普垣広太郎
小練藩には博学がいる。その者は城の中では有名であった。
その者の名を「普垣広太郎」という。
普垣広太郎は下級役人で書庫番をしている。書庫番とは藩で書の保管庫を守っている。
書は藩にとってとても重要な物の為、取扱いには注意が必要だ。
なお、書庫にある書は貸出も可能である。
普垣広太郎は父も書庫番だった。広太郎の父が亡くなった為、普垣家の家督と父のやっていた仕事を継いだ。書庫によく来ていた博則とはいつの間にか友人になっていた。
広太郎は出世には全く興味がない。何よりも書に囲まれている方が幸せであった。
書はいろいろな知識をくれる。海の向こうの歴史 医術や薬学・戦の戦術など。
多くの書を読むことによって、それだけ知識がつき、視野が広くなるのである。
そのため、広太郎は息子と娘には書を読むように教育している。
広太郎は妻・息子・娘がいる。
妻はりつで藩一番の美人と言われている。りつ本人は美人とは思っていない。りつは慈悲深く、草庵寺の手伝いを広太郎と知り合う前からしていた。りつは結婚が遅かった。二十五歳で広太郎と古本屋で出会った。
広太郎とりつは同じ本を探しており、探している本の事で二人は盛り上がっていた。広太郎も二十七歳。二人とも行き遅れであった。広太郎の家族もりつの家族も二人をなんとか一緒にさせるべく、いろいろと画策し、出会って三月後に結婚した。広太郎はりつと夫婦になってからも今もだが、なぜおまえがあんな美人と一緒になれたのか?と言われるが、広太郎自身も思っている。
その翌年、息子の隆太郎である。
その二年後に娘が生まれた。
そう。その娘が「沙希」である。
沙希が生まれた時、広太郎は娘が妻に似ているのにほっとした。広太郎に似たらどうしようかと不安であったが、娘は妻に似たので。
広太郎はりつが隆太郎と沙希に「貧しい人には手を差し伸べろ」「人を憎んだり恨んだりするな」「人を慈しめ」「戦はしてはいけない」など教えていた。広太郎もその通りだと思っている。
人を恨んだり憎んだりしていいことはない。恨んだり憎んだりするだけで心が貧しくなるからだ。
貧しくなると共、醜くなる。そうなると平気で人を陥れたり、殺めたりする。そうなると最後は誰からも信用・信頼もなくなる。信用・信頼がなくなると孤独になるだけである。そうならないためには、妻の教えは正しいと息子と娘に教育していた。
広太郎は下士の役人のため、上士よりも給金は低いが子供達には、最高の教育をと思い私塾に通わせていた。息子には私塾のほかに武術の道場も通わせた。
この広太郎とりつの教育が、普垣家の運命を変えていくのある。
沙希の人生も隆太郎の人生もりつの人生変わっていく。