アデレイドの決心
アデレイドとレイシスは海が見える港町に来ていた。カモメが空を気持ちよさそうに飛んでいる。
「海って不思議だよねぇ〜、広くてしょっぱい湖みたいな、生きてる生物も魅力的だし、深海に住んでる生き物はまだ未知の動物とかいるし……本当研究しがいがあるよねぇ〜」
「あの、先生……研究よりも、王様にあんなこと言って大丈夫だったんですか?……それに、サンレモント王国は大丈夫でしょうか…………魔物が沢山出てるって話は本当なんでしょうか」
突然の瞬間移動の事よりも、レイシスのいつも通りな態度に不安になり、思っている事を全部尋ねてしまう。
「魔物が今多いのは本当だよ、この前はクレトの街を救えなくてごめん、急な要請だったから間に合わなかったんだ。それ程魔物の量は増えている」
先輩の領地、派遣要請はあったんだ……先生も手こずってしまう程の魔物の量って、まさか魔人が先生の所にも出たんじゃ…………そう思っていると
「それに、魔人が10体もでた、だからって、間に合わなかった言い訳にしたらどーしようもないんだけどさ……」
少し目を伏せてボソリと話す。その横顔がすごく綺麗で見惚れてしまう。
「さっ、それでどーする?僕はいろんな国を見て回っても良いし、研究を君としても良いね。ただ、今アデレイドがしたい事はなんだい?君に僕の人生をあげるよ。楽しそうだしね」
吸い込まれる様な深いブルーの瞳と薄く綺麗な唇から紡がれる甘い言葉。私に人生をくれるなんて、とても簡単なことの様に綺麗な笑顔で囁く。この人はもしかしたら天使、または、甘い言葉で拐かす悪魔なのではないか………それほどに、美しく、惑わされるには十分であった。
「せ、先生、まずはいつものピンク頭の先生に戻りませんか?私にはピカピカな今の先生は違和感が強くて……」
とにかくいつものもっさり先生に戻ってもらい心の平穏を保ちたかった。
「ははっ、いいよ僕が綺麗すぎて話しずらいか」
アデレイドを茶化しながらすぐにいつものもっさり姿になる。ドキドキが半減して喋りやすくなった。
「それで?僕の人生はどうなるのかな?君の選択を聞かせてくれる?」
先生の言い回しに顔が赤くなる。しかし、先生を巻き込む事になったからにはしっかりと考える時間が欲しかった。
「先生、今日一日は考える時間に当てても良いですか?」
頭に手を置いてポンポンとされる。
「いいよ、なら考えが纏まるまで僕の研究に付き合ってよ」
ウィンクをして手を繋がれる。
「人魚の研究したいからさ、アデレイド嬢協力してくれる?僕と人魚は相性悪いから後回しにしてたんだよね……アイツら話聞かなくて攻撃ばっかりしてくるから僕も防戦一方になって話どころじゃ無かったし……君が仲良くなったなら僕を紹介してくれないかい?」
ユートゥティスの事を思い出し、アデレイドの顔が笑顔になる。
「もちろん!!私のお友達紹介しますね、優しくてとっても良い子なんです!!」
「ははっ、君が言う良い子は信用できそうだね、ジェイクの時も同じ様なこと言ってたしね」
アデレイドは早速先生と一緒に人魚のテリトリーの海に瞬間移動した。
(前はユートゥティスがここからは縄張りだからこれ以上きちゃダメって言ってたなぁ……懐かしい)
「先生はここで待っていてくださいね、私が先生を連れてきた事話しますから」
先生はニッコリと頷き空中に浮いたまま待っている。私は海の中に潜りユートゥティスを探す。連絡を取り合う何かを持っているわけでは無いが、何故か出会える気しかしない。すると、アデレイドに攻撃魔法が飛んでくる。バリアが攻撃を弾く。
(なっ!!危ないでしょうが、あの時仲良くなったのになんで?誰がこんな事を?)
