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市中視察と出会い

政務報告会が終わり、自室に戻った博和は終始不機嫌であった。

三十九歳になって、自室で駄々をこねている。

「いやだ!!行きたくなーーーい!!行きたくなーーーい。これから昼寝する!!その後将棋やるの!!」をと…これをかれこれ二十分やっている。

亜見はまたか!と慣れた様子だった。

御付の者たちも慣れっこである。

早く視察に行かないと日が暮れてしまうため、亜見は博和に言った。

亜見「早く視察に行かないと日が暮れます。あっ。今日視察に行かないのなら、将棋盤・囲碁盤を取り上げますし、棋聖も今後呼びません。今日来ている棋聖は帰ってもらいます!」

と脅したのである。

唯一の楽しみを取り上げられては困る、博和はしぶしぶ「行きますよ。行けばいいんだろう!」とむすっとした顔をした。

亜見はしてやったりの顔をしていた。


城から市中までは歩いても、そこまで時間がかからない。

今日の視察は事前に決まっているらしく、博和は亜見についていく。

市中を歩いている、醤油の香ばしい香りがした。博和は香りがする方向に歩いていた。

そこには団子の露店が出ており、とてもいい匂いがした。

亜見を呼び団子を十本買った。こんなに食べるのかと思ったが、博和は食べるのである。

疲れたからと言って、露店の近くの椅子に座り亜見に茶を買いに行かせた。

ただ、城からでて歩いて十分も経っていないのに疲れたらしい。

博和は多くの露店が立ち並んでいるのを見て、自分が政をしなくても藩は大丈夫だと感じていた。

むしろ、自分が政をしなくて良かったとも感じていた。


少しすると亜見が茶を持ってきた。

買った団子を食べていると、店じまいの時間なのか露店が閉店準備をしだした。

店じまいの時間には早い気がした。亜見がなぜこんなに早く店じまいをするのか聞きにいくといって

席を立った。

戻ってきた亜見の顔は暗かった。

露店は無許可で営業していた。許可を申請しているが、全く許可が通らない。

許可が通ったとしても、税をかなりとられるため、無許可で営業した方がいいとのこと。

元々許可を得て露店をしていた人が多かったが、ある日を境に露店の税が上がった。

それも元々出店料は一律で銀貨五枚だったが、出店料が一律銀貨五十枚になり、売り上げの三割を納めればいいはずだったが、売り上げの八割を納めるにお達しがあったとのこと。だから、役人が見回りにこない時間だけ営業をするのだという。

博和も亜見も全く知らなかった。


博和は先ほど「自分が政をしなくても藩は大丈夫だと感じていた。むしろ、自分が政をしなくて良かったとも感じていた。」を撤回したくなった。一体藩の藩の役人たちは何をしているのだと。

