表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/10

メイドとの添い寝は命がけ

「うぅ……」


 俺は、城の客室のベットの上、眠ることができず、うなされていた。


 それも当然。


 たくさんの死体を見て、たくさんの血を浴びた。


 その血を撒いた殺人者たるメイドと貴族がウロウロしている城で、ゆっくり、ぐっすり、安心して眠れるはずがない。


 最初の3日は、与えられた食事もロクに喉を通らなかった。


 そんな俺の寝かしつけ役として、メイドのエーリカが部屋にやってきた。


 いや、余計に寝られないわ!


「ねんねんころりよ、ねんころり。イオリは弱い子、永遠ねんねしな~♪」


「やっぱり、俺のこと殺そうとしてませんか……?」


「そんなことない。気のせいよ」


 声は心地好いけど。


 女性としては低めの声が、けっこうカッコイイ。


 人殺しメイドに添い寝されながら、子守歌を歌われるという奇妙な光景。


 彼女が歌った歌詞は、非常に侮辱的で物騒な内容にアレンジされていた。


 「永遠ねんねしな」つまり、死になさいと言われている。


 エーリカの胸もとの膨らみが、背中に当たっている。


 柔らかい。


「あ、あの、エーリカさん……」


「勘違いしないで。私は、ヴァルハイトに『イオリを寝かしつけてやれ』って言われて添い寝してあげてるだけだから。これは、あくまで【仕事】なの。私に恋愛感情なんかを持ったら、殺すから」


「あなたのような人を好きになることはないと思います……たぶん」


「そう?ならいいんだけど。早く寝て。あなたの近くにいると、体が腐る」


「冗談だとしてもその悪口はキツイです……」


「早く寝て。はぁ、何度も同じことを言わせないで」


「は、はい。おやすみなさい」


「おやすみなさい、イオリ」


 エーリカは饒舌じょうぜつなる毒舌を披露して、ベットから起き上がり、乱れたメイド服を直した。


 俺は毛布に潜り込んで、寝たふりをした。


 エーリカは、部屋を出て行った。


 そのま毛布にくるまっていると、いつしか眠くなってきた……


 よかった、今日も生き延びることができた……



 おやすみなさい。





 次の日の朝……


 俺の気持ちは落ち着いていた。


「……よかった、俺、生きてる」


 外は、相変わらず薄暗い。


 なぜなら、城全体が巨木に覆われているから。


 かすかな木漏れ日がキラキラと輝いている。


「おはよう、イオリ」


 エーリカがちょうど、朝の挨拶にやってきた。


「お、おはようございます」


「ベッドから降りて。シーツと毛布を整えるから」


「あ、ありがとう……」


「感謝なんかいらない。私の仕事だから」


 黙っていれば、仕事のできる完璧な美少女メイドなんだけどなぁ……


 いかんせん、毒舌がキツくって……


 俺は、ベットから起き上がりつつ、服を着替えて、気になっていたことをエーリカにいてみることにした。


「え、エーリカさん……」


「なに?」


「ノアズアーク国って、いったいなんなんですか?」


 その単語は、ヴァルハイトとエーリカが名乗る際に使っていたから、気になったのだ。


 エーリカは、俺が寝ていたベットのシーツを整えながら、教えてくれた。


「ノアズアーク国は、100年前に滅亡した、ノア女王と、宰相のヴァルハイトが率いていた国の名前よ。私たち【ノア・ナイトメア】は、この城を拠点に、滅亡したノアズアーク国の復活を目標に活動しているの」


 なるほど、つまり、ヴァルハイトは、かつて偉い地位にあったということか。


 エーリカは、チラチラと踊る窓の外の木漏れ日を見つめながら、説明を続けた。


「ノアズアーク国の復活には、一つ、重要な要素があるの――ノア女王のことね」


「そのノア女王が、ノアズアーク国のトップに君臨していたということですよね?」


「でも、ノア女王は世継ぎを残すことができず、病弱で……」


 エーリカは、そこで言い淀んだ。


 たぶん、病気が女王を蝕み、女王を殺し、ノアズアーク国を崩壊に至らしめたのだろう……俺は、そう推測した。


「詳しいことは、ヴァルハイトにいて」


 ヴァルハイトは、どのように亡国のノアズアーク国の宰相になったのか。


 エーリカとヴァルハイト、そしてノア女王の関係は……?


 いろいろと気になり過ぎる……


 今後ヴァルハイトから、詳しい事情をいてみるか。


「さて、今日は、城のメンバーに挨拶回りに行くわよ」


 どうやら、この城に住んでいるのは、ヴァルハイトとエーリカだけではないらしい。


 どんな化け物が住んでいるのだろうか……期待と興味と恐ろしさが同時に湧いた。


「早くそのだらしない寝ぐせを治して。早くしないと、首をねじ斬る」

「こわいよ……脅さないで」

「脅さないと早く動かないでしょ?」

「まあ、たしかに、俺は怠け癖がある人間ですけど……」


 エーリカからの強迫に震えながら、急いで寝間着から冒険服に着替えた。


 次に、城の外へと出て、城の中庭の冷たい井戸水で顔を洗い、寝ぐせを整えた。


「はい、あなたの剣よ」


 顔を拭いた俺に手渡されたのは、白い光を放つ一撃剣だった。


 剣の柄の部分の宝石の色は、赤色をしていた――つまり、今日の分の一撃必殺の効果があるということ。


「ありがとうございます。けど、いいんですか、俺に一撃剣を返してしまって?」


 俺は、ヴァルハイトとエーリカに敵対した側に人間なのに、武器を返してもいいんだろうか。


「その剣では、オレは殺せないって、ヴァルハイトは自身満々よ」


「それって、俺が舐められているということですよね?」


「ええ、そうね。現に、私もあなたのことを舐めているわ」


「ぐぬぬぬ……」


「悔しかったら、斬ってごらんなさい。ほら、私は無防備よ」


 両手を広げたエーリカに挑発されたが、ここは敵の本拠地。彼女に一撃剣を振ったら最後、ヴァルハイトや、ほかの城のメンバーたちが駆けつけて、俺は、ギタギタのメタメタにされて殺されてしまうだろう。


 それに、俺の今の目的は、強敵ヴァルハイトとエーリカたちの討伐ではなく、生き残ることだ。


 ここでエーリカを斬ることによる俺の利益は、皆無。


 悔しさを奥歯で噛みしめて、剣の柄にかけた手を引っ込めた。


「じゃあ、城の案内と、メンバーとの顔合わせをする。付いてきなさい」


 俺は、エーリカの背中に続いて、城を巡った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