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第三話 キーろいお出迎え

 歪んでしまったショッピングカートに別れを告げ、オレとアオミはガラクタの中を歩いて行く。

 幸い、もうすぐガラクタ地帯を越えるという事だ。そしてそのまま危険な生物に出くわしたり、上から落ちてきたガラクタに潰される事もなく抜ける事ができた。

 無事ガラクタ地帯を抜けたら今度は森林地帯。こういう所がガラクタの落ちて来ない安全な場所というわけか。境界線がはっきりしているようだ。

 アオミの話ではグールのような危険なやつらはガラクタ地帯にしか現れないらしい。ひと安心といったところだが……やつら何が楽しくてあんな所にいるんだか、オレには理解できないね。


「さあ、着いたよ」


 しばらく森林地帯を進んだのち、アオミが足を止めてそう言った。

 目の前にあるのは見上げるような巨木。そしてその木にあちこち刺さるように建て付けられている家のような物体であった。ツリーハウス……とはちょっと違うな、大きなキノコのアクセントなんかなんともファンタジーだ。


「変わった家だな」

「あはは、やっぱりそう思う? あちこち増築してたらこんなになっちゃって。あ、入り口はこっちだよ。さあどうぞ」


 扉を開けるアオミに対し、オレは足を止め今一度問いかけてみた。


「本当にいいのか?」

「何が?」

「雇うって話だよ。オレは記憶がないんだぞ? もしかしたらとんでもない極悪人かもしれない。なにせ素性がわからないんだ、このオレ自身にだってな」


 ちょっと意地悪な質問かとも思った。が、アオミの返事は早かった。


「うーん、まあ大丈夫じゃない? だって助けてくれたもの、それで十分だよ」


 お人好しだなあ、せめてもうちょっと悩めよ。ま、今さら放り出されても困るのはオレの方か。ここはお言葉に甘えるとしよう。


 家の中はわりと普通……かな。ちょっと散らかっている。外観のファンタジーさに対して凄まじい生活感だ。生活してるんだから当たり前か。


「えっと、アカリの部屋はどこがいいかな。ごめーん、ちょっと片付けるから適当にくつろいでて~!」


 奥からアオミの声が聞こえ、バタバタと駆けまわる音が上の階へと向かって行った。

 適当にくつろげと言われてもなあ。ただでさえ勝手知らない他人の家、どこに座っていいのかもちょっとわからないんですが。

 とりあえず置いてある物をうかつに触って壊さないよう気を付けながら椅子らしきものを探す。都合よくテーブルセットがあったから、後は……座って待っていようか。


「おや、誰かな?」


 すると、後ろから声がした。アオミではない。アオミだったら「誰かな」なんて言わないからな。

 振り返ると、そこにいたのはまた別のゴブリンだ。黄色い髪で片目を隠し、魔女みたいな真っ黒い格好をしたやつだった。

 第一印象は「怪しい」の一言だ。格好もそうだが全体的な雰囲気がな。

 まあ、相手もそう思っているのだろうが。


「オレは――」

「ああいいよ、私が聞いたのだから先に名乗ろう。私はキーラ、この家に住む科学者だよ。君はアオミのお客といったところかな?」

「ちょっと違うがそんなところだ。名前はアカリ、今はな」

「ほうほう、よろしくアカリ。おっと、気が利かなくてすまないね。ほらどうぞ」


 科学者、ねえ。どう見ても魔法使いなんだけどな。にしても口の回るやつだ。

 しかしお客と見てお茶を出してくるあたりは礼儀がなっている……のかな? このお茶が懐から出てきたように見えたのが気になるけど、アオミの同居人ならそう変な事はしないだろう。お茶は有難く頂く事にした。


「ねえアカリ、君はゴブリンについてどう思うかな?」


 キーラはテーブルの反対側に向かい合うように腰かけ、面と向かってそう問いかけてきた。


「どういう意味だ?」

「そのまま、種族としてどう思うかって事さ」


 そう言われてもな。オレ自身ゴブリンなんだけどあまり自覚ないし。


「よくわからない。今は記憶もないからなおさらだ」

「頭のケガのせいかな? まあいいさ」

「なんでそんな事聞くんだ? 自分だってゴブリンだろ」

「私はね、種というものを超えたいんだよ。適応力こそ高いが小柄で非力、特に何が得意というわけでもないこの種をね」

「ふーん」


 そういうものかね。オレには特に関係のない話だ。


「おや、興味ないかい?」

「悪いけど興味ない。それに、誰だって今あるものでなんとかしなきゃならないってのは同じだろ? そういうもんさ」

「ふふ、手厳しいね」


 ううん、こういうタイプのやつ苦手だなあ。早くアオミ戻ってこないかな。


 ――ドクン


 ……!? な、なんだ? 急に妙な動悸が……。

 手に持ったカップが意に反しテーブルに転がった。体が締め付けられるような痺れるような感覚で思うように動かなくなっている。

 頭が割れるように痛い。嫌な汗が次から次へと流れてくる。座っているのも辛くなり、オレは椅子から転げ落ちて床に倒れ込んでいた。


「おやおや、効いてきたようだね」


 キーラが立ち上がり、倒れているオレの目の前へとやって来る。

 こ、こいつまさか、毒を盛りやがったのか!?


