沙希の正体
城に戻った二人は今日はとても充実していると感じていた。
博和は字を教えていた時の子供達の顔を、思い出した。
子供達の目はキラキラしていた。亜見も同じであった。男児たちに刀を教えていた時の子供達も同じであった。
博和「草庵寺の視察は楽しかったな。なあ。亜見」
亜見「はい。楽しかったですね。子供達が楽しそうでしたね。」
博和「本来は藩で子供達の教育をするべきなのに…沙希殿が働いて野菜や衣・書を買ったりしていたとは…」
亜見「本当ですね。ただ、調べましたところそ、草庵寺を潰そうとしている人がいると」
博和「そうなのか?」
亜見「はい。噂ですが…秘密裏に調べますか?」
博和「そうしてくれ。あと、明日は一人で行く」
亜見「さすがに一人行かれるのはダメです。どこで殿を狙っている輩がいるかわかるません…」
博和「だが、明日は一人で行きたい。どうにかしてくれ。」
亜見は考えた。
亜見「ならば、草庵寺まで一緒に、私は城へ戻ります。時間になりましたらお迎えに上がりますがいかかでしょうか。」
博和「よい。後、今からで申し訳ないが、お願いしたことがある。」
と博和は紙にすらすら書き始めた。
”米二俵・野菜は用意できるだけ・衣は子供用・書は子供に教えられる書・木刀を十五本を朝一番で草庵寺に届けるように”という内容であった。
博和は紙と一緒に銭を渡した。これを明日までに用意するように亜見に伝えた。ただし、秘密裏にと。
翌朝、政務報告会が行われた。博和は政務報告会の間中、沙希や草庵寺の事を考えていた。
ようやく、政務報告会が終わり、博和は急いで部屋を出た。そんな様子を見た役人は驚いた。
一体何があったのかと…
博和は市中に行くための準備を行い、亜見と博和は草庵寺に向かった。
草庵寺は騒然としていた。何せ大量に物がと届いたからであった。
そこに博和と亜見が草庵寺に到着した。
沙希「亜見様・夏富様!!あの、本日の視察でしょうか…?」
亜見「はい。あのどうかされましたか?」
沙希「いえ。朝、寺へ来たらこちらが運ばれてきまして…。一体誰が…こんなに…。」
と沙希は目を潤ませていた。
亜見「これは凄い量ですね!誰が送ってきたかわからないのでしょうか?」
沙希「はい…持ってきた方に誰かなのか、聞いたのですが教えてくださらなかったのです…」
亜見「そうなんですね。きっと草庵殿と沙希殿を見ている人ですよ。これは受け取っていいと思いますよ。その見ている人からの心ですから。」
沙希「はい…。本当にありがとうございます。感謝してもしきれません…」
亜見「あっ!沙希殿。今日は私が、この後予定がありますゆえ夏富を置いていきます。夕刻にはこちらにきます。それまでこちらに置いていきますので、使ってやってください。」
沙希「使うって…上士のようですが…。」
亜見「気にしないでください。家でぐうたらしている人ですし。できることは読み書きを教えるぐらいです。刀や弓などは全くダメですの。」
沙希「そうですか。わかりました。」
博和「使うって…おい!」
亜見「では、私はこれで」といい寺を出て行った。
沙希「夏富様」
博和「はい!!」と目を輝かせていた。
沙希「昨日に続いて、文字を押していただけますか?ついでに読みも。」
博和「はい。喜んで!!」
といい、沙希は微笑み子供達を呼び境内へ入れた。
博和は子供達に文字と読みを教えていた。
その間、沙希は台所で昼餉の用意をしていた。
子供達も勉強が終わり、外で遊んでいた。
博和は沙希を探していた。台所の方でいい匂いがしてきたため、台所へ足を向けた。
博和「あっ!沙希殿。子供達の勉強終わりました。」
沙希「ありがとうございます。みんなちゃんと文字の練習してましたか?」
博和「はい。してましたよ。皆真剣でした。」
沙希「それはよかった」
博和「沙希殿。あの。失礼に聞こえるかと思いますが、沙希殿はどこで勉学を?」
沙希「父からです。父と母から読み書きはこの世で生きていく上で、必要だからと言われ、父から読み書きを教えてもらい、私塾にも通わせていただきました。」
博和「私塾ですか!?」
沙希「はい。兄と一緒に」
博和は思った。私塾に通わせられる子供は役人の子供や豪商の子供だけなのだ。私塾は銭がかかるため、ある程度、裕福でないと通わせられないのである。それの兄と二人で通わせるのはかなり費用が掛かる。一体、沙希は何者なのか…
博和「そうなんですか…あの…」
と話をしよとすると、「あの~」と声がかかった。
沙希は失礼します。といい「はーい」といい声のする方に向かった。
沙希「夏富様。申し訳ございません。お手を貸していただけますか?」
と声をかけてきた。
博和は何事かと沙希の後をついていくと、農民が野菜を持ってきていた。
農民は六平というらしい。
