私の決断
「先生、助けてくれるって言ったのに嘘つき!!」
私はジト目で先生を睨む。先生は何を言ってるの?と言う様に肩を竦めて
「アデレイド嬢は僕が手助けしようとしていたのを見てなかったの?僕の誘いを断ったのはレオナルド君なんだけど…………酷いなぁ、もう」
頬ををぷぅ、と膨らませてぷりぷりしている。先生がそんなかわいこぶったって可愛くない!!なんならお兄様のぷりぷり顔が見たい!!私は肩を落とし、ため息を吐いた。
「先生は助けようとしたんじゃ無くて研究したかっただけでしょ…………」
小さく呟いたアデレイドにレイシスは無言でニッコリと微笑み小首を傾げた。
(絶対聞こえてるのに…………聞こえてないフリしてぇぇぇ!!!憎たらしいけどもっさりした鈍感犬みたいで可愛いのがムカつくわ!だけど、分かった事が一つある。もうお兄様と先生を絶対合わせちゃいけないって事………)
一人であれこれ思っていると、先生が私の隣にきて頭をポンっと叩いた。
「まぁ、今回はレオナルド君が何とかしてくれるみたいだから、レオナルド君のお手並み拝見って所かな?それと、今までの事をグレアム殿にも報告した方が良いんじゃない?君を黙って連れ去ってしまったままだったし?」
(そうだった、私は自分の事で頭がいっぱいいっぱいで、お父様とお母様に何の連絡も入れてなかった!!)
アデレイドはレイシスの服の裾を掴み
「先生!!家に帰ります!!現状を一緒に説明してくれますか?」
連絡をするのを忘れていたので、一人で帰るのが気まずかったのだ。もちろんお父様と、お母様は優しいから怒らないが、心配をかけた事には変わりはない。
「フフッ、いいよ、僕もグレアム殿に会いたいしね」
先生の裾を掴んだまま、自分の部屋に瞬間移動をする。まだ一週間も経っていないのに懐かしい気持ちになり、気が緩む。すると、レイシスがアデレイドのほっぺをムニっと掴む
「気を緩めすぎだよぉ?一応国から探されてる身なんだから、少しは緊張感もってね?いざって時はまた逃げるけど、そんなの間抜けでしょ?」
…………間抜け、、確かに家に帰って来た事が嬉しすぎて、逃亡中(レイシスが連れ去っただけだが……)な事を忘れていた。見つかったらまた何かしら理由をつけて囲おうとしてくる筈だ。アデレイドはあの嫌な時間を思い出し身震いをした。
「意地悪言ったけど、君が隙だらけだから心配になるんだよねぇ……まぁ、魔人の件は何とかなりそうだし、今後の話しをグレアム殿としよう。さっ、行こうか?お姫様、お手をどうぞ」
先生と手を繋ぎ、お父様が居るであろう書斎を目指した。途中メイド達とすれ違い、心配そうな目で見つめられたが、またあとでねと手を振ってすり抜けた。
コンコンコンッ
「アデレイドです、お父様入ってもよろしいですか?」
アデレイドの声がした瞬間、書斎の中から色々ぶつかる物音がする。そして扉が大きく開き、お父様が勢いよく飛び出してきた。
「アデレイドォォォォォォォオオオオオオ!!!!」
ギュッと抱きしめられ、頭やほっぺ、額など沢山のキスの雨が降ってくる。私は嬉しいけど、先生の前なので恥ずかしい。
「お父様、ただいま帰りました。その……今先生も居るので、あまり、今はやめてください…………恥ずかしいです…………」
真っ赤な顔でお父様に訴えかける。最後の方は恥ずかしさの余り消え入りそうな程小さな声になった。グレアムはアデレイドに言われて初めてレイシスが隣で佇んでこちらを見ている事に気づいた。
「ん?あぁ、レイシス殿も居たのか、そういえばレイシス殿、いくらアデルの先生と言えど、色々好き勝手に連れ回すなんて非常識だぞ!!…………ただ、あの時はあれが一番良かったのかもしれないが、が、しかし!!…なんの連絡もしないのは大人としてどうなのかな?レイシス殿?んんん?」
可愛いアデレイドを久しぶりにギュウギュウに抱きしめながら、アデレイド成分を補給しつつレイシスを睨む。レイシスは、もういい?と言いたげな雰囲気で、
