の屋敷まで歩いていると、前から走って来た黒塗りの馬車が俺の真横で停車した。
「ロアスさん!」
突然呼ばれて振り向くと、馬車からブロンドの青年が降りてきた。
「ライオネルか?」
「よかった!」
「どうしてここに?」
「ロアスさんを迎えに来たんです!」
ライオネルは焦った様子で俺の腕を掴んだ。
「とりあえず乗ってください!」
「どうしたんだ??」
『馬車を早く出してください!』
『わ、わかりました!』
御者が慌てて手綱を振ると、俺たちが座るより先に馬車が動き出した。
「何があったんだ??」
「リナさんが事故に遭ったんです!昨日スワナーに向かっている時に馬車が落石に巻き込まれて・・・」
「なっ!?彼女は無事か!?」
「それがまだ意識が戻らなくて・・・。リナさんの家族にロアスさんを連れて来てほしいと頼まれたんです。ラビナス語が出来るのは僕くらいですから」
「それで??リナ嬢はどこにいるんだ??」
「修道院の治療院に運ばれました。事故現場の近くには治療院がなかったそうで・・・」
あそこなら最低限の設備が整ってはいるが・・・。
俺は震える手を必死に押さえ込んだ。
「そういえば・・・リナ嬢がここに向かっていたと言ったな?」
「はい」
「どうして・・・」
するとライオネルの青い瞳が揺れた。
「リナさんは・・・ロアスさんに会いに行こうとしていたんだと思います」
「俺に?」
「詳しくはわかりませんが・・・姉さんがそう言っていたので」
なぜ俺に会いに来たんだ?
「姉さんも修道院にいますから、後で聞いてください」
修道院に到着すると、修道女と子どもたちが門の近くに集まっていた。
『あ!ロアス!やっと来たのか!?』
レニーが俺を指差すと、近くにいた修道女が俺に向かって頭を下げた。
『どうぞ治療院へお急ぎください』
「ロアスさん、行きましょう!」
ライオネルについて治療院へ向かうと、治療室の前にリナ嬢の家族が揃っていた。
『ロアス!』
『来たか!』
『待ってたのよ!』
「リナ嬢は!無事ですか!?」
「出血は止まったが、意識が戻らなくてね・・・」
リナ嬢の父上が悲痛な面持ちで呟いた。
「今はあいつが中で見守っているよ」
「・・・俺は中に入れるんでしょうか」
「そうだな。リナの顔を見てやってくれ」
「・・・はい」
治療室に入ると、リナ嬢の母上がベッドに縋りついていた。
『ロアス君・・・来たのね・・・』
彼女はこちらを振り返る気力もないようで、項垂れたままだった。
ベッドに近づくと、そこには体中を包帯で巻かれたリナ嬢が横たわっていた。
『何度も呼びかけているのに起きないのよ・・・。昨日の朝までは元気だったのよ?どうしてこんなことに・・・。こんなの嘘よ・・・・信じないわ・・・』
「・・・・」
『ロアス君もそう思うでしょ?これは何かの間違いよね?すぐに目を覚ますわよね?』
彼女が何を話しているのかはわからなかった。
ただただ心が痛くて胸が苦しくて、瞳を閉じてひたすら耐えていた。
しばらくそうしていると、リナ嬢の父上が俺を治療室から連れ出した。
「わざわざ来てもらってすまないね・・・」
「・・・・」
「リナが君に会いたいと思ってね・・・。リナはロアス君に会いに行ったそうなんだよ」
「俺に・・・?」
「あぁ・・・。レイモンドとセティアにそう言っていたそうだ。君に会いに行くと」
すると廊下に座っていたセティア嬢がおもむろに立ち上がった。
『そうよ・・・。ロアスさんに会いに行ったのよ・・・。あなたがスワナーなんかに行っちゃうから、あなたを連れ戻しに行ったの・・・。なんでスワナーなんかに行ったのよ!なんでチェイストン家になんか行ったのよ!!どうしてリナを置いて行ったのよ!!』
「・・・・」
「リナはあなたのことが好きだった」
「え?」
セティア嬢ははっきりとラビナス語で言った。
「リナはあなたに愛してるって・・・それを伝えに行ったの・・・」
そう言って彼女はその場に泣き崩れた。
リナ嬢が俺を・・・?
「そんなはずは・・・」
呆然としていると、ライオネルが首を振った。
「それは僕にもわかります・・・。リナさんはあなたを愛しています」
そんなことは考えもしなかった。
だから俺は彼女へのこの想いを伝えまいと心に誓った。
こんなことを言っても彼女を困らせるだけだと思ったから・・・。
ただリナ嬢の側にいて、彼女を守れればいい、そう思っていた。
「こんなことを言ってすみません・・・。でもロアスさんにはリナさんの気持ちを知っておいてほしかったんです」
ライオネルはそう言って涙を流しながら微笑んだ。




