悠太の彼女
結婚式の前に、2つほど大事な出来事があった。
ひとつは悠太から電話があったこと。
東京へ引っ越してしまってからメールも電話もなくて、少し心配していた。
年賀状で住所や近況は互いに知らせていたが、それだけが唯一のつながりだった。
だから携帯が鳴って、そこに「悠太」の文字を見た時は、ちょっとばかりドキドキした。
「はい、まどかです」
「まどか、久しぶり」
「悠太。久しぶり、元気にしていた?」
「元気だよ、大丈夫」
思っていたよりも普通にやり取りができて、私はほっとした。
「いつか来るかな、と思っていたけれど、とうとう招待状が届いてしまった」
そう、悠太にも結婚式の招待状を送ったのだ。
やっぱり悠太には出て欲しい。
彼としては嫌かもしれない、断わられても仕方がない、と心配しつつ。
「来てくれる?」
「もちろん、喜んで」
悠太の言葉に私は心からほっとした。
「良かった、有り難う」
「俺の方こそ、呼んでくれて有り難う」
「うん、それでもう一つお願いがあるんだけど」
「招待状に入っていた、一言いただきたい、っていうやつ?」
そう。私は出てくれるかだけでも心配だったのに、友人としての一言をお願いしてしまった。
「そう。悠太に一言欲しくて」
「……まどかにそう言われると、断れないな」
「ごめん」
「がらじゃないけど、やるよ」
「有り難う。楽しみにしてる」
「うん。……それで代わりにお願いなんだけど」
「えっ、何?」
悠太からお願い?
何だろうと首を傾げると、電話口の向こうで少しためらいながら悠太が話してくれた。
「もう一人分、席を用意して欲しい」
「もう一人?」
「うん」
悠太に兄弟はいない。
もしかして……。
「彼女を、連れていきたいんだ」
私は驚きで言葉が出なかった。
悠太に彼女!
私の心の奥から、ゆっくりと嬉しい気持ちがこみ上げてきた。
本当に、良かった。
「彼女、できたんだ」
「うん」
「ようやくだね」
悠太がくすっと笑う。
「誰かさんのせいでね。初めて女の子と付き合うことになったよ」
「そうだ、初めてだ。悠太モテるのに」
「だから、誰かさんのせいでね」
「相変わらず責めるのね」
「まどかのせいじゃなくても、これぐらいは言わせてくれ」
二人で笑った。
「どんな人?」
「どんな……か。聞かれると難しいな。変な奴と言うか、おかしな奴と言うか……まあ一緒にいて飽きないよ」
「そう。何か想像つかないな」
「確かに、まどかとはだいぶ違うからな」
「私と違ってお淑やかとか?」
「いや、元気だね」
「髪が長いとか」
「短いね」
「気が長いとか?」
「短気」
「……私と似てない?」
「そうかも知れない」
悠太はそう言って笑った。
「言われてみると、俺はそういうのが好みなのかも知れない」
「あまり褒められた好みじゃないね」
「まったくだ」
悠太のため息をつかんばかりの一言に、私は大笑いをしてしまった。
横で誠さんが勉強しているけれど、そんな私のことを笑顔を浮かべて見ている。
やり取りの様子で、だいたい理解できているのかな?
後で説明しますね。
「解った。一人分、席を増やしておくから」
「有り難う。当日、紹介する」
「うん、楽しみにしてる」
「ああ、それじゃあ。夜分にごめん。誠にもよろしく」
「有り難う。また電話してね」
「有り難う。まどかもね」
私達はそう言って、電話を切った。
「悠太さんから?」
誠さんが聞いてきて、私はうなずいた。
「はい。彼女を結婚式に連れていきたいって言っていました」
「彼女!」
「はい」
誠さんもやっぱりびっくりしている。
まあ、今までの悠太を知っている人は誰でもびっくりするか。
「それは、良かった。どんな子かな」
「私に似ているとか似ていないとか」
「……良く解りませんね」
「そうですね。当日の楽しみということで」
「でもやっぱり、どこかまどかさんに似ているような気がします」
誠さんが真剣な顔でそう言ってきた。
「そうですか?」
「きっとそうです」
男同士だけに解る何かがあるのかな。
誠さん、妙に自信がありそうだ。
私は自分がそんなに魅力的だとは思わないけれど、でも、有り難いことです。
私達は結婚式の時に、悠太の挨拶と彼女に会えることを、今から楽しみにしていた。




