魔王の日常
(あーー、暇だなぁ……殺しもやりすぎるとつまらないな、次はどんな遊びをしようか)
これはレオナルドの前世の記憶。レオナルドは代々生まれ変わるたびに魔王という役割をこなしてきていた。いい加減この輪廻から逃れたいとさえ思っていた。
(ってか、そもそも、魔王なんて役職堅苦しいんだよな、一々俺になんでも報告してくる部下とかいらなくね?魔人族は自由奔放に強さを求めて殺しをすれば良くね?あーーつまらないな…………面白い事ねぇーかなぁ…………)
つまらなすぎて、怒りを抑えられないレオナルドは、無意味に側に立っている男の首を一瞬で刎ねる。
「ま、おう、さ、ま……」
「おい、片付けろ床が汚れた」
「は、はいぃぃぃ!!」
レオナルドは自分の気分次第でなんでも思い通りになる世界に生きていた。誰の命も尊ばない、誰の気持ちも考えない孤独な世界に生きていたのだ。
「魔王様!人間の中に勇者が現れたと言う情報を得ました!!討伐部隊を送り込んでもよろしいでしょうか!!」
「勇者か…………お前達に任せる、好きにしろ」
レオナルドは難しい顔をする。何故ならば、代々魔王は勇者に倒され、勇者が必ず勝つ仕組みになっている。魔人族にとって光の魔法はかなりの弱点、すなわち光魔法はチートなのである。
(また、この時期が来たか、今回は勇者が見つかるのが割と早かったな…………今回は短めの余生だったか)
もう勇者には勝つ事を諦めているレオナルド。そんな短い人生の中で、今回は一つ変わった事をしてみようと思い立った。
(よし、ひ弱な人間に混じって誰一人殺さない生活をおくってみると言うのはどうだろうか、俺にとって一番難しいミッションじゃないか?最強の俺とひ弱な人間、正反対のものになるとは俺も考えたものだ!絶対に難しいぞ)
考えたら即行動、自分の分身を作り出し台座に座らせておく。そして、自分は人間の住む街に影移動をする。しっかりと翼を隠し、人間の衣装を着込んで市場に紛れた。
(ふふん、俺の姿はさまになってるのではないか?まぁ、溢れ出る強者の雰囲気はやっぱり隠せてないかもしれないな、こればっかりは困ったものだ…………)
一人満足気に佇んでいると。一人の男の子がレオナルドの裾を掴んでいた。
「なんだ小僧、汚い手で触るな、殺すぞ?」
男の子はパッと手を離した。レオナルドの美しく冷酷な顔が男の子を射抜き、男の子は泣きそうになった。しかし、勇気を出してレオナルドに話しかける。
「お腹すいた、、何か恵んでください」
レオナルドは自分が睨んだのにも関わらず、話しかけてくる奴がいるとは思わなかった、こんな人間の中で最も雑魚そうな子供……人間とはとても図太い生き物なのだなと驚いた。
「お前、図々しいが、度胸はあるなついてこい、その度胸に免じて何か買ってやる」
顎でついて来いと指示すると、男の子はレオナルドの後を小走りでついて行く。良い匂いがする屋台に辿り着く。レオナルドも屋台で何かを買うのは初めてだった。しかも人間の国の食べ物を見るのも初めてだった。魔国は炭になるまで焼くか、だいたい生なのだ。
「おい、何個食べるんだ?」
男の子は初めての屋台で、こんなチャンス二度と無いと考え慎重に言う
「に、二十個…………」
多すぎたか?と伺う様に見つめる
「お前…………」
怒られると思った
「あっ…………あの、…………やっぱり三個………
「お前少食だな二十個でいいなんて、おいジジィ、二十個を二袋くれ」
「あいよ!いっぱい食べるねぇ、嬉しいよ!!ちょっと待ってな!!」
ポカンとする男の子、しかし、このいかにも冷たそうな男は意外と優しいのではと男の子は感じた。実際はそんな事ないのだが…………。
「ありがとうございました、あの、良かったら他の子供達も助けて…………」
言いかけると、レオナルドはすごく不快な顔をし、冷徹な目を向けた。
「調子に乗るなよ?お前が俺の威圧に耐えた珍しさから褒美をあげただけだ。勘違いするな」
そう言うと男の子を一人残し去っていった。レオナルドは何事もなかった様に広場の噴水で先ほどの串焼きを食べ始めた。すると、衝撃が走った!
「なんだこれは…………肉がこんなに柔らかい?噛み切れる……だと?味も……これが噂に聞いた事があるスパイスってやつか?肉の旨みと脂の旨みを何倍にも引き上げている…………なんだこれは」
レオナルドは今まで、食事に関して無関心だった。ただお腹を満たせればそれで良かった。しかし、出会ってしまった。グルメに!!その日から毎日色んなものを食べ歩いた。何かを殺す事に快感を覚え殺戮を繰り返していた日々にも飽き、何にも感動と驚きを失っていた日常がなんと、この人間の国でレオナルドの新たな扉を開くとは。
屋台料理を一通り食べ終尽くした次は、食堂やレストランに通い出した。
「美味しい……まさか勇者もこんな美味しいものを食べて育ったのか?俺はあんな黒焦げの物を食べて育ったのに…………クソッ腹が立つ」
そして、いよいよレオナルドが衝撃の出会いを果たす時が来る。とある店に行列が出来ていた。美味しいものかと期待を胸にレオナルドも並ぶ。そこかしこからレオナルドに視線が注がれレオナルドは自身が強者が故にオーラが出ているのだと勘違いしていた。
“ヤバイーーあの殿方めちゃくちゃかっこよくない?”
“こんな所に男性が並ぶなんてギャップ萌えですわ”
“あの冷たそうな瞳堪らないわ、罵倒してほしい”
強さ故ではなく、レオナルドの美貌に女性達の視線が注がれているだけであった。さて、食べ物の行列だが、何の行列に並んでいるのか分かっていないレオナルド、とうとう自分の番がやって来た。
「なんだこれは!!」
そう、ここはケーキ屋さんだったのだ。初めて見る宝石の様なフルーツ達が乗った色とりどりのケーキ。直感が言っている全部変えと、そしてわけもわからず全種の類ケーキを買ったのである。
いつもの様に噴水前で一つ食べてみた。電撃が走った。滑らかな白いクリームとふわふわのスポンジ、甘いのにくどくない、そして、果物のイチゴの酸味が追いかけてくる。とっても調和が取れた最高の一品だった。
(今まで食べて来たものの中にはこんなもの一つも無かった…………人間だけがこれを食べていた?許せん…………これは人間の罪だ、人間を全て滅ぼさねば気がすまない!!…………いや、ちょっと待て、これを人間が作ったなら滅ぼしたら食べれなくなるのか?クソッ食べれなくなる方が罪だな)
レオナルドは人間を滅ぼすか滅ぼさないか初めて真剣にお菓子を食べて考えたのであった。
この日からレオナルドはお菓子の虜になった。もうお菓子を作る人間がいなくなる事自体有り得なくなっていたのだ。
「はぁ、俺も誰かを殺す以外で楽しくなる事が来るとはなぁ〜今はお菓子があれば楽しいもんなぁ〜そうだ!来世は人間に生まれ変わりたいなぁ!そしたら最初からうまいもん食い放題だしな!!」
こうして、なんの気無しに呟いたその願いが叶うことになるとはこの時は誰も知らなかったのである。




