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第七話 発明品を試してみよう

 今日は予定だと街に行くことになっている。だが、オレにはその前にやっておかねばならない事があった。

 そう、武器だ。ボディガードを名乗る以上、ずっと丸腰のままというわけにはいかないだろう。素手でもある程度は対処できる自信はあるけど、誰かを守るとなると厳しいからな。

 そういった旨をアオミに伝えたところ、「任せて!」と外で待つよう言われたのでこうして待っている。やたらと目が輝いていたのが気になるが……。


「お待たせ~!」


 楽しそうな声に振り向くと、息を切らせたアオミが箱いっぱいの荷物を持ってやって来るのが見えた。


「なにこれ」

「武器がいるって言ってたでしょ? 今こそわたしの発明が役に立つと思ってさ、どれでも好きなのを試してみてよ!」


 なるほど、やたらと目を輝かせていたのはこういう事か。要は発明品をオレにテストして欲しいわけだ。


「こっちも準備できたよ」


 呼んでないのにキーラも何か準備してるし。


「お前は何の準備をしたんだよ」

「アオミの発明を試すのだろう? ついでだから私にもデータを取らせておくれよ」

「また変なもの飲ませる気じゃないだろうな」

「大丈夫、今日はアオミの発明品を使用した事による肉体の推移を調べるだけさ。ねえ頼むよ、こういう実地的なデータはなかなか取れないんだよ~」

「ああもう、わかったから離せって。まあ、変な薬がないなら勝手に調べろよ」

「フフ、恩に着るよ。君は素敵なゴブリンだ」


 あまりにも縋りつくものだからつい許可してしまった。でもここで断って後から妙なもの飲まされるよりはマシだ、データくらい好きにしな。

 それでは気を取り直して。あちこちにセンサーを付けられているのが気になるけど、アオミの用意した発明品の武器を試していくとするか。


「とりあえず取り回しの良い近接武器は欲しいかな。大きめのナイフとかあるといいんだけど」

「だったらコレなんかどうかな」


 アオミが手渡してきたのは要望どおりの大きなナイフだった。鞘に入った状態でもかなり大きい、というかゴツい。

 鞘もでかければ刀身もでかい。なかなか立派な……と思ったが、ありゃ?


「なあ、これ刃が入ってないぞ」


 その大きなナイフは刀身こそ立派だが刃が入っていない。突く事はできるだろうけどこれではちょっと鋭い棍棒のようなものだ、リンゴの皮だって剥けやしない。

 しかしアオミは問題ないと言いたげな表情をしていた。


「ふっふーん、大丈夫! グリップ上部にあるスイッチを押してみて」

「スイッチ? ……これか」


 このナイフ、やたら大きいと思ったら機械仕掛けになっているらしい。言われた通りにスイッチを押してみると……おや、何か熱を感じるぞ。

 そう思っている間にも温度はみるみる上がっていき、刃の無い刀身が真っ赤に染まっていく。


「どう? 名付けて『熱溶断式ヒートナイフ』だよ!」


 自信ありげにアオミが言った。

 へえ~、なかなかにハイテクなもの作るんだな。オレもこういうの嫌いじゃないぞ。

 では早速、用意していたガラクタ製のカカシで切れ味を試してみよう。


「はっ!」


 短めの剣くらいある刀身を活かし、袈裟斬りに一撃を叩き込む。

 赤熱した刃がカカシの装甲を溶かし、スパッときれいに真っ二つ! ……とはいかなかった。


「ありゃ?」


 金属装甲の部分に刃が食い込み、溶かしながら斬れてはいる。けど思ったよりゆっくりで地味だな、バターみたいにはいかないのか。

 そしてなんだか様子がおかしい。ちょっと熱い。いや、めっちゃ熱くなってきた!


「あちちち!」


 刀身の温度上昇が止まらないのか、だんだん持っていられないくらい熱くなってきた。よく見たらフィンガーガードの部分まで赤くなっている、というか溶け始めている。


「ちょ、コレどうしたらいいんだ!?」

「さ、鞘! 鞘に入れて! 冷却機能があるから!」


 そうか、そのためのゴツい鞘なのか。

 急いで刀身を鞘に納める。が、まだ温度は下がらない。むしろ鞘を巻き込んで更に熱くなっているような……。


 ボウッ!


「おわっ!」

「きゃあっ!」


 ついにナイフは炎を上げ、オレの手から転がり落ちた。と言うよりは危険を感じて放り投げたんだが。

 その判断は正しかったようで、炎はみるみる大きくなり最後にはドカンと爆発までする始末。これではナイフなのか爆弾なのかわかったものじゃない。


「使い捨てならなくもないが、ちょっと贅沢過ぎないか?」

「今回は上手くいったと思ったんだけどなあ」


 そんな様子を見てキーラが笑う。


「ハハハ、アオミは修理の腕は確かだけど発明となると成功するのは稀なのさ。私としては面白いデータが取れているから満足だけどね」

「お前なあ」


 オレとしては危うく大ヤケドするところだったから笑えないぞ。

 アオミはほら、こうして心配してくれているというのに。


「ごめんね、大丈夫だった?」

「……ああ、オレは無傷だ」

「よかった! それで、次は何にする? 今のナイフもまだ予備があるよ」

「いや、それはやめておこう」


 しまった、嘘でもケガをしたと言うべきだったか。大変な目にあったというのに、オレに休む事は許されていないらしい。

 アオミの試作武器はまだまだ山ほどある。もしかしてこの際だからオレに全部試させようとしてる?


