出産
私は入院することになった。
大きな問題ではないが、出産予定日を過ぎても陣痛が来ないため、人工的に陣痛を誘発することになったのだ。
そしてもし、それでも駄目な場合は帝王切開することになる。
いずれにせよ、出産はもうすぐそこだ。
「病気でもないのに入院するのって、何か不思議な気分ですね」
私はマタニティー用の寝間着を着ながら、病室のベッドに腰掛けた。
誠さんが椅子に座りながら微笑んでくれる。
「まどかさん、大丈夫ですよ」
少しでも安心させようとしてくれているのは解るけれど、私よりも誠さんの方が緊張しているような気がする。
出産するの、私なんですけど。
私はふふっ、と笑ってしまった。
「お腹痛くないですか?」
「まだ大丈夫です。でも、もうすぐかな?」
何となく腹部に違和感がある。
もうすぐ陣痛が始まるのだろうか。
「陣痛が始まっても、すぐに出産というわけではないですから、今日は帰って休んで下さい。ちゃんとその時には連絡がいきますから」
「そうですけど、家にいても落ち着きません」
誠さんは困ったような顔をする。
何か子供みたい。
そんな誠さんを、私はやっぱり可愛いな、と思ってしまう。
あなたとの子供と、もうすぐ対面です。
嬉しいし、楽しみだ。
私達は本を読んだり、話をしたりしながら、時間をつぶした。
結局、その日は陣痛が来たものの出産するには至らなかった。
心配そうな顔をした誠さんを帰して、その晩は私も寝ることにした。
明日、もう一度試して駄目なら、帝王切開と聞かされた。
明日、会える。
私は手術の怖さよりも、この子に会える喜びの方が遥かに強かった。
意外にもその晩は、よく眠ることができた。
翌日は誠さんと共に、母も来た。
何をする訳でもないけれど、ずっと側にいてくれた。
不安はあまりなかったけれど、それでも安心はする。
心も身体も、準備は整っていた。
お昼近く。
帝王切開をすることになった。
「それじゃあ、行ってきます」
「まどかさん、頑張って」
「はい」
私は母と誠さんに見送られながら、手術室へ入って行った。
やっぱり緊張する。
何をされるか、何のためかは解っていても、不安なのは消せないな。
まあ、それでいいのだろう。
覚悟は決めている。
さて、行きましょう。
先生、よろしくお願いします。
私は手術台の上で麻酔をかけられ、不安軽減のためかちょっと眠くなる薬も使われて、ぼおっとする頭でその時が来るのを待った。
最初に私を診察してくれた、あの女医さんが入ってきて声をかけてくれる。
私は眠りそうな頭でうなずいて返答をした。
いよいよだ。
でも、眠りそう……。
不思議な感覚だった。
大事なお腹が何かされているのは解るけれど、早過ぎて、思考力も低下していて良く解らない。
カチャカチャと音がしたり、先生や看護師さんが声を掛けあっているのは解るけれど、どこまで進んでいるのだろうか。
そんなことを考えていたら、その時はあっという間にやってきた。
「おぎゃあ!!」
泣いている。
あぁ、赤ちゃんが泣いている……。
何度も何度も泣き続ける赤ちゃんの声を聞きながら、私はぼーっとそんなことを考えていた。
「一柳さん、元気な男の子ですよ」
看護師さんが、産まれたばかりの赤ちゃんを見せてくれた。
本当に真っ赤で、力強く泣いていて、くちゃくちゃの顔をしている。
ようやく会えたね……。
じわっと嬉しさと涙がこみ上げてきたのに、さっさと連れていかれてしまった。
おぉぉい! 早いよ!
私は眠りそうな頭で、思わず突っ込んでしまった。
まあいいや、後でゆっくり……と…………。
安心した私は、そのまま眠ってしまったのだった。