「とりあえず説明するから、どこかに場所を移さない?奥方にもアデレイド嬢の元気な姿を見せた方が良いんじゃない?」
と、その言葉で応接室に移動する事になった。応接室に着いてからは親子感動の再会パート2が始まった。お母様が泣きながらアデレイドをキツく抱きしめて離さなかった。お母様の心配が伝わり、とても心が痛くなった。アデレイドがごめんなさいお母様と抱き合うのを見て、居ても立っても居られずにお父様も加わった。親子3人で抱き合う時間が10分程経過し、レイシスに「そろそろいい?」と冷めた言葉を投げかけられて、抱擁タイムが終了した。お父様はムッとしていたが、それぞれ席着くことになった。
まず、アデレイドが今までに至る一連の流れを説明した。お父様は難しい顔をし、お母様は心配そうにアデレイドを見つめている。
「まぁ、国王がムカつくから、僕らの力で、この国を密かに守ろうとしたけど、結局、元凶の魔人の事はレオナルド君が何とかしてくれるみたいだし、後は経過を見守るしか無いんだよね……だから今後の課題は、アデレイド嬢がのびのびと暮らすにはどうするかなんだよね、グレアム殿達の考えを聞かせてほしいんだけど、今後のプランとか考えてたりする?」
「今回のアデルを隊長にする話は魔物の出現がこれから落ち着けば、そもそもの出番はなくなり、この話自体をなくす事ができると思う…………ただ、それが消えても王は今後もアデルを欲するだろう。どんな法律を持ち出しても、私の出来る限りの人脈の繋がりを使って策を練ってもあの国王には意見は通らないだろう、もし、この中で一番可能性があるのならば、レイシス殿…………貴方の意見が一番通る筈だ。あの日、レイシス殿が消えてから国王はずっとアデルよりもレイシス殿の事を気にしているらしいからね」
レイシスの事に関して異常に執着を持つ国王。それを聞きレイシスはうんざりした気持ちになる。
(幼い頃から分かってはいたけど、伯父のあの執着はきっと僕の能力って言うよりは、僕の顔のせいだ…………はぁ、面倒だな)
口元はにこやかだが、内心ゲロを吐きそうになる。しかし、自分の魅力でこれからも王を牽制出来るのであれば、少しはマシかもしれない。まぁ、何とかならなければ他の国でアデレイドと光魔法や色々な研究を続けながら旅をするのも良いな、とも考え、思考を遥か彼方に追いやる。
が、すぐにアデレイドの母親の言葉で現実に思考が引き戻された。
「レイシス様!いざとなった時には、アデルをどうかお願いします。私達はアデルの健康と、幸せを望みます。アデルを誰かの操り人形になんてしたく無いのです」
真剣な眼差しは、レイシスを居心地悪くさせる。母親の無償の愛は昔から苦手なのだ。レイシスもアデレイドを操り人形にしたいわけじゃ無い。のびのびと思うがままに魔法を使って一緒に新しい魔法を生み出したり、新しい現象を発見したりしたいのだ。
「もちろん、僕もアデレイド嬢の幸せを願っているよ?じゃぁ、今から国王への説明を考えて、報告しに行かなくちゃね、アデレイド嬢もまた一緒に来てもらうことになるけど大丈夫?」
全員の視線を一身に浴びる。アデレイドは皆んなが話し合っている間ずっと考えていた事があった。自分の事なのに、皆んなに迷惑をかけている。だけど、もちろん自分自身も国に縛られるなんてごめんだ。そして、これを打開するにはどーしたら良いのかと、
「あの、私が魔法を使えなくなった事にするのはどうでしょうか!!魔力が枯渇してしまったとか何とか言って、そしたら王様も私に興味をなくすのでは無いでしょうか!!」
皆んなが気遣わしげな顔で見てくる。このアイデアなら確かにあの王には効きそうだ。だが、アデレイドは学校に通えなくなる。多分それをアデレイドは分かった上で発言している。そのアデレイドの発言を聞き、最初に口を開いたのはグレアムだった。
