21 気がかり
ロアス視点
↓
リナ視点
馬車の中で仮眠をとっていると、御者が声をかけてきた。
『ロアス様、お嬢様がお戻りになりました』
やっと来たか・・・。
馬車から降りると、コートニー嬢と数名のご令嬢がこちらに向かって歩いてきた。
「ロアスさん、お待たせ」
『コートニー!彼は誰なの?』
『すごい素敵な人じゃない!今お付き合いしている方??』
『紹介してよ』
『もう、みんな落ち着いてちょうだい。彼は私の護衛よ』
『え?護衛??』
『そんなっ!もったいない!』
『だったら私に紹介しなさいよ』
『ごめんなさい。もう帰るから、みんなまた今度ね』
コートニー嬢が馬車に乗ると、俺は御者に出発の合図を出して馬車へ乗り込んだ。
「遅くなってごめんなさい。みんなが帰してくれなくて」
「別に構わない」
「パーティーの送り迎えだなんて退屈でしょう」
「仕事に退屈も何もない」
「そう・・・」
屋敷に到着すると、足元がおぼつかないコートニー嬢が俺の腕を掴んだ。
「ごめんなさい・・・。部屋まで運んでくれる?階段を登れそうにないのよ」
「・・・・」
屋敷へ入り、螺旋階段の前まで来ると、俺は彼女を抱き上げた。
「ふふっ。なんだかお姫様になった気分ね」
大富豪の娘なのだから姫という表現もあながち間違いではないだろう。
俺は彼女を部屋まで連れて行くと、三人掛けのソファに降ろした。
「今とてもいい気分なのよ。このまま一緒にいてくれる?」
そう言ってコートニー嬢が俺の首に腕を回した。
「朝まで一緒に過ごしましょうよ」
「・・・何か勘違いをしていないか?俺は護衛だ。男娼じゃない」
「相変わらずつれないわね・・・」
「そういう相手が必要なら別に雇えばいい」
「そうね・・・。もう帰っていいわ」
彼女は毎晩のようにどこかのパーティーに顔を出しては泥酔して俺に絡んでくる。
元々こういう生活をしていたのか、あの事件がきっかけなのかはわからないが、俺は心底嫌気がさしていた。
コートニー嬢の部屋から出ると、廊下に執事のジェームズが立っていた。
『ロアス様、カルロ様がお呼びです』
『あぁ』
カルロ様の執務室へ入ると、部屋中が葉巻の煙で充満していた。
「コートニーがまた世話になったね」
「いえ・・・」
「周りに変な男はいなかったかい?」
「馬車で待機しているので、そこまではわかりません」
「そうか・・・。ではこれからは君もパーティーに出席するのはどうかな?パートナーとして同伴すれば護衛もしやすいだろう」
「それは・・・」
「君に決まった相手がいないのなら問題ないんじゃないか?それとも誰か意中のご令嬢でもいるのかい?」
「・・・・」
「まぁ、君のことはあくまで護衛として雇っているのだから、そこまで求めるのは酷かもしれないね・・・」
「どなたか貴族のご令息にパートナーをお願いしてはいかがでしょうか」
「そうだね。コートニーが気に入る男性がいるかはわからないが・・・」
「では、今日はこれで失礼します」
屋敷を出てから半刻後、俺はスワナーの賃貸マンションへと戻った。
護衛として契約をする際、俺は住居を別にしてほしいと願い出てこの部屋を用意してもらった。
カルロ様は当初難色を示していたが、それが無理なら護衛は引き受けられないと言うと渋々了承した。
セルディーン家に残ることが叶わない以上、こうして住居を分けることが俺が出来るせめてもの抵抗だった。
セルディーン侯爵と最後に話した時、もし俺がこの件を断ればカルロ様がセルディーン家に何かしらの圧力をかけることは容易に想像が出来た。
経験上、富と権力を手にしたああいう人間は自分の欲する物を必ず手にしないと気が済まないからだ。
この選択は間違っていなかったと今でも納得はしているが、俺はリナ嬢のことだけが気がかりだった。
新しい護衛を雇ったのか、そいつはどんな人間なのか、本当に彼女を守れるのか、こちらに来てからそればかりを考えていた。
今度の休みにセルディーン家に行ってみるか・・・。
彼女との再会を楽しみにしながら、俺はスワナーの煌びやかな夜景を窓から眺めていた。
翌日ーーー
『レイモンドさん、これから馬車を出してもらえる?』
『もちろんです。どちらへ行かれるんですか?』
『スワナーよ』
『またスワナーへ行かれるんですか?』
『えぇ。ロアス様に会いに行くの』
『さようですか!どおりでいつもよりおめかしされていると思いました』
『え??』
どうしてわかったのかしら・・・。
『はははっ。私にだってそれくらいわかりますよ。私もロアス様に会いたいと思っていたので嬉しいです』
『ふふっ。ありがとう。ではよろしくね』
はぁ・・・早くロアス様にお会いしたいわ・・・。




