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第八話 初めての街

 ガラクタの道を三人で歩く。オレはボディガードとして最後尾だ。いつグールが襲い掛かって来てもいいように気を張りながらな。

 それにしてもキーラまで来るとは意外だった。めったに外に出ないと聞いていたのにどういう風の吹き回しなんだか。


「なんだいアカリ、顔が怖いよ?」


 不思議に思ってキーラを見たら、そのタイミングで振り返られてうっかりキーラと目が合った。


「周囲を警戒してるんだ、顔くらい怖くなるさ」

「そんなに気を張らなくても大丈夫だと思うがね」

「あん?」


 こっちはお前らを警護するためにやってるんだぞ。なんて思ったのが顔に出ていたのか、前を歩くアオミがフォローを入れるように話に入ってきた。


「この辺りは街道になってるから、他のガラクタ地帯よりは比較的安全なの。ガラクタもまず降ってこないし、漁るものがないからグールもあまり来ないしね」


 なんだ、そういう事は早く言って欲しいな。でもガラクタが降ってくるとか、いまだにちょっとピンとこない。ここはどういう事になってるんだか。


「気になってたんだけど、ガラクタが降ってくるって何? 普通の事のように言ってるけど」


 すると、アオミはキョトンとした顔で答える。


「だって普通の事だもの。どこかはわからないけど、どこからか定期的にガラクタ……大小さまざま、色々なものが降って来てはこの世界を作り上げてる。もう何百年も前からそうなの」

「そんなしょっちゅう降って来るのか? そんな危ない所によく暮らせるな」

「ガラクタはだいたい決まった所に落ちてくるから、危なくない所に街や街道が作られてるんだよ」


 何百年もの積み重ね、その経験で安全地帯を見出してきたわけか。


「今はガラクタ予報があるから、ガラクタ地帯に資源を探しに行くのも楽になったんだから」

「天気予報みたいなもんか……」


 歩きながらアオミの後ろ姿を見る。荷物が詰まっているという見た目よりも物が入るリュックの横に、小さなラジオのようなものがぶら下がっている。ラジオ、あるんだな。

 ふと、後ろ姿を見ていた延長で腰のホルスターが目に入った。最初に会った時の事を思い出す、そう言えば銃を持ってたんだっけ。


「なあ、マギ装術が使えないやつ用の武器って話、その銃じゃダメなのか?」

「これ? それも考えたんだけど、これ作るのが大変な割にはあまり便利じゃないの。グール相手でも当たり所によっては全然効かないし」

「……それだったら、強力な近接武器で殴った方が早い、か」

「そういうこと」


 手作りっぽいしな。数を揃えて一斉に撃てば大概の事は解決できるだろうけど、どうにも実現は難しいようだ。上手くいかないもんだな。


 それからしばらく歩き続け、何も起こらなさに気を張るのがアホらしくなってきた頃。先頭を歩くアオミが嬉しそうな声を上げた。


「ほら、着いたよ!」


 声につられ顔を上げたオレは思わず声を漏らしていた。


「おお……」


 街とは聞いていたが正直言って期待はしていなかった。どうせちょっと集落があるくらいの村なんだろうと勝手に想像していたが、目の前の光景はそんな想像をあっけなく裏切ってくれた。

 ひしめき合う無数の建築物が横に上にと街を形作っている。どれも歪で小汚く、秘伝のタレのごとく継ぎ足してきたというのが見て取れる。

 しかしこれは間違いなく街だ。オレが想像していた何倍もの営みが生きる巨大な集落だった。


「ここが最寄りの街、ゴブリンの街『トラッシュシティ』だよ」


 ゴミ箱の街か。なるほど、言い得て妙だな。


「驚いたよ、こんな規模であるとは思わなかったからな」

「街は他にもあるけど、規模で言えばここが一番だからね」

「他にもあるの?」

「もちろん! ずっと北の方にはわたしたちの女王様がいるお城だってあるんだから」


 そりゃ凄いな。何が凄いってこんな無秩序のように見える世界で王政を敷いているのが驚きだ。ゴブリンは女王の治世の下で暮らしていたのか……自分もゴブリンなのに知らなかった。いや、忘れているだけか?


