検査
そして翌日。
私達は附属病院の産婦人科を2人で受診した。
待ち合いに座っているのは女性ばかりで、旦那さんが付いてきている人がいない…………そういうものなのですか。
あっ、平日だから仕事で来られないのですね。
そう言えば、私達は若い部類に入るようで、何となく見られているような。
しばらく順番を待っていていたら、看護師さんに名前を呼ばれた。
「一柳さん」
「はい」
私達は診察室の扉をくぐると、中には30代後半ぐらいの女性医師が座っていた。
男性医師だとやっぱり恥ずかしいな、と思っていた私は心の中でほっとする。
「一柳さんですね。医師の篠原です。よろしくお願いします」
「一柳です。よろしくお願いします」
篠原先生は肩ぐらいまでありそうな髪を後ろでまとめていて、あまり化粧や格好には気にしていない様子なのに、とっても整った顔立ちの先生だった。
机の上の電子カルテを眺めながら、ああ……と何かに気付いたようだ。
「ここの学生さんなんだ…………そう言えば、聞いたことがある。学生のうちに結婚した医学生がいるって。あなた達のことなんだ。それで今日は、妊娠の確認ね」
「あっ、はい」
噂がこんなところまで。
ちょっと恥ずかしくて、私も誠さんも顔を赤くしてしまった。
「尿の妊娠検査はしてきたのね」
「はい」
「最終月経は」
「7月14日です」
「……うん、いいタイミングだね。じゃあ、隣の台に乗ってくれるかな」
「はい」
私は先生の指示に従って、隣の部屋のエコーの置いてある部屋に移動した。
「あっ、旦那さんは外で待っていてね。医学生で旦那とはいえ、あまり見られたくない姿だから」
「はっ、はい」
誠さんは私に視線だけ合わせて、一礼して扉の外へ出ていった。
確かに、膣から入れるエコー検査の格好は恥ずかしい。
両足を上げて、股を広げて横にならないといけないのだから。
あらためて、女医さんでよかった。
私は指示に従って台の上に乗り、検査を受けた。
膣の中に入ってくる時の違和感はあったけれど、これはもうしょうがない。
それよりもエコーの画像が気になる。
先生は少し動かしたり、回したりしながら、それでもすぐに目的の画像を見つけてくれた。
「ほら、あったよ」
台の上からで見にくいけれど、先生がテレビ画面をこちらに向けてくれた。
まだエコー画像は詳しく勉強していないけれど、それでも解ってしまった。
画面の中央に丸い膜に包まれた、小さな塊が見えた。
さすがにまだ人の形には見えないけれど、でも命だ。
命の塊だ。
何か胸の中に、嬉しさと覚悟が湧き上がってくる。
母になると強くなる、という言葉があるけれど、この子のために強くならなくちゃ、と思う。
「おめでとう。ちゃんと妊娠しているよ」
「有り難うございます」
検査が終わり、私は台から降りて診察室に戻った。
「はい。これが写真。また2週間後に来てもらおうかな」
「はい。よろしくお願いします」
私は診察室を出て、外で待つ誠さんのもとへ歩いていった。
「どうだった?」
誠さんの表情は最初少し不安げだったけれど、私の笑顔を見て解ってくれたみたい。
「妊娠していました」
私は小さくつぶやいて、エコーの画像写真を誠さんに見せた。
誠さんは写真を受け取って、それをじっと見つめる。
じっと……見つめ過ぎです。
私は小さく笑った。
誠さんは顔を上げて私の顔を見ると、しだいにその表情が笑顔になっていった。
「良かった……」
「良かったですね」
人目もたくさんある外来待合室なので、私達は小さな声で喜びを分かち合った。
「今日は帰りましょう」
「そうですね。あの……両親への報告はどうしますか?」
誠さんも、あっ、という顔をする。
妊娠しているかどうかに精一杯で、忘れていたようだ。
「安定期に入ってからの方がいいかも知れないけれど……話しましょう」
「そうですね。電話しましょうか」
「そうしましょう」
私は先ず母に電話をすることにした。
誠さんは真穂さんに。
電話をしても良い場所に移動して、私達はそれぞれに携帯から電話した。
母は家にいて、何コールかの後に出てくれた。
「はい、如月です」
「あっ、お母さん? 私、まどかです」
「あら、まどか。どうしたの? こんな時間に」
「お母さん、私、妊娠しました」
沈黙。
「えぇぇ! 本当!」
母の大きな声に、私はくすっと笑ってしまった。
確か、母達の予想通りの展開のはずですが。
「うん、今日産婦人科で確認してもらった。妊娠5週目だって」
「わっ、わっ……おめでとう!」
「有り難う」
「お祝い、お祝い。今日はうちに食べにいらっしゃい」
「うん。誠さんにも聞いておく」
「うん、うん。あっ、真穂さんにも声をかけておいて! お父さんには連絡しておくから」
「はい。じゃあ、また」
母の慌しい様子がじわっと嬉しい。
電話を切って横を見ると、誠さんはまだ電話中のようだ。
仕事場にかけて、真穂さんを呼び出し中なのかな?
それならば……。
「誠さん」
「ん?」
「母が今日はうちで食べていって、って。それに真穂さんにも声をかけてください、とのことでした」
「あっ、有り難う……はい」
ちょうど、真穂さんが出たよう。
誠さんが報告をすると、ここまで聞こえる真穂さんの声で、彼女の喜びの大きさを伝えてくれた。
有り難うございます。
食事のことも伝えてくれて、相槌を打った後に電話を切る。
誠さんは携帯をしまって、私と視線を合わせた。
「喜んでいました」
「私のところもです」
「嬉しいね」
「嬉しいですね」
誠さんが手を差し伸べてくれる。
私はその手を握り、ゆっくりと歩き始めた。
誠さん。
これからは3人ですね。




