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同棲が始まった理由


「同棲してみるか? ……私としては不本意だが」


 父である如月実が、真面目な顔でそうつぶやいた。


「ぶっ!」

「どうせいって、同棲?!」


 私は父が何を言い出したのか理解できず、開いた口が塞がらなかった。

 そして、もうひとりの当事者……彼である一柳誠は飲んでいた紅茶を盛大に吹いていた。


 それは、毎年恒例の12月28日の誕生日会の日だった。


 二人の誕生日が偶然にも同じだったため、高校1年から毎年どちらかの家だったり、お店だったりで家族一緒に誕生日会を開いていた。


 今日は二人にとって19歳の誕生日。


 私の家で、私と父と母、それと誠さんと彼のお母さんである真穂さんの5人で、楽しい時間を過ごしていた時の出来事だった。


「二人とも結婚のことはどう考えているんだ?」


 父が真剣な表情で聞いてきた。

 19歳になったばかりの子供に結婚の話を聞くものだろうか? という疑問が浮かぶが、確かに誠さんとはいつかは結婚したいな、とは思っていた。

 それは、誠さんも同じだった。

 ここは男である自分が行くべき、と考えたようで、誠さんから話し出してくれた。


「いつか結婚できたらいいな、とは思っています。ただ、まだ学生の身ですので、働き始めてからかな……と」

「ほら、そうだよ。そう考えるよ、普通は」


 父が振り向いた先には、母と真穂さんの顔があった。

 どうやらこの同棲話は、二人の母親が話しあって生まれたものらしいが、父はこの話にあまり乗り気ではないようだ。それが冒頭の「不本意」という言葉につながっているのだろう。


 母が代わりに解説してくれた。


「二人が結婚を前提に真面目なお付き合いをしているのは解っているわ。そして、それは私達も歓迎しているの。結婚に反対ではないわ。ただね、いつ結婚するかが心配になってしまったの」


 真穂さんがうなずきながら、解説を続けた。


「医学部は6年間もあるし、研修医の間は忙しくて結婚どころではないし。そうしたら10年ぐらいは最低でもかかっちゃう。しかもあなた達、真面目なのはいいけれど、まさか大学合格しても生活スタイルが変わらないとは思わなかったわ」


 そう。大学に入学するまではいつも、学校に行くか、それぞれの自宅で一緒に勉強をするかを続けていた。

 実は、それが大学を合格しても続いていたのだ。

 誠さんの夢が「小児の癌をなくしたい」だし、趣味が勉強だし、受験の前から毎日勉強していたし。

 それに付き合ううちに、私までそのリズムに乗ってしまった。


 もちろんデートもするし、合間にたくさん話もするので、不満はない。

 それどころか、勉強の楽しさを教えてもらってからは、私もそんな生活スタイルが嫌ではなかった。

 誠さんといると、いつもいろんな発見があって楽しいのだ。


 真穂さんがため息混じりに言葉を続けた。


「こんな真面目な交際を続けていたら、いつまでたっても結婚しないんじゃないかと、心配になって。結婚は時期も大切なのよ。少し時間のある学生のうちに、結婚するなり、子供を産むなりした方がいいと思うの」


 何か今、さらっと不穏な言葉を言いませんでした?


 結婚? 子供を産む?

 学生のうちにですか?


「それでね。まずは同棲を半年間して、これならば結婚をしてもいいな、と互いに感じたら、20歳の誕生日に結婚をしたらいいんじゃないかなって」

「ねぇ」

「私はそんなに急ぐことはないと思うんだが」


 母と真穂さんの意見は一致しているようだけど、父はあまり気乗りしていないようだ。


「付き合い始めて13年たってから結婚なんて、そんなに待っていたら、上手く行くものも上手くいかないわよ」

「私としても、ふたりが結婚してくれちゃったほうが安心なんです」


 母と真穂さんの言葉に熱が入り始め、父は額に眉を寄せながらも黙ってしまった。

 どうやら父もそれ以上の反対ができないようだ。

 父は矛先を変えることにした。


「で、君たちはどうしたい? 無理強いするつもりはない。そうしてもいいよ、という話だけだ」

「そうね。あくまで希望であり、お勧めね。あなた達がどうしたいか、決めていいわ」


 互いの両親からの同棲の勧め。

 おそらくこんなことを言われるのは、私達ぐらいかも知れないな……と私は他人ごとのように考えていた。


「僕は……いえ、私はまどかさんと一緒に暮らしたいです」

「え?」


 思いもよらない、誠さんの力強い返事だった。

 誠さんと父が、真面目な顔で視線を交わす。

 あたりに緊張感が走り、私も思わず背筋を伸ばしてしまった。


 数秒の沈黙。


 そして、父がふうっと深いため息をついた。


「解った。いいだろう。同棲を許可する。部屋を探しなさい」

「はい。有り難うございます」


 誠さんが深々と一礼する。

 私の身体と頭は固まったままだった。


 同棲……するの?


 いま……決まったよね。


 しかも、私抜きで。


 父は何やら感極まって泣き始めて、誠さんにビールをすすめているし。

 母と真穂さんは私の肩を叩いて「良かったね」「頑張るのよ」と励ましているし。


 いや、その……私も嬉しいけどね……。

 こんなふうに決まるとは思っていなかっただけで……。


 まあ、いいや。

 ゆっくりな私達らしい始まりか。


 私は父と一緒に涙ぐんでいる誠さんを見ながら、そう思った。


 私達の同棲は、こんなふうに決まったのだった。


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