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ショタコンシスターに愛され過ぎて困っています

 まず最初に訪れたのは、城の執務室だ。


 壁には、ノアズアーク国を象徴する、双頭のワシが描かれた巨大な旗が掲げられている。


「おはよう、大魔人。例の新人を連れてきた」


 エーリカに声をかけられて振り返った人影は、顔面も手も白い骨の化け物だった。


「おお!!新人が入るなんて数十年ぶりですな!ワシはッ、かつてノアズアーク国で議長をしていた、ガイコツ大魔神だ!よろしくな!」


「よ、よろしくお願いします……俺は、イオリって言います」


「おお、イオリか。いい名前じゃないか~」


 陽気で気さくなガイコツと握手を交わした。


 このガイコツは、主に城の守護や、組織ノア・ナイトメアにおける事務を請け負っているらしい。


……皮も筋肉も無いガイコツが喋るって、どういう原理?


 というかこのガイコツ、生きてるのか?死んでるのか?


 よく分からないが、「次行くよ」と、エーリカに腕を引かれて、執務室を出た。



 


 次に連れていかれたのは、城の中に立てられた大聖堂だ。


 大きな聖堂が入るなんて、この城はどんだけデカいんだ!?


 見上げるほどに高い天井と、木漏れ日を存分に取り込みキラキラと輝くステンドグラスが美しい空間だった。



 内装は、フランスのシャルトル大聖堂と雰囲気が似ている。


 そんな大聖堂の大きな十字架の前に立つ人物が一人。


「ごきげんよう、わたしは修道女シスターとして、この大聖堂の運営をしております。ジョセフィーヌって、気軽に呼んでくださいませ。――わたしたちの新たな仲間であるあなたに、神の祝福がありますように」


 腰から裾までの長いスリットが入った黒い修道服を着た女性だった。


 藤色の瞳が美しい。


 腰にまで流れる灰色の長髪で、それと同色の大きく垂れた犬の耳が、修道服からはみ出ている。身長がかなり高く、20代後半ぐらいに見えた。


 そんな、艶めかしい、大人な雰囲気を醸し出すシスター・ジョセフィーヌは、俺のもとに寄ってきて、小柄な俺をぎゅっと抱きしめ、包み込んでしまった。


「むぐっ……く、苦しいです、ジョセフィーヌさん……んひゃ、舐めないでくださいよ~」


 彼女の胸の重みが、俺の鼻を折る勢いでのしかかってきた。


 どうやら彼女は、人間と犬のハーフである犬族けんぞくらしい。


 頬をぺろぺろと舐め回してくるし、興奮しているのか、彼女の毛深くモフモフとした尻尾は、左右に激しく揺れている。


「やめて~」と、俺が懇願するが、ジョセフィーヌは、ずっと俺の頬を舐めていた。


 彼女の唾液で、服の襟はびしょびしょに。


 かなりケモノ臭い。


 犬の要素、強すぎでは?


「イオリくん、可愛らしいわね。何歳なの?」


「じゅ、16です」


「あら、幼い見た目の割に、けっこう大人なのね。……ふふっ」


「なんで俺の顔を見て笑ったんですか?そんなに子どもっぽいですか?」


「何でもないわ。ただ、可愛いなーって思っただけよ♥」


 ジョセフィーヌは、艶めかしく目を細めて微笑んだ。


 そんなジョセフィーヌに冷たい目線を注いだエーリカは、「はぁ」と、溜息をついて、一言……


「ショタコン……」


「そんなことないわよ、エーリカ。わたしは、可愛いもの全般が好きなだけよ」


 ジョセフィーヌは、自己紹介にあった通り、この大聖堂の運営を行っている。


――そして、重度のショタコンだ。



 歳の割に童顔で低身長な俺は、彼女からたいへん気に入られた。



 大聖堂の正面には、見覚えのある像が建てられていた。


 金の長髪で、狐のお面を被った彼女の正体は、俺に一撃剣を授け、俺をこの異世界へと転移した、自称神様だ。


「あれが、この世界の神様?」


「神様ではなくて、私たち【教会】が崇め称える救世主様よ。日曜日には、みんな必ず、大聖堂ここに礼拝に来て、神への愛と信仰を唱え、祈りを捧げるのよ」


 あの金髪の子、神様じゃなくて、救世主だったんだ。


「ヴァルハイトも、エーリカさんも、日曜日にこちらに?」


「もちろん」


 とりあえず、この世界の宗教観を簡単に学ぶことができたので、よかった。


 多分、俺が元居た世界のキリスト教的なノリだろう。


 大聖堂での去り際、ジョセフィーヌは俺に向かって「今夜、わたしの寝室に来ない?」と誘われた……



 え、え、寝室に来てって……つまり、【そういうこと】?