博和は野菜を受け取るが、欠けている野菜は虫食いの野菜などが籠にたくさん入ってた。
このような物を食べるのかと思ったが、民は食べられれば虫食いでも欠けてても関係がないのである。
沙希は六平に深々と御礼をし、懐から財布を出した。
沙希「うわあ~。たくさんのお野菜!!六さん。いつもありがとうございます。本当に感謝してもしきれません。あっ!これ。お金。」
六平「沙希ちゃん。いつも言ってるだろ。お金なんていらねよ。そんなことより、その銭でいい衣買えよ。それよりも、いつも虫食いやかけてる野菜で本当すまね!」
沙希「そんな…でも六さんお金が必要なんでしょ?奥さんが病気だって。このお金でお薬を買ってあげてよ。私は衣なんで今あるので十分だから。ね!」
といい。六平の手に銭を握らせた。
沙希は子供たちを呼び、蔵へ入れるように伝えた。
ふと六平がとんでもないことをいった。
六平「沙希ちゃんがお役人様の娘御なのに、なんでこんなところで…」
博和「今なんと!!役人の娘だと!?」
六平「あんた誰だかわからないけど、お役様の娘御だよ。知らなかったのか?」
博和「ああ。知らなかった…どこの役人かわかるか?」
六平「確か、城の中で働いている役人らしいが…」
博和「苗字はなんという?」
六平「なんだったかな。うーん。思い出せね!!。すまん。」
博和「そっか…。」
博和は、役人の娘と聞き納得した。なぜかというと、高度な教育を受けていると感じたからである。
一体、どの役人の娘なのだろうか。ここまでの教育をされているとなると、上士の役人の娘なのだろうか。しかし、知っている上士の中で未婚の娘がいるのは羽芝しか思い当たらない。
なら下士の役人なのか。と沙希を見ながら考えていた。
沙希「夏富様 遅くなり申し訳ございません。昼餉ができましたので、お召し上がりください。ただ、お屋敷で出されるような豪華な物ではありませんが…」
と境内に案内され、沙希がご飯を茶碗によそう。
皆にご飯が配られた後、「いただきます」と子供が言い、皆が食べ始めた。
博和は、確かに質素なご飯ではあったが、おいしかった。そして、ともてほっとした。
沙希はご飯を食べながら、一人で食べられない子に食べさせていた。
昼餉を食べた後、沙希は井戸のそばで食器を洗っていた。
博和は手伝うと言ったが断わられた。その変わり、子供達を遊んでほしいと言われたので、子供達と遊んでいた。
数時間たったころ、昼寝の時間ということで境内に沙希が布団を敷き始め、子供達を寝かしつけていた。
子供達全員が眠ったあと、沙希は寺の中にある畑の様子を見に行くと言ったので、博和は一緒に行った。
博和「沙希殿。ここは?」
沙希「畑です。寺の中の一画を借りて野菜と薬草を育てています。」
博和「そうなんですか…でもなんで薬草を?」
沙希「薬を買うのが高いので、ここで薬草を育てれば買わずに済みますからね。その方が経済的です。ただ、重病になったときは町から医者を呼びますけどね。」
博和「なるほど…」
沙希「貧しいものは日々生きていくのもやっとです。ここで生きている大半の人は皆大変ですから。なので身体を壊して、薬を飲むとなると余計苦しくなります。ここにいる子供たちの大半は、貧しい家の子達ばかりで、親を病で亡くした子ばかりです。薬を買うために掏摸をしたり、物乞いしたりしていた子です。なので、ここで薬草を育てて困っている人に渡しています。もちろん、昭老医院の先生に薬は見てもらってます。」と沙希は遠くを見ながら話していた。
博和は何も言えなかった…。そして申し訳ない気持ちと不甲斐なさでいっぱいだった。
博和「沙希殿は何故、この子達の面倒を?」
沙希「母の教えなんです。と言っても母は生きてますが。母に…」
と話そうとしていると亜見がやってきた。
亜見「夏富様。お迎えに上がりました。」
博和「おおぅ。少し早い気がするが…。」とぼそっと呟いた。
博和「では、沙希殿また。」
沙希「はい。またお待ちしております。」と挨拶を交わした。
博和と亜見と城へ向かっていた。
亜見「今日はいかがでしたか?」
博和「…今日は楽しかったが、一つわかったことある。」
亜見「それは?」
博和「沙希殿は役人の娘だそうだ。私塾にも通っていたそうだ。」
亜見「なんと!どこの役人で役人の名前は?」
博和「それが…わからなかった…」
亜見「しかし、わかるような気がしますね。よい教育を受けているのがわかります。上士の役人で
未婚の娘いる役人は羽芝しか思い当たりませんが、他にいましたっけ?」
博和「いや。いない。男で未婚はいるが、上士の役人の娘は早々に嫁にいっている。」
亜見「ならば下士の役人でしょうか?」
博和「ありえるな」
と話している間に城に着いた。
一体、沙希の父は誰なのだろうか…