「それじゃ、私は自分の用を済ませてくるよ」


 街に着くなり、キーラがそう言って離れていった。


「どこに行くんだ?」

「どこでもいいだろう」


 ムッ、なんだよそれ。ちょっと聞いただけなのに振り返りもしない。


「……いや」


 と思ったら急に立ち止まって戻ってきた。


「どちらかと言えば君が来るべきだね。いい機会だ、一緒に来たまえ」

「なんだって?」


 突然の事に戸惑うオレを、キーラは手を引いて強引に連れて行く。そりゃあ振りほどこうと思えば簡単だけど理由もなく断るのも気が引ける。


「わたしも用事を済ませたら行くからー!」

「おい、ちょっと!?」


 遠ざかるオレたちにアオミが叫んだ。あの言い方だと目的地を知っているって事か?

 どこでもいいけどせめて説明してくれないかな。あと子供じゃないんだ、引っ張らなくても付いて行くから離せって。


 キーラに付いて行きながら、せっかくなので街の様子を眺めてみた。

 ゴブリンの街だけあってやはり住人はゴブリンが多い。たまに他の種族もいるようだ。ちょっと前に森で出会ったイークとかいう連中もいるな。もちろんこの間のとは別の連中だけど、他の種族の顔ってわかりづらいかも。


「着いたよ」


 店舗らしき建物がひしめく通りをある程度進んだところでキーラが立ち止まった。

 ここが目的地か、何の店だろう。他の店舗とは微妙に距離が離れているし、雰囲気もちょっと違う気がする。外見でわからないんだから看板くらい出しといてくれよな。


「なあ、ここ――」

「……」


 何の店か聞こうと思ったのに、キーラはオレが声をかけるかどうかのタイミングでさっさと中に入ってしまった。


「あっ! おい、ちょっと待てよ」


 無視されると悲しいぞ。ここに置いて行かれるわけにもいかず、オレも急いで中へと入った。

 建物の中は薄暗い通路が続き、どこか不気味な雰囲気があった。誰かがいる様子もない。何なんだよここは。


「薄気味悪いな、魔女用のグッズでも裏取引してるのか?」

「そんなわけないだろう。ここは診療所、病院だよ。この街唯一のね」

「病院~!?」


 病院に用があって来たのか? キーラのやつどこか悪いんだろうか。

 そんなオレの心配をよそに、キーラはとある扉の奥へと呼びかけた。


「おーい、モモロモ! いるのかい?」


 すると奥から返事が聞こえてきた。


「いるよ~。用意すっから座って待ってて~」


 甘ったるいような気の抜けるような、そんな声が。


「だってさ。ほら、座りなよ」


 返事を受け、キーラがオレを部屋へと招き入れる。オレは別に病院に用なんか無いんだけどなあ。どこから出してきたのかやたら立派なイスを用意してるし。


「用事はどうしたんだ? いいのか?」

「何を言っているんだい、用事があるのは君だよ。悪いところがあるだろう?」

「んん? それはどういう……」


 その時だった。キーラの用意したイスに座った瞬間、ガチャリと音がして頑丈そうな手枷がオレの両腕を拘束した。な、なんじゃこりゃ!?


「おい、何するんだ!」

「いやなに、せっかくだから悪い所を診てもらうといいと思ってね。悪いのは態度……いや、頭かな。一度切り開いて中を見るのも悪くないよぉ……?」

「てめぇえ! ダマしやがったなぁあ!」


 身動きの取れないオレの後ろ、死角に入ったキーラが何かゴソゴソやっている。そのうちにスイッチが入る音がして、刃が回転するような嫌な音が聞こえてきた。


「大丈夫、また良い薬を飲ませてあげるからねえ」


 何をする気か知らないが、何にしても冗談じゃない。その薬も含めてな!


「んぎぎぎ……」


 近付いてくるモーター音に焦りつつも、右腕にありったけの力を込める。

 いけるか? やっぱりダメか? くそっ、頑丈な手枷だな! もうちょい……いける、かな!?


「だああああ!」


 そして気合一発、思いっきり腕を引き上げて手枷を引きちぎってやった。片方が抜ければこっちのものだ、もう片方も両手の力でぶっ壊して脱出完了! すかさずキーラに飛び掛かった。


「うはぁ……とんでもないバカ力だねえ。オーガもびっくりするんじゃないかい?」

「お前ほんといい加減にしろよ」

「やだなあ、冗談だよ、冗談」


 回転ノコギリを叩き落とし、キーラをねじ伏せる形で馬乗りになってもこの態度だ。

 そりゃあ敵意や殺意を感じなかったから本気でやる気にはならないけど、中には殺意もなく酷い事をしでかす輩もいるから油断ならないんだよなあ。

 ……ん? 誰か来る。


「ちょっと~、病院で騒ぐなし。って何やっとん?」


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