「早く歩いて。城のメンバーって、すごく多いんだから、このペースだと陽が暮れる」


 が、エーリカに腕を強く引っ張られ、大聖堂を後にする。



「イオリ、あのシスターには近づかないほうがいい。無防備でいると、いろいろな意味で《《食べられる》》」


「ひえ……こわい」


 ちょっとドキドキした俺がバカだった。


 この城に住んでいる以上、本当に食べられてもおかしくない。だって、みんな《《人間じゃない》》から。


 その後も、様々なメンバーたちと顔を合わせた。


 城の図書館を管理している、首無しの知の精霊【ヴェリス】


 城の地下の財宝の守護を担当する【ゴルゴーン三姉妹】


 城の料理人である料理の精霊【ジンギス・カーン】……名前のクセすごい


 城の周辺の警戒を請け負っているスライム娘の【スララン】


 城門の守護を担う、アイアン・ゴーレムの【ダンケルク】



 などなど……


 とにかく、思い出すだけでも一苦労なぐらい個性豊かな多くのメンバーたちが、この城で暮らしていて、それぞれがそれぞれの仕事を請け負っていた。


 そして、城の掃除と雑務、地下で眠っているというノア女王の身辺整理を担当しているのが、メイドの【エーリカ】。


 そして、組織ノア・ナイトメアを統括しているのが、組織の長でもあり、この城の主でもある【ヴァルハイト】だ。


 しかし、どの人も、志は同じだった。


――【賢者の石】の発見によるノア女王の復活と、ノアズアーク国の再興。


 皆が、口を揃えて、そう言っていた。





「さて、これで城の主要メンバーとの面会は、だいたい済んだわね」


「あの……エーリカさん、」


「なに?」


 俺が質問しようとすると、「面倒くさいなぁ」と言わんばかりの嫌な顔をされた。


「エーリカさんって、どうして、左脚と左腕に包帯を巻いて、左目に眼帯を付けているんですか?」


「……かっこいいから」


「え、ほんとうにそれが理由なんですか?」


 彼女が、ただ「かっこいいから」という理由で包帯と眼帯をしているとは、到底思えなかった。


 エーリカは、赤い絨毯が敷かれた廊下の真ん中でピタリと立ち止まった。


 また「はぁ」と深いため息をつきながら、首元と右腕、右脚をグルグル巻きにしていた白い包帯と、それから、右目を覆い隠していた黒い眼帯を取った。


――彼女の右目は、無かった。


 瞳があるべき場所は、黒いくぼみになっていた。


 右脚は緑色に腐敗しており、右腕は黒色に変色していた。


 その見た目は、まるで、ゾンビのようだった。


 さらに、エーリカは、右半身のメイド服をはだけさせた。


「え、エーリカさん……どうして急に脱ぎ出して……」


「触らないで。あんたに裸を見せるためじゃないわよ。勘違いはなはだしい。死ねばいいのに」


「そ、そこまで言わなくても……」


 白く豊かな乳房が露わになる……と、ちょっと期待してしまったが、そこにあったのは、白い肋骨と、剥き出しの内臓だった。


 あるはずの皮膚や筋肉は、まったくなかった。


「これが、本当の私……【半生半死はんせいはんし】の悪魔としての姿。体の半分が腐乱して、変色して、白骨化したこんな醜い姿、愛しのノア女王に見せられる?こんな使用人メイドの姿を、見たいとお望みになると思う?」


「……たぶん、お望みにならないと思います」


「でしょ?だから私は、この姿を隠すために、包帯を巻いて、眼帯をしているの」


 つまり、きたる女王陛下の復活の日のために、包帯を巻いて、自分の体を隠しているということか。


 エーリカは、メイド服を着直して、眼帯を付けて、包帯を巻き直した。


 半分生きていて、半分死んでいる……そんな、理解し難い存在が、目の前にいる。


 彼女の秘密を教えてもらった俺は、最後に、ヴァルハイトが待っているという城の入口に向かった。



【シスター・ジョセフィーヌのイメージイラスト】

挿絵(By みてみん)

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