いや。自分もなにをしているのだろうか。そのな事を思いながら、博和は団子を食べていた。


団子が残り一本になったとき、団子屋に一人の女性が小走りで走ってきた。

「おじさん!遅くなってごめんなさい。お団子まだある?」

「ああ!あるよ。残り十五本ある。どうする?今日も全部買うかい?」

「はい。十五本全部お願いします」

「はいよ!十五本。気を付けてね。」

「いつもありがとうございます!」

といい露店を後にした。

その女性はふと博和と亜見の方に歩いてきて

「すみません。お隣よろしいでしょうか?」と声をかけてきた。

博和は咄嗟に「あ!はい!どうぞ」と言った。

その女性は団子のほかに大きい風呂敷を抱えていた。その中には着物や古びた書が入っていた。

博和は隣の女性をちらりと見ると、手には何を買うか書かれている紙を持っていた。

全て買い終わっていたようだ。ただ、荷物の量が多いのが気になった。


女性は団子を手に持ち、野菜が入った篭を腕にかけ、風呂敷を抱え「よいしょ。」といい

博和と亜見の方を向き「お隣ありがとうございました」と会釈して去って行った。


博和は手伝いましょうか?と声をかけたがったが、かけられずにいた。


亜見に「そろそろ行きましょうか」と声をかけられ、いやいや歩いて行った。

道中、博和は「まだ?まだ着かないの?」を何十回と亜見に行っていた。三十九歳の大の大人が。

歩いていると急に町並みが変わった。長屋が多く立ち並び市中とは全く違う雰囲気になってきた。

まだ歩くのかと怒りたくなった博和は亜見に「もう帰ろう」と言おうとしたとき。

「着きました」と亜見が言った。


そこは”草庵寺”というお寺であった。

”草庵寺”は藩の中で有名であり、博和も知っていた。なぜ知っているかというと伯父の光信が”草庵寺”を目の敵にしているからである。

草庵寺に入ると誰もいないが奥から子供の声が聞こえてきた。

亜見が「すみません。どなたかいらっしゃいますか?」と叫ぶと

女の子が「だーれ?」と言ってきた。

亜見は「お寺を見に来たんだけど、大人の人いる?」と聞くと

「うん。いるよ。連れてくるね!」といい寺の裏手に向かって走って行った。

博和は寺におかれている大きな岩に座っている。罰当たりなと思いながら亜見は待っていた。

「お待たせいたしました」と声をかけてきたのは、先ほどの露店で隣に座った女性であった。

その女性は亜見をみて「あ!先ほどの」と言った。

草庵寺を見に来たと伝え、博和を呼びに行った。


博和はいやいや亜見についていくと、露店で隣に座った女性がいることに驚いた。

また、会えるとは思っていなかったのである。

女性は博和たちに自由に見てくださいと伝え、子供たちと遊んでいた。

博和は女性が何をしているのか不思議に思いながら、遊ぶ女性を見ていたら、

一人の僧侶に声をかけられた。

僧侶「お城から来たお役様でしょうか?」

亜見「はい。そうです。」

僧侶「そうですか。これはこれはようこそおいでくださいました。草庵寺の住職の草庵と申します。」

亜見「私は城から亜見と申します。こちらは私の上司の夏富と申します。」とあいさつした。

小練という名ではなく偽名を使うのである。殿直々の視察とばれないようにするためである。

僧侶は寺の説明を始めた。

身寄りのない子供たちを引き取り、読み書き算盤 裁縫や武術を教えていると。

それも見返りを全く求めずである。

視察していると、身なりがぼろぼろで痩せ細った母娘が寺を訪ねてきた。

奥から先ほどの女性が出てきて、母娘を寺の中へ入れた。

博和たちも中へと言われ、寺の中に入るとその女性が母娘に食べ物や飲み物を与えていた。


女性が博和たちの方へ茶を持ってきた。

「お茶をお出しするのが遅くなり、大変申し訳ございません。」と誤ってきた。

すかさず亜見が「いえ。御気になさらずに」と答えた。

博和は寺の様子を見ていた。


少しすると、雨が降ってきてしまった。籠を呼ぶかどうしようか迷っていると女性から声がかかった。

「失礼いたします。夕餉は召し上がっていかれますか?」ともうそんな時間か思っていると

博和は「はい!食べます!」と言った。食べるのかいと亜見はつっこみたくなった。

そうこうしているうちに夕餉が運ばれてきた。話によると女性が作った夕餉らしく、おいしく博和も亜見も城のより、おいしいとどんどん口に運んでいた。

食べ終わった後、草庵と話した。

草庵はこの寺を手放すように言われていることや、嫌がらせを受けていることなどを話してくれた。

しかし、草庵は手放す気ないときっぱり言ったのであった。

今回の視察はとても役に立ったと亜見は思った。

博和はどう思ったのかわからないが、何か考えているようであった。


夜も遅いため、女性が籠を呼んでくれた。

籠が寺へ着いた、城へ帰ったが、博和も亜見も女性の名前を聞くのを忘れていた。

博和は今日の視察で見た事聞いたことをまとめていた。

そして博和は床に入り寝ようと目をつむるが、今日会った女性が気になり寝つけなかった。


翌朝、亜見に草庵寺に再度視察に行きたいと伝えた。

亜見は驚き、明日雨が降ると言っていた。失礼な!と思ったが、政に興味がないため言われての仕方ないのである。

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