「はあ……」


 世話になっている手前嫌だとも言えず、オレは次の武器に手をのばした。

 伸びる剣に痺れる棍棒、果ては武器ですらない鎧のようなものまで次から次にテストしていく。結果はどれも同じように失敗で終わってしまったのだが。


「あれ、もう終わりかい?」


 アオミと二人してぐったりしていると、キーラのそんな声が聞こえてくる。


「うるさい、文句があるならお前がやってみろよ」

「それは無理だね。君が試しているそれらはマギリアのエネルギーで動いているのだから」

「……ん? どういう事だ?」

「チャンティからマギリアの事を聞いたんじゃないのかい? マギリアは生物を変異させるほどの力を持っているんだ、ちょっとした装置を動かすエネルギーくらいあるのさ」


 へえ、凄いな。エネルギー問題の解決に役立ちそう。いや、もう役立っている、のか?


「それはわかったけど、それとお前が使えないのとどう関係あるんだよ」

「簡単な事さ、私はマギリアが好きじゃないんだ。何より自分でやったらデータ取りに専念できないからね」


 なんだよそれ。好みの問題なの?

 ……ん、待てよ。


「もしかして、マギ装術使えないのか?」


 ふと疑問に思って聞いてみた。どうやらこれは図星だったようで、キーラは一瞬ドキリとしたような表情を見せる。


「マギ装術は誰でも使えるわけではない、むしろ使える者の方が少ないんだ。そう聞かなかったのかい?」

「聞いたよ。で、使えるの?」

「……使えないよ」


 ほうら、やっぱりな。


「へえ、そんな魔女みたいな格好してるのにマギ装術は使えないんだな」

「これは作業着のようなものさ。白衣でも良かったんだけど、ちょっと変わった知り合いとお揃いになるのが嫌だったんだよ」

「ハハッ、お前に変わり者呼ばわりされるなんて相当だな」

「はあ……」


 使える者の方が少ないという割には、キーラは微妙に悔しそうな顔をしていた。

 すると今度はアオミが自身の発明について説明してくれた。


「わたしの発明はマギ装術が使えなくても有利に戦えるようにするものなの。そうすればみんな今よりももっと安全に暮らせるでしょ?」

「……安全、ねえ」


 ナイフだった燃えカスがいやに視界に入るのは気のせいだろうか。

 さて冗談はさておき、そういう立派な志のある発明品も今回は不発に終わってしまった。あれだけあった発明品はすべて失敗、ガラクタへと逆戻りしている。

 ……オレの使い方が悪かったわけじゃないよな?


「ヒヒッ、君の使い方が悪いんじゃないのかい~?」


 キーラが笑った。


「心を読むな。なんだよ、仕返しのつもりか?」

「まあまあ、そう怒らないで。マギリアの容量には個人差があるんだ、私のようにわずかなマギリアさえ扱えない者もいれば凄まじい量を内包している怪物もいる。……ヒヒッ、だからこそ腹立たしくあるのだがね」


 キーラが何を言いたいのかよくわからない。もしかしてオレに才能があるからかえって失敗しちゃってるって言いたいんじゃ……って、なわけないよな。

 もしそうだとしても、どっちみち失敗の原因はオレって事だし。うーん。


「やっぱり、オレのせい?」

「ううん、使い方に問題はなかったよ。わたしの腕がまだまだ未熟だから成功率はこんなものなの、気を使わせちゃってごめんね」

「いや、オレはいいけどさ」


 思ったよりもアオミは残念がっていないようだ、もともと成功する方が珍しいみたいだな。まあオレとしても貢献できたのならそれで……。


「……って、違う! ボディガードするなら武器がいるって言ってんだよ!」

「あっ、そうだったね。えーと、はいこれ」


 そう言って渡されたのは頭が入るくらいの大きな筒に銃のようなグリップとトリガーが付いた物体だった。横にはバルブハンドルまで付いてるしなんだこりゃ、まだあったのか発明品。


「なあ、もう発明品は……」

「これはマギリア関係ないから大丈夫だよ。名付けて『バネ式ジェットランチャー』、ボウガンの要領でそのへんの物を適当に入れて飛ばせるの!」


 飛ばせるの、じゃない。結局はこれも発明品だろ。

 ハンドルが固くて一回準備するのに凄い力がいるし、取り回しが悪すぎるぞコレ。殴った方が早いんじゃないか?


「普通の~、普通のがいいよ~」

「困ったなあ、後はもうナタくらいしか……」

「それ、それでいい! それでいこう!」


 ちょっと泣きそうになってたから強引に決めさせてもらった。そんな残念そうな顔してもダメですよ。

 やれやれ、結局またコイツか。まあ大きさも切れ味も悪くないし、今はこのナタで十分としようか。


「で、街に行くんじゃなかったのか」

「アカリが武器がいるって言ったんじゃない」

「発明のテストをしたいとは言ってない!」

「あはは、ごめんごめん。準備はできてるから、それじゃあ行こっか!」


 まったく、からかいやがって。ようやく出発か、さてどうなる事やら。

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