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祝福


 そうそう、芸能人と言うか、東京に行ってからスカウトされてモデルになってしまった桜さんと、麻友さんや美緒さんの3人が余興をやってくれるという。


 私達が席に着くと、さっそく3人の名前が呼ばれて、マイクの近くに集まってきた。


 大学生になって大人っぽくなったら、ますます綺麗になって。

 こんな3人が集まると、ちょっとどこぞのモデルさんの集まりですか、と疑いたくなるほどで、場内もざわめいていた。


 桜さんは髪を長くして、それをふわっふわにウェーブさせていて、アクセサリーをとても上手にまとってまさにモデルさんと言うか、芸能人と言うか。


 麻友さんは落ち着いた色合いの服なのに、とても目鼻立ちのはっきりした顔と、素晴らしいプロポーションをしているので、これがまた凄い存在感で。


 美緒さんは綺麗な着物で髪をアップにしていて、いつものとろけそうな優しい笑顔が男の人のハートを打ちぬきまくっています。私まで惚れてしまいそう。



 麻友さんがまず初めに挨拶をしてくれた。


「誠さん、まどかさん。ご結婚おめでとうございます。私達はみんな、高校1年生の時のクラスメイトなんです。まどかさんとだけでなく、誠さんともほとんど女の子友達のような関係で、みんなで一緒に3年間よく遊ばせてもらいました」


 上手に言いましたね。


 女の子友達というのは、女装のことですか。


 遊ばせてもらったというのは、からかったことでしょうか。


 言葉はいいようですね。


 でも、本当にいろいろ楽しかったです。



 マイクが未緒さんに渡される。


「今日は3人で、皆さんが楽しんでもらえるような何かを、とのことで、歌をうたわせていただきます。といっても、ほとんどは桜ちゃんばかりなのですが、とても上手なので聞いてください」


 歌なんだ。

 桜さん、声も綺麗だもんね。

 話すと残念な内容が多いけれど。


 マイクがスタンドに戻されると、桜さんがその前に立つ。


「すみません。何の曲にしようか本当に悩んだのですが、真面目な二人の結婚にはこれかな、と思いまして歌わせていただきます。……Amazing graceです」


 あっ、あの賛美歌の。

 意外。

 もっと明るい曲を歌うかと思った。



 そんな考えは、桜さんの最初の一声で吹き飛ばされた。



 凄かった。



 いきなり全身に声が響き渡った。



 何……何が起きているの?



 だって声はほとんどマイクを通さずに広がっているのに、すごい声量で。



 それなのに、包まれるように優しい声。



 英語の歌詞なのに、何となく意味が頭の中に伝わっていく。



 愚かなことをしても、いつでも私達を変わらず愛してくれる……。



 本当は神様の歌なんだけど、私は両親や友達や誠さんのことを重ねてしまった。


 沢山の愛に包まれていたなぁ、と思ったら、また涙が出てきた。


 ええぃ、今日はいったい何回泣かされればいいんだ。


 やられた……。



 でも、桜さんの歌はみんなの心にも響いたみたいで、そこかしこからすすり泣く声が聞こえる。


 いや……桜さん……上手だ。知らなかった。



 有り難う、歌ってくれて。



 桜さんが歌い終わると万雷の拍手で迎えられて、彼女は一礼すると笑顔で優雅に手を振り返した。


 いやあ、もうすでに有名芸能人のオーラです。

 歌手にでもなれそう。


 3人は嬉しそうに何か話をしながら、席に戻って行った。



 誠さんと私の二人で、各テーブルをまわってお話をする時間になった。

 これはキャンドルサービスをやらない代わりで、せっかくだから話をしたり、お礼を言って回りたいと、二人の希望で決めたのだ。


 会いたかった人がいたり、もっとゆっくり話をしたかったり。



 そんな中に、悠太とその彼女さんがいた。


「おめでとう」

「悠太、有り難う。挨拶も嬉しかった……お隣さんが……」

「ああ、彼女の水咲莉子」


 悠太が紹介してくれた子は、やっぱり綺麗で可愛らしい子だった。

 大きな目がクリクリしていて、短めの髪がフワフワしていて、それでいて細身の体はなにか運動でもしているような軽やかさがある。

 明るくて、楽しくて、元気そうな女の子。


 私には似て……いないと思うけど。


 莉子さんは、とっても、とっても緊張した様子で勢い良く頭を下げて挨拶してくれた。


「はっ、初めまして! 今日はお招きいただいて、有り難うございました!」

「こちらこそ、来ていただいて有り難うございました」


 彼女が顔を上げて、大きな瞳がじっと私を見つめる。


 うん、澄んだ瞳で、とっても良さそう。


 私はそっと持っていたブーケを差し出した。


「はい。ブーケを……良ければ、受け取ってください」


 実は、悠太の彼女さんが良さそうな人だったら、私は彼女にブーケを渡そうと前々から考えていた。

 ブーケトスも無いし、最後まで持っていなくてもいいので、気持ちとともに渡そうと。


 私が言えた義理ではないかも知れないけれど、悠太には幸せになって欲しい。

 本当に、心から。


 その気持ちを、初めて合うけれど、悠太が選んだ人に伝えたかった。


 受け取ってくれる……よね?

 


 彼女は突然の私の申し出がなかなか理解できなかったようで、目をぱちぱちさせて固まっている。

 悠太が、くすっと笑って、莉子さんに声をかけた。


「ほら、莉子。まどかがブーケを受け取って欲しいって」

「えっ、えっ。ぶ、ブーケを? 私に?!」

「そうだよ。ほら」


 莉子さんは、音でも聞こえてきそうなぐらいギクシャクとした動きで、伸ばした私の手からブーケを受け取ってくれた。

 受け取ってから、何度もブーケと悠太の間で視線を行ったり来たりさせている。


 ああ、純粋で、素直そうな人だ。


 私はとっても安心した。


「まどか、有り難う」


 悠太がお礼を言ったことで、はっとした莉子さんが慌てて大きく頭を下げた。


「あっ、あの! 有り難うございました!」

「どういたしまして」


 私は悠太を見て、にっこり微笑む。


 そして、私はファイティングポーズをとると、渾身の右ストレートを悠太のお腹に打ち込んだ。

 悠太はある程度予想していたみたいで、軽く身体を曲げるぐらいで、私の拳をうまく受けてくれた。


 打ち上げでの約束、憶えていてくれたんだね。

 さすが。


「お幸せに」

「ああ。まどかもね」


 莉子さんはびっくりして、目を白黒させて私達の様子を見ていた。


 ごめんね、彼氏を殴って。

 でもこれで、お互いに新しい一歩を踏むから。


「莉子さん、悠太をよろしくね。お幸せに」

「はっ、はい!」


 私は頭を軽く下げて、席を離れた。



 悠太。

 私の代わりに見つけた人なんだから、ちゃんと結婚して幸せになってね。



 私は心のなかで、そう願った。



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