引っ越し
ホームセンターで布団と洋服をしまう収納ボックスや机、フライパン、鍋などの生活用品を買い揃える。
有り難いことに、これもまとめて配達してくれるらしい。
きっとまだ足りないものあるかも知れないが、それは生活しながら買い足していけばいい。
楽しい買い物もあっという間に終わり、あとは自分の家にある荷物をまとめることになった。
洋服や小物や本ぐらいだから、1日もあれば十分に荷物はまとめられる。
冷蔵庫が配達される時には、部屋にいなくてはいけないから……明日が引越しの日?
慌ただしくて寂しがる時間もないかとも思ったが、夕食の時に、
「明日には荷物が届くから、もうそのまま、あちらに住むことになると思う」
と両親に告げると、父と母の手が止まった。
「そう……」
と母がつぶやき、父は……。
目が潤み始めていた。
「えっ……」
私がびっくりしていると、父は涙を隠すように立ち上がり、部屋を出ていってしまった。
そして残った母が私の隣にやってきてくれて、黙って抱きしめてくれた。
「頑張るのよ。気をつけて」
「……はい」
二人に愛されて育てられて、私は本当に幸せでした。
嫁ぐわけではないけれど、私もちょっと泣けてしまった。
そして、翌日。
私は母に車で送ってもらい、多くない荷物を持って新しい部屋に到着した。
「おはようございます」
すでに先に来ていた誠さんが、私と母に挨拶してくれて、3人で荷物を運んだり掃除をしたりして準備を整えた。
母は昼前には帰ってしまったが、そのあとで冷蔵庫や洗濯機が配達されたり、生活用品が届いたりで、おおよその準備が整った時には、あたりはすでに暗くなりかけていた。
「何とか形になりましたね」
「そうですね」
「夕食は外で食べて、帰りにスーパーに寄りますか」
「そうしましょう!」
私達はあたりの散策を兼ねて、ぶらぶらと歩くことにした。
外は寒いが、握った手は温かくて、心がほくほくする。
お腹が空いていたからか、二人そろって何となく豚カツを食べた。
少し古いお店だったが、お客さんもたくさん入っていて、味も抜群。
すっかりお腹がいっぱいになって、満足して店を出た。
「いいお店でしたね」
「美味しかったです。他にも、いろいろお店がありそうですね」
「また今度、ゆっくり歩きましょう」
これからはしばらく散策が、ふたりの楽しみになりそうだ。
スーパーも少し歩いたが、広いお店がある。
そこで、生活に必要な食材や飲み物を購入して帰路についた。
自転車ぐらいは買ったほうがいいかな。
それとも、家のを持ってこようかな。
私はそんなことを考えながら、二人でたわいもない話を交わしている時間を、とても幸せに感じていた。
部屋について冷蔵庫に食材を収めると、ひとつの難問がやってきた。
それは、お風呂に入ること。
誠さんもそれに気づいて、何となく挙動不審だ。
「まどかさん、先にお風呂どうぞ」
「私は少し長いですから、誠さん先にいいですよ」
「いや、少し本を整理していますから、どうぞ入って下さい」
それじゃあ、先に入ろうかな、と思ったときに、いたずら心が芽生えてしまった。
そうだ、これを言わなくちゃ……。
「それとも誠さん、一緒に入りますか?」
私は誠さんが断ることを解っていながら、にこやかにそう聞いてみた。
「あっ、えっ、その……」
ああ、うろたえている、うろたえている。
可愛いなあ……。
「どっ、どうぞ一人で入って下さい……」
「はぁい」
グロッキー寸前の誠さんを見ながら、パジャマを用意してお風呂場へ向かった。
バスタブに湯をはり、ゆっくりと髪と身体を洗う。
ちょうど良い湯加減と量になったのを確認して、中に入った。
あぁ……生き返る……。
今日は1日慌ただしかったから、いつの間にか疲れが溜まっていた。
それが温かい湯と共に流れ出してくれるような心地良さだった。
いよいよ二人の生活が始まったんだ……。
私はここでようやくそのことを実感した。
何となく嬉しくて楽しくて、胸がほんわかと温かくなる。
不思議だな。
数年前までまったく知らなかった人と、二人で生活することになるなんて。
これからどんな毎日になるのだろう。
ケンカもするかも知れない。
でも、きっとすぐ仲直りをするだろう。
苦しいこともあるかも知れない。
でも、二人でならば乗り越えていけるような気がする。
誠さんの、役に立ちたいな。