「て……てめ……」


 うまく声を出す事すらできないオレに向かい、キーラはしゃがんで顔を覗き込んできた。


「もうひとつ聞こう。君はいったい何者だい? ゴブリン「みたいな」アカリ君」

「あ……?」

「我々ゴブリンの身長は高くともせいぜい130、しかし君は140以上は余裕であるね。ゴブリンとしてはかなり大柄だ」

「だから、何だってんだ」

「もうひとつ。通常、髪の色と目の色は同じ。アオミは青い髪に青い目だし、私も黄色い髪に黄色い目だ。ところが、君は燃えるような赤い髪をしているにも関わらず黒い目をしているじゃないか。珍しい、本当に珍しいよ。実に興味深い」


 何が興味深いだ。そんな細かい事なんか知らないし、オレが誰かなんてオレの方が知りたいくらいだよ。


「う、うるさいぞ。そ、そんな事よりこの毒を何とかしやがれ……!」

「ん? ああ、その薬か」


 するとキーラはニヤリと笑った。


「いやなに、君も知っての通りアオミはとてもお人好しでね。中にはその優しさに付け込んで騙したり利用したりしようとする輩もいるんだよ」

「……アオミを心配してるようには見えないぞ。お前もその一人じゃないのか?」

「ハハッ、よくわかってるじゃないか。まあビジネスライクな関係だよ。とにかくだ、私は今の環境がとても気に入っているんだ。研究を続けるには最高だからね。だから、招かれざる客にはご遠慮願いたいのさ」


 キーラの表情がニヤ付いた顔からスッと真顔になった。

 ぐおお、ヤバいなこの状況。ま、まだ体が上手く動かない。このままじゃ何をされるかわかったもんじゃないぞ!


「おや、どこに行くのかな。無理しない方が良いと思うよ」


 這いずって逃げようとするオレをあざ笑うかのようにキーラが言う。

 くそっ、覚えてろよお前。調子が戻ったらボコボコに――


「あ、キーラ下にいたんだ」


 その時、この最悪な状況の中で聞こえた優しい声。ようやくアオミが戻って来てくれたのだ。この時ばかりはアオミが天使に見えたね。


「あっ……、アオミっ……!」


 ちょっと恥ずかしいが背に腹はかえられない。この変態科学者を何とかしてくれとばかりに、オレはアオミの元へ這って行った。


「あれっ、アカリどうしたの!? あーっ、キーラったらまた変な薬を試したんでしょ!」


 すると、キーラはつまらなそうにため息をついた。


「別に、ちょっとからかっていただけさ。それよりも、そろそろ包帯を取ってもいい頃だと思うよ」


 包帯? オレの頭に巻いているやつの事か?

 あれ……そういえばいつの間にか全身の不快感が無くなっている。動くようになった体で言われた通り包帯を取るとあら不思議、頭の傷がきれいに塞がっていた。


「治って……る?」

「窓から君たちが帰ってくるのが見えたからね。ケガをしているようだったし、この間できた治癒力促進剤を実け……投与してあげたのさ」

「今実験って言ったか?」

「治ったんだからいいだろう。でも予想通り副作用が酷くて気軽には使えないかな」

「少なくともオレは二度と飲まないからな」


 はいはいとキーラが肩をすくめて返事をした。

 アレはいわゆる回復薬だったのか。正直、傷の痛みより副作用の方がよっぽどキツかったけどな。

 おまけに妙な事ばかり言いやがって。ボコボコにしてやってもよかったけど、今回は傷を治してくれた分で帳消しにしてやるよ。


「じゃ、私は研究に戻るよ。これからよろしく、アカリ君」

「……これから? オレの事、話してたっけ?」

「アオミが部屋をひとつ空けようとしていたからね。それに、やっぱり君は只者ではなさそうだ。私としても期待が持てるよ、うん」


 不気味な笑いを残し、キーラはそのまま二階へと去っていった。


「わたしが見てない所で色々あったみたいだね」

「……ここで死ぬかと思ったよ」

「あはは、キーラはそんな事しないよ。誤解されがちだけどとってもいい子だから」


 本当かな。アオミの言葉に嘘はなさそうだがどうにも信用できない。

 それにしても、この家で共同生活しているって事はオレともそうなるって事か。ちょっと不安になってきた。信じるぞ、アオミ。


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