表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/10

美少女ヒロイン現る……?

【ドアル帝国 城塞都市エーレブルク】



 三角屋根の家々が建ち並び、その間を走り抜ける黒い蒸気機関車が見えた。


 レンガ造りの酒場からは煙突が伸びて、白い煙を漂わせている。昼時ということもあって、焼き立てのパンや、コショウのツンとした香りが漂っていた。


 漫画やアニメ、歴史の教科書で見た世界が目の前に広がっていた。


 鉄道が走っているので、史実の19~20世紀ごろだろうか。


「わぁ……すごい」


 異世界転移を果たした俺は、小さな身の丈には合わない大きめの白い剣を腰に携えて、気分の赴くままに周囲を探索した。


 当面の目的は、水と食料を確保することになりそう。あと、それらを買うためのお金と、雨風をしのぐ場所の確保と……けっこう現実的な問題ばかりだ。


「これが異世界……これが日常……」


 耳が尖った美男美女ぞろいのエルフもいるし、


 トカゲと人が合わさったような見た目のリザードマンもいるし、


 鋭い牙と黒い翼を持った悪魔族もいるし、


 ヒラヒラと蝶のように舞う、手のひら大の妖精だっている。



「すごい……あれが、異種族の人たちか~」


 一人で感心していた。


 街を歩いていて、さらに気がついたことがある。


「……文字が読めない?」


 パンのイラストが書かれた軒先の看板には、見慣れない文字が書かれていた。


「まぁ、異世界に来たんだから、文字が読めないのは当たり前か。言葉は通じるみたいだけど」


 幸い、周囲の人々が話していることの内容は聞き取れる。


「明日どこ行く?」「妖精の里に、良い酒屋があるらしいぜ」と、異世界の日常会話がなされていた。


 言葉は通じるが、文字が読めない、そんな状況だ。


 俺は、文字が読めないことへの不安を抱きながらも、人の流れに沿って、大通りをまっすぐに歩いた。


 すると、大通りのど真ん中に、何やら人だかりが。


「出発時刻まで、あと10分だ!今一度、持ち物や武器を確認するように!」


 集団の中心に置かれた屈強な男が、その周囲の人々に何やら呼びかけていた。


 兵士や、冒険者らしき人が勢ぞろい。


 みな武器を持ち「一攫千金、やってやるぞ!」と叫んで、血気盛んで、戦争が始まるのかと予感させる雰囲気が渦巻いている。


 悪い人たちじゃなさそうだけど、面倒事だったら困る。


 異様な雰囲気をかもす一団から距離を取って、大通りの隅っこを歩いていたら……


「おい、そこのガキんちょ」


 俺は、異世界に来て初めて、声をかけられた。


 声をかけてきた相手は、茶髪とオレンジ色の中間の色の髪をした男だった。


 陽キャっぽい色付きのサングラスをかけており、裾の長いミリタリーチックな深緑色の外套がいとうを身にまとっている。口には紙たばこ。



――背中には、兵隊が使うような銃を持っているではないか。


 やっぱり、戦争が始まるの?


「は、はい?」


 俺は、男のほうに振り向いた。


「強そうな剣持ってるじゃねぇか。オレたちさ、これから高額報酬のクエストに行くんだよ。一緒にどうだ?」


「く、クエスト?どんな内容なんですか?」


 高額報酬のクエストともなると、難易度も相当高そう。俺がのこのこと付いて行って良いイベントではないような気がする。


 男は、街の南を指さした。


「この街のはずれにある森の奥深く……そこにいる人外じんがいどもを討伐するっていうクエストだ」


 男は「オレたち全員強いからさ」と言い、「成功すれば報酬は山分けだ!」と重ねて言って、執拗に俺をクエストに誘った。


 なんだか、良くない商法に引っかかっている気分だ。


 断っておこうかな。


 しかし俺には、お金がない……


 それも当然、この世界に召喚されたばかりだから。


 このままでいれば、飢えに苦しむことは確実だ。現に、腹の虫が「ぐう」と鳴いている。


 けれど、なるべく危険なことには関わらないでおきたいとも思う。


「俺、ここに来たばかりで、しかも、弱いんです。だから、みなさんのクエストでは役に立てないと思います……」


「お前、何のためにその腰の剣を持ってるんだよ?戦うためだろ?」


「いや……まあ、そうですけど……」


 最強の剣を持っていれば、異世界でチート無双できて、あらゆる敵をなぎ倒し、老若男女にモテモテだ~……という、かつての俺の幻想は早々に砕け散った。


 最強の剣を持たされた俺自身が、引きこもりの貧弱では、どうしようもないことに気が付いてしまった。


 しかし、そうこうしている間にも、空腹感は増していく。


 どうして、何もしていないのにお腹がへるんだろう……


「分かりました。俺も、クエストに参加します」


「おっしゃ。そう来なくっちゃ」



 一か八か、男の誘いに乗り、武器を整えた一団に加わった。


 最悪、兵隊や冒険者の人たちに戦ってもらって、俺はなるべく戦わずして報酬を手に入れよう。


 油断も無理も禁物。


 死んでしまったら、元も子もない。


「あ、ちなみに、オレ、【ガルク】な」


「俺は、イオリって言います」


「なんか変な名前だな。とりあえず、よろしくな」


 俺とガルクは、固い握手を交わした。


 そのガルクの後ろから、とある一人の美少女がやってきた。



「ガルク?どうしたの、その子?」

「オレがクエストに誘った。イオリっていうらしいぜ」

「ふーん、そうなんだ」


 首を傾げて、低身長の俺を見下ろしたのは、空色の髪の美少女だった。


 こん色のリボンでツインテールを結わいており、それが風になびいて揺れている。ゲームやアニメでいう、魔法使いや賢者という言葉が当てはまりそうな衣装を身に纏っており、金色の装飾が細緻で、それが高級感を漂わせている。


 いかにも、魔法少女って感じ。


 快晴の空の色をした美少女の瞳に見つめられて、俺は言葉を失っていた。


 あまりにも彼女が美しかったから、目だけでなく、言葉さえも奪われてしまったのだ。


「コイツ、オレの姉ちゃんな。魔法大学校出て、魔導士の資格持ってる。この後のクエストで、一緒に戦う予定だ」


「ん!よろしくね、イオリくん。アタシは【マーレ】。世界一の大魔導士を目指して、弟のガルクと一緒に冒険者してまーす」



 きたあああああああ!!!!!


 俺のためのヒロインの登場だ!!!


 突然の美少女ヒロイン候補の登場に、俺の頬は赤く染まり、心が躍り出した。



♦マーレのイメージイラスト♦


挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