「アデレイド、君は学校が好きだろう?無理しないでおくれ、そんな事をしたら君は学校に通えなくなるよ?分かっているだろう?だからここは私達大人に任せて良いんだよ?その為に私達が居るのだからね」
アデレイドに頼って欲しくて、心配させないように笑顔でグレアムは言う。自分達の不甲斐なさのせいでアデルの好きな事を奪う事は絶対にさせたくないと。しかし、アデレイドは決めていた。転生した時に強すぎて国に囲われそうな時は力をセーブして生きると、魔法が楽しくてついつい忘れていたが、私はバッドエンドはごめんなのだ。だから今回は、自分が目立たない環境に身を置けば良いだけなのだ。
「私、本当に無理してませんよ?学校は好きですが、皆んなに迷惑をかけてまで行きたいとは思いません。それに、国に囲われるなら学校にも碌に通えなそうだし、、後、大好きな魔法の事なら先生だって居るし、なんなら今から冒険者になっても良いですね!意外と私向いていると思うんです!私の未来は誰のものでもない私だけのものです!なので私は何の我慢もしてません、これからまた何を始めようかワクワクしています!!だからお父様、お母様、こんな貴族らしくない、破天荒な私でも許してくれますか?先生も私にこれからも付いてきてくれますか?」
興奮して一息で喋っていた。そして、いつの間にかソファーから身を乗り出し立って話していた。冷静になりちょっと恥ずかしくなったのでゆっくりとソファーに座り直した。そして、皆んなの様子を探ろうとしたが、すぐ隣に座っていたレイシスが急に笑いだした。
「プッッ、アハ、アハハハハッ」
(なっ!なんで笑うのーーー!!一応私の決意表明なんですけど?)
ジロリと先生を睨むと、レイシスはアデレイドを持ち上げ、体を向かい合わせにして、膝の上に乗せる。
「君、やっぱりいいね!隠れてこそこそ生きるよりも、人は自由でなくてはね。例え道を塞がれたとしても新たな道をつくる。そして、全く別の新たな選択をしても良い。君のその次々出てくる新しい考え方が好きだよ。僕は全然迷惑じゃないからこれからもいつでも頼ってよね?君の光魔法はまだまだ研究の途中だしね」
「せ、先生…………本当に研究が好きですね、フフッ、これからも頼りにしてます」
レイシスの研究好きには呆れるが、それ以上にレイシスの言葉が嬉しかった。もしかしたら私の言っている事はただの逃げで、我儘かもしれないとも思ったが、新しい道を作り歩む君が好きと言われ、肯定してくれる人がいる。それだけで、とても嬉しい事だとアデレイドは思った。そして二人の世界になっているのをグレアムが許すはずがなかった。
「ゴホンッ!ウォッホン!!おい、おい?レイシス殿?ウチの天使に近づきすぎじゃないかい!とりあえず一旦アデルを降ろしたまえ!!それと、アデル?お父様もお母様もアデルがやりたい事が一番大事だと思っているんだよ。もし、アデルのやりたい事が誰かを傷つけたり、不幸にするものならば止める事もあるが、アデルがそんな子じゃない事は私達が一番知っているからね?だから、アデルが無理をしていないのであればアデルの望みを叶えよう」
お父様が優しい微笑みでアデレイドを見つめた。お母様も隣で小さく頷き、アデルおいで、と両手を差し出している。私は小走りでお母様の胸の中に飛び込んだ。
「アデルはいつの間にこんなに成長していたのかしら。私の元からあまり早く旅立たないでね?でも、貴方の成長を妨げたくないわ……ふふっ、成長を見守るってとっても難しいわね、いつまでも小ちゃい私の赤ちゃんだと思っていたけれど、アデルはいつの間にか立派な女の子に成長していたわね。大好きよアデル、貴方のこれからの人生が楽しみだわ」
ギュッと母親に抱きしめられる。そして、いつの間にかグレアムがアデレイドと、ルーシーをさらに抱きしめていた。親子の絆がさらに深まった瞬間であった。今度はレイシスも優しい笑顔で見守っていた。しかし、その抱擁が長すぎて、流石にレイシスに「もう良くない?」と呆れられるのであった。