振り向くと見知らぬ初老の人魚だった。こちらを睨みつけ更に攻撃を仕掛けようとしてくる。
「人間め!出て行け!!ここはワシらの縄張りじゃ!!女子供だろうと容赦せんぞ!!!」
「ガボゴボゴボホゴボーー」
(あっ、私海の中じゃ喋れなかったんだ……ユートゥティスーーどこいるの?もぅこんなおじいちゃんと戦ったら怪我させちゃうじゃん)
攻撃が全然通じないと分かった人魚は法螺貝を吹き仲間を呼んだ。続々と人魚が集まり最初に人魚達と対峙した時の様になる。その人魚の中にユートゥティスを見つける。嬉しくてユートゥティスの元に泳ごうと体の向きを変えようとすると大きなフォークの様なもので体を刺される。ちょうどフォークの隙間に挟まる様に刺され岩とフォークの間に挟まり身動きが取れない。
「貴様は何者じゃ?こんな所に子供だけで来れるわけがない!前も何回かきたことあるあの外にいる男の仲間か?何が目的じゃ!まさか、また人魚狩りをする気か!!」
族長が怒りを露わに叫んでくる。アデレイドは必死に弁解をするが…………
「ゴボゴボゴボゴボゴバーーー」
海の中では喋れず伝わるはずもなかった。
「はぁ〜調子が狂うのぉ……なんだかあの時の事を思い出す……何を喋ってるかわからんから、ほれこれを舐めろ、話せる様になる」
前の時の様に海の中で喋れる飴を口の中に入れられる。
「族長!酷いです!!私の事忘れたんですか?アドラです!!ア・ド・ラ忘れてまた攻撃するなんて酷いです」
「おい!嘘をつくのも大概にせぇよ!ワシがここに立ち入る事を許した女の子は貴様の様な白銀の髪ではなかったぞ!!しかも顔つきもだいぶ違う!人魚を騙すにしても限度があるぞ!!巫山戯るなぁ!!!!」
そういえば……旅の間は変装をしていた事を思い出した。しかし、声は一緒なのでそこは覚えていて欲しかったと少し拗ねるアデレイド。このままでは埒が明かないと思い、旅の時と同じ見た目になる様に目の前で変身して見せる。
その姿を見た人魚たちはポカーンと口を開けている。族長までびっくりして口を開けていた。しかし、ユートゥティスだけはアドラにもう一度会えた事に喜び泳いでアデレイドの元へ駆けつける。族長はハッとして、
「ユートゥティス!騙されるんじゃ無い!!見た目をコロコロ変えられる子供なんて見たことがない!本物かどうかわからんぞ!」
ユートゥティスはピタリッとその場で止まりしげしげとアデレイドを観察する。どこからどー見てもあの時のアドラだ……が、さっきまで確かに美少女だった……人間ってあんなにも変わるものなのか……考えれば考えるほど頭がこんがらがってきて分からなくなる。
「もう!!私はアドラです!今のこの格好の方が変装だったので、さっきの姿が私の本当の姿なんですけど、信じられないなら、んーーと、そーだ!前に出したビームでも出しますか?」
「うむっ……あのビームは確かに誰にでもできる技じゃないからなぁ……やってみろ!」
岩にビームを当てる。粉々に砕け散った岩を見て「おぉー」「あれは……本物……」など呟いている。やっと全員信じてくれた様だ
「おぬし、紛らわしいんじゃ……ワシらに会ったときのが変装だったとはな……もう脳みそがおかしくなりそうだから変装を解いても良いぞ!これからは白銀の髪の方で覚えておくぞ、それ以外の姿で今後は現れるでない!!!」
アデレイドを拘束していたジャベリンを抜いて長老は溜息を吐いた。アデレイドは拘束から抜け出した。そして、思う事がもう一つ、アドラという名前も冒険者の時に使う偽名だった、今言ったら怒られそうだなと思ったので、心の中にそっと閉まっておく事にした。
「アドラ!!会いたかった!お兄さんはは無事助けられたのか??ゆっくり海底散歩でもしながら話すか?それともこの広い海の中を案内しようか?」
ギュッとアデレイドに抱きつくユートゥティス、アデレイドも嬉しくて抱きしめ返す。
「ユートゥティスまた会えて嬉しい、実はね、今日私の先生を連れてきてるの。とーっても優しい人だからみんなとも仲良くしてほしいんだけど……族長さん先生を人魚のみなさんに紹介しても良いですか?お願いします!!!」
「ふむ…………あやつ前に何回か見ておるやつじゃなぁ〜、アドラの先生とは………どうしよーかのぉ……」
「お願いします!!先生は海の生き物が謎で神秘的で不思議だから色々お話を聞いて仲良くなりたいみたいなんです!!」
少し話を盛ってみた。仲良くなりたいとかではなく、本当は研究したいと思ってると思うが、そんなこと言ったら多分先生はまた攻撃されるに決まっている。
「神秘的とな…………そうじゃろそうじゃろワシらは特別な生きものだからのぉ、しょうがない!あやつも縄張りに入る事を許そう。存分に海の神秘を見て行くと良い!!」
