授乳
目が覚めた時、私はすでに病室の中に戻っていた。
身体を起こそうとすると、お腹に力が入らない。
ああそうだ、お腹を切ったんだっけ。
「まどかさん、起きました?」
隣に座っていた誠さんが声をかけてくれた。
「はい。……母は?」
「夕食の準備で帰られました。明日、二人でいらっしゃるようです」
「あっ、なるほど」
もうそんな時間か……だいぶ寝ていたな。
「赤ちゃんに会いました?」
私は横になったまま誠さんに聞いてみた。
すると、誠さんの顔がみるみる笑顔になる。
「会いました。まどかさんに似て可愛かったです」
「そうですか? 泣いていて解らなかったな」
「今は新生児室にいますけど、多分あとで来ますよ」
「はい、あっ、授乳ですね」
そんな話をしていたら、本当に赤ちゃんがやって来た。
「一柳さん。授乳なんですが、できそうですか?」
「はい」
私は看護師さんにやり方を教えてもらいながら、授乳することにした。
誠さんも授乳の様子を見たかったみたいだけれど、看護師さんに退出を促されて出て行ってしまった。
誠さんの背中が寂しそうで、ちょっと笑ってしまった。
「優しそうな旦那さんですね」
「ええ、まあ」
とってもね。
最初の授乳は吸っているのかどうかが解らなければ、出ているかも解らないような状態だったけれど、これでいいらしい。
赤ちゃん……元ちゃんでいいよね、も疲れたようで眠ってしまった。
うぅ、可愛い!
可愛いぞ!
新生児用のベッドが用意されて、そこに元ちゃんを寝かせてくれた。
看護師さんが出ていくのと合わせて、誠さんが戻ってくる。
誠さんはベッドに眠る元ちゃんに興味津々だ。
「可愛いですね」
私がそう呟くと、誠さん表情がゆっくりと優しい笑顔になっていく。
「可愛い。不思議な気持ちですね。でもまだこう、実感が……」
「抱いてみます?」
誠さんが、えっ、という顔になる。
「寝ていますよ」
「大丈夫ですよ」
「はい……」
誠さんはどうしようか、と一瞬の戸惑いを見せた後に、ゆっくりと元ちゃんを抱き上げる。
手を体の下に滑り込ませた時に、ちょっとびっくりした様子だけれど、眠ったまま誠さんの手の中に抱きかかえられた。
「軽い。産まれたては、こんなに軽いんだ」
誠さんは手はまだおっかなびっくりだったけれど、緊張した表情はゆっくり和らいでいった。
「実感、湧いて来ました?」
「少しずつですね。でも、嬉しさと幸せな気持ちが、手からじわっと広がって来ました」
私は、ふふふ、と笑った。
夕暮れの静かなひと時。
家族3人の生活は、こうして始まった。
よろしくね、元ちゃん。
頑張ってね、お父さん。
私は2人を見ながら、心のなかでそう呟いた。




