お兄様消失
ダンスパーティーから3ヶ月が立っていた、夏になり、暑さが一層増してきている。私はフリルのついたレモン色のワンピースに身を包み、お兄様は上質な布でできた半袖シャツと膝小僧が隠れるくらいのハーフパンツに身を包んでいた。
こんな暑い日に私とお父様、お兄様三人で、お兄様が誕生日の日に譲り受けた領地に来ていた。
何故ならば、夏と冬でこの領地には魔物が多く出現し、農地や家屋を荒らすからである。
毎年お父様と護衛騎士で討伐していたのだが、今年からはお兄様の領地になるのでお兄様も討伐隊に加わっていた。
私はというと、我儘を言ってついてきた。本当は危ないからダメと一時間近く諭されたのだが、私の根気が勝ったのである。やる気があればなんでもできるのである!!
「お父様、お兄様、ここの街はとっても素敵ですね、屋根が三角で可愛いし、街も活気があって賑わっていますね」
お父様は「よく見てるね」と褒めてくれる。この街は夏は涼しく、冬は寒さで厳しい土地となっている。特産品が多く住民の生活水準は潤っている。農業も盛んで果物、穀物、食料加工品や、食事もクオリティーが高く、グルメでも有名な街である。私もご飯を楽しみにしてる一人だ。
晩餐を終え、久々のお兄様との旅行だったのでお兄様に甘えたくなって部屋に突撃しに行った。ドアを叩くとすぐにお兄様が迎えてくれる。お風呂上がりなのか、まだ髪を乾かし切っていない状態だった。濡れ髪のお兄様最高に艶っぽい!!
「髪の毛乾かすからアデルそこで座って待ってて、そうだ!お菓子でも食べるかい?僕のお勧めお菓子今出すから、それを食べて待っててね」
そう言うと、異空間からお菓子を取り出し私の目の前に置いてくれる。ふわふわそうなイチゴのショートケーキだった。お兄様の言う通り、とても美味しい。口どけ滑らかで、イチゴの酸味とクリームの絶妙な甘さが完璧な一品だった。
さすがお菓子好きのお兄様、ショートケーキひとつとってもお気に入りがあるなんて、すごいですお兄様!!
「お兄様、魔物退治怖いですか?私はどんな魔物が出てくるのかわからないので緊張してます」
「僕は授業で何回も魔物を狩ってるから慣れてるかな、アデルは後ろの安全な所にいなよ?魔法禁止なんだからね?」
そうなのだ、ついてくることは許可されたが、他の護衛騎士の目があるから討伐は禁止になっている。解せぬ…………つい不貞腐れた顔をしてしまう。
「アデル!そんな顔しないの、今回は絶対に危ないことしないって誓って!!」
真剣な眼差しで見つめられる。今までこんなに真剣に見つめられたことはないだろう。それほど危険なところに行くと言う事なのだ。さすがにここまで言われて頷かない人はいない。
しばらく魔法や魔物の話をしていると、突然お兄様が私を膝の上に乗せて話し出した。
「アデル、久々に一緒に寝ない?いつもと違う場所だから寝付けそうにないんだ、アデルと一緒ならぐっすり眠れそうな気がするんだ、ダメ?」
お兄様のお願い破壊力が高すぎる。お兄様から犬耳が垂れ下がってみえる。瞳もうるうるしていて、めちゃくちゃ母性本能をくすぐられる。
「もちろん一緒に寝ましょう!!お兄様と寝るの久しぶりで嬉しいです!!お兄様の事すぐ寝かせちゃいますよ」
お兄様を安眠させられるのは、私しかいないもんね!!と変な意気込みをみせるアデレイド、お兄様は微笑んで「ありがとうアデル」と頭を撫でてくれた。
翌朝、私よりも早くお兄様は起きて身支度を整えていた。私も身支度を整える為お兄様に挨拶を済ませた後、自分の部屋へ行き、動きやすいパンツスタイルの服に着替え、髪も邪魔にならない様にメイドのサシャにまとめてもらった。
「さぁ!今日は森が騒がしいらしい、皆気を引き締め死者が出ない様無理せずにゆっくりと進んでいこう!我々が守るのはこの土地の人々だ!!全力で守り抜くぞ!!」
お父様がみんなを鼓舞する。「おおーー」という掛け声と共に私はお父様、お兄様より遥か後ろの護衛騎士達と共に馬に乗って進む。
何回か激しい戦いが繰り広げられているが、遠くなので全然見えない。オークが出たや、キマイラが出たなど、なかなか強そうな名前の魔物が叫ばれている。
(私も戦いたいなぁ…………)
などと思っていると、前方で今までと違った悲鳴の様なものが聞こえた。悪い予感がして、私は居ても立っても居られず、馬を前方へと走らせた。
後ろの方から「お嬢様、ダメです」と聞こえてくるがそんなもの知らない、お父様、お兄様に何かあったら私は一生後悔する。
前方に辿り着くと、そこには人の形をしていて、長い黒髪をなびかせ、悪魔の様な羽が生えた見た事のない生き物が宙に浮いていた。
その場の光景は悲惨だった。前方の騎士は全員血を流して倒れている。生きているか死んでいるか微妙な所だ。そんな中お父様とお兄様だけがなんとか持ち堪え魔法を繰り出し戦っている。
すると悪魔の様な羽の化け物が隙をついてお父様に魔法を放った。私は咄嗟にバリアをお父様にかける。見事に攻撃を弾く事が出来た。しかし、私が前線に来ている事が二人にバレてしまった。
「アデル!!これは魔人だ!私達でも倒せるかどうかギリギリなんだ危ないから下がりなさい!!」
「アデル…………ダメだって言っただろ、なんとかするから後ろに下がるんだ」
こんなボロボロの二人を見て下がれるわけがない、イヤイヤと首を振る。私も攻撃してやると思ったその時、魔人がお兄様を植物の鶴の様なものでぐるぐる巻きにした。そして、そのままお兄様ごと消えてしまった。
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…………………しばらく静寂が続いた。何が起こったのだろう………お兄様が攫われてしまった。お父様も膝から崩れ落ちている。
「お、お父様…………お兄様が、、お兄様…………お兄様が、お兄様がぁぁぁーー」
絶望すぎて涙も出なかった。
(昨日は一緒の布団で寝てたのにもう一緒に眠ることも、頭を撫でられる事も、微笑みをくれる事もないの?お兄様は今魔人にどんな目に遭わされてるの?もしかして苦しみを与えられながら殺され…………)
それ以上は考えたくなかった。お父様が私の所にやってきて強く抱きしめてくれた。お父様も相当ショックなのだろう、私は泣く事もせず虚な瞳で重症を負った騎士達を治して回った。
本当は魔法を禁じられていたが、今回の被害が余りにもでかかった為お父様からお願いされたのだ。侯爵家の護衛騎士だが口外はしないと誓約魔法をしっかりと結んだ上での治療だ。
「アデル辛い時に魔法を使わせてしまってすまなかった…………帰ったら少し休もう…………私も一旦考えが纏まらなくてな…………ごめんよアデル……………………ごめんよ…………レオナルド…………」
「悪いのはあの魔人です…………絶対に許さない…………」
お兄様が消えてしまった悲しみは私達に深い悲しみと闇を植え付けていった。
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