ケーキ入刀
ええぃ、一番手から泣かされるとは誤算だった……最後まで化粧が持つか心配になってきた。
化粧の崩れた花嫁なんて、そんな悲しい思い出は作りたくないのだけれど。
そんなことを考えていたら、次に曜子ちゃんが話をしてくれる番になった。
今日の曜子ちゃんはとても華やかな振袖を着ていて、何となく京都の修学旅行を思い出してしまった。
曜子ちゃんは軽い咳払いをして、話し始めてくれた。
「誠くん、まどかちゃん。ご結婚、おめでとうございます。悠太がきっと幼い時のまどかの話をしてくれると思っていたので、私は皆さんが知りたい『二人の馴れ初め』について話したいと思います」
ちょっっと待ったぁぁぁ!!
それを話すかぁぁぁ。
私は出ていた涙もすっかり引っこみ、作り笑いをしながらも心はひきつっていた。
「二人の出会いは、高校1年生の時に同じクラスになったことから始まりました。その時の誠さんは髪の毛も長くしてボサボサで、メガネも黒縁の瓶底メガネの、本当に目立たない存在でした。一方まどかちゃんは見ての通りの可愛い女の子で、入学当初から注目を集める存在でした」
……誠さんは、そんなにひどくなかったと思うけれど……一般的には、そういう評価だったのかな。
私のことは持ち上げすぎよ。
「そうなれば当然、誠くんの方が先ずまどかちゃんを好きになったとお思いでしょうが、実はまどかちゃんが誠くんに一目惚れしてしまったのが、全ての始まりでした」
どよっ、と驚きの声が上がる。
何ですか、この反応は。
「もちろん、まどかちゃんが医師になりたいという思いを抱いて、誠くんに勉強を教えてもらいたいとお願いしたのは事実ですが、なぜ誠くんじゃないと駄目だったのか……そのことに気付くのに、二人にとっては半年もの月日が必要でした」
ああ、そうだった……いま思い返すと、誰よりも曜子ちゃんが初めに気付いていたようだけど、私は自分の思いに気づくのに半年もかかってしまった。
でも、誠さんが私のことを好きになって、告白するまで思いがつのるのには、それだけの時間が必要だったのだと思う。
「その半年の間、ずいぶんとヤキモキさせてくれましたが、誠くんが振られる覚悟でのぞんだ告白があって、二人はようやく自分の思いと相手の思いに気づきました。まどかちゃんから報告を受けた時、私は我がことのように喜んでしまいました」
そう、私は告白されて初めて、自分の気持に気付いた。
私も誠さんのことが好きだったのだと。
「でも、それから初キスまでが長かったこと」
会場からどよめきが。
父はすこし、のけぞっていました。
「詳しいことを話すと二人に怒られそうなので、ご想像にお任せいたしますが、周りが盛り上げ、お膳立てをして、ようやく一歩を踏み出すほどの奥手の二人でした」
命拾いしました。
私がか、曜子ちゃんがかは置いておいて。
「ただ二人の仲の良さは、並ではありません。今では朝起きてから、学校に行き、食事を食べ、眠るまで、ほとんど一緒にいます。離れているのは、トイレに行く時とお風呂に入る時ぐらいでしょうか。…………いえ、お風呂は一緒に入っているかも知れませんが」
はーいーってーいーまーせーんーかーらー!!
ここは声を大にして抗議したい!!
……他はあっているけど。
「そんな二人がようやくこの日を迎えることが出来たこと、私も嬉しく思っています。まだ独身の私にとって、二人は理想像であったり目標であったりします」
曜子ちゃんから理想とか目標と言われると、何となく面映い気持ちもする。
だって、私達は曜子ちゃんに助けられたり、教えられたりしてばかりだったから。
……有り難う、曜子ちゃん。
「おめでとう、誠くん、まどかちゃん。いつまでも仲良く、お幸せに」
たくさんの拍手に深く一礼をして、曜子ちゃんの挨拶も終わった。
さて、次はまた私達の出番だ。
披露宴の定番。ウェディングケーキの入刀。
ああ、まさか自分がこれをやる方になるとは。
このお店は食事もおいしいが、何と言ってもケーキが美味しくて。
大きくはないけれど人数分の、生クリームをたくさん使った白いケーキを作ってくれた。
苺の赤さがところどころ彩られて、とても綺麗。
ただケーキの中央に型どられたハートに、切れ目を入れることが何となくためらわれたけれど。
司会の方の言葉に従って、ケーキの前に立つ。
誠もさんもちょっと緊張気味。
でも、一緒に長いナイフを持った時、ちょっと目を合わせたらにっこり笑ってくれた。
そうね、緊張してもしょうがない。
楽しんでいきましょう。
「新郎新婦、ケーキ入刀です!」
たくさんのフラッシュの中、私達はゆっくりとケーキに入刀した。
笑顔を作ってみるけれど、やっぱり恥ずかしいな……。
芸能人さんって、凄いです。