神秘という言葉が刺さったらしい族長は上機嫌にアデレイドにオーケーサインを出す。早速先生に通信で伝える。すると、先生は待ってましたと言わんばかりにすぐにアデレイドの隣まで影移動でやって来た。一瞬で姿を現した男に全員が警戒するが、モッサリとした髪型と、どこか抜けている風貌の男にみんなすぐ馴染んでしまう。
「アデレイド嬢ありがとう」
と、嬉しそうに告げすぐに族長の元へ挨拶に行ってしまった。先生の役に立てて良かったと笑顔でいると、ユートゥティスが隣に来て
「あの人間弱そうなのに海の中で息もできるし、喋れてるのすごいな…………」
確かに!!先生って研究オタクなだけだと思って普段は凄い人だと言うことを忘れてしまいがちだが、今だって魔法を何重にも重ね掛けして凄い魔法を使いまくっている。そしてそれをさも当然のようにケロッとしている…………本当に天才なんだよなぁ……と、しみじみ思い知らされたのであった。
それからは先生と別行動だった。先生の方は色々案内をされて研究を進めている様だった。私はと言うと、ユートゥティスおすすめの深海に来ていた。暗く深い海の色と上から微かに入る光のコントラストが綺麗で幻想的な場所だった。そこで、お兄様の事や、旅の話をした。
「アドラのお兄さんが元魔王ってすごい話だな、、そう言う前世の記憶とかある人見た事ないからたくさん悩んだんだろうなって思う。でも、アドラから聞くお兄さんの話が素敵な人だから、会ってみたいなぁ〜、後、アドラと似て美人なんだろうな!!」
最後の一言がアデレイドのスイッチを押してしまった。
「そうそうそうそうそうなの!!!お兄様ってとってもカッコいいし、可愛い要素もあって無敵なの!!色気もあって無邪気で、優しくて気遣いができて、美しいってもう天使、いや、神様なんじゃ無いかって思うんだよね。しかも強いし、無敵過ぎて最っっっっ高!!やっぱりお兄様の事は話しただけで魅力が伝わっちゃうんだね」
「お、おぅ…………」
そこまで言ったつもりは無かったが、アドラの兄愛を甘くみていたユートゥティスは今度からはお兄さんの話はやめておこうとひっそりと心の中で思った。
ユートゥティスとたわいもない話をして過ごしていると、先生が影移動で急に現れた。
「せ!先生!!びっくりしたぁ〜、もう研究は良いんですか?」
先生は凄く上機嫌でとってもニコニコしていた。
「凄かったよぉ、こんなにも文化が違うなんて今日だけじゃ全部知り尽くせないからまた来ることにしたよ!今日はもう遅くなりそうだし帰ろう、ユートゥティス君にも今度この海の中の事聞きたいな、アドラから君が良い人だって聞かされてたんだ」
ユートゥティスに握手を求めるレイシス。ユートゥティスはその握手に手を重ねる。
「俺で良かったらいつでも案内しますね!!あと、良かったら人間の国のことも教えてほしいです」
はにかんだ笑顔で答える。人間の事が知りたいというユートゥティスはとってもかわいいと思った。今まで人間アンチの中に囲まれて知りたい欲求を抑え込んでいたが、私と先生という起爆剤が投下され徐々に人間への禁止事項が無くなって喜んでいるようだった。
「いいよ、沢山教えてあげる。僕なら絶対に君を満足させてあげられるよ。君が喜ぶような魔石も作っておくから楽しみにしててね」
先生はユートゥティスと次会う約束を交わしていた。
そして私達は宿屋に戻り、美味しい新鮮な魚介類の料理を食べた。その後、先生の今日の研究結果を聞き、明日からの事を話し合う
「それで?今日人魚の国でリフレッシュして、今後どーするか気持ちは決まった?」
「はい……私思いました。今日楽しくて、その楽しいのは平和だから……平和だからみんなが笑って暮らせるんだと…………魔物や魔人をやっつけられる力を持っているならその力を使ってみんなの幸せを守りたいって!だから、私のわがままに先生を付き合わせるのはいけない事だと思ったんですが、先生にも私と一緒に魔物退治を手伝ってもらいたいです!お願いします!!」
アデレイドはレイシスに深くお辞儀をする。
「ふふっ、そんなに畏まらないで、僕は君に人生を預けたんだよ?今更この船を降りはしないよ。ただ、あの王の言いなりになるのは気に入らないから、僕たち二人だけでサンレモント内の魔物と魔人をやっつけよう」
先生が言うと簡単なことの様に聞こえてくるから不思議だ。そして、先生が言う通りに、あの王様の言いなりになるのは凄く嫌だったので二人で魔物退治をすると言う案に大賛成だった。
(魔物退治をして、平和になったら、今度こそは学園生活をみんなと楽しむんだ!その為にいっぱい頑張るぞ!!)
心の中で熱い闘志を燃やすアデレイド、その隣でレイシスは人魚から貰った珍しい魔道具をニコニコしながらいじくり回すのであった。




