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一撃剣を手に入れて異世界に召喚された件

「あー、俺も異世界に行って、最強魔法で無双したいな~」


 愛読書である異世界ファンタジー漫画の第一巻を読み終えて、そう思った。


 しかし残念ながら、俺は、童顔と低身長がコンプレックスの引きこもりで親泣かせな高校生【雨 イオリ】だ。


 世界を救う勇者にも、世界を支配する悪のカリスマにも程遠い。


「そんなバカなこと言ってないで、勉強したら?」と母は言う。


 しかし、家にいるとゲーム、漫画、インターネットなどの誘惑が盛り沢山。


 勉強なんてする気になれないよ!


 さてさて、風呂に入らないと。


 俺は、着替えをタンスから取り出すために、ソファーから立ち上がったが、足首のあたりがジンジンと痺れている。


「わっ!?」


 俺は、盛大に転んだ。


 俺の後頭部が、階段の段差に直撃した。


 意識が、暗くなっていった。


 



「おおイオリよ、死んでしまうとは情けない……実に情けない……」


 一瞬、母さんに呼ばれているのかと思ったが、母の声にしては、あまりにも耳に心地よい、美しい声だった。


 俺が目覚めたのは、天国に似た場所だった。


 夏の青い空に育った入道雲を想起させる白い雲が漂っていて、光に満ちた世界だ。


「ごきげんよう、イオリくん。わたしは、全知全能の神様だ」


「え、神様?」


 俺の目の前には、筆舌に尽くしがたいほど美しい美少女(神様)が立っていた。


 収穫期の小麦畑のように美しい金色の髪をたなびかせ、その素顔を狐のお面で覆い隠している。背丈は、低身長(150cm)の俺と同じか、すこし高いぐらい。古代ギリシアの哲学者みたいな白い服を身にまとっており、絵に描いたような容姿端麗。


「え、もしかして俺、死んだんですか?」


「いや、階段の角に頭をぶつけて、瀕死の状態となり、意識を失っている」


 あまりに情けなさすぎないか!?


 まあ、脚が痺れて転んだのは、100%、俺のせいなんだけれども。


「君は、今の現実に満足していないようだな」


 神様は、この状況を呑みこめていない俺を置き去りに、淡々と語った。


 偏差値の高い進学校に進学したはいいものの、勉強に熱が入らず、落ちこぼれ、今では不登校の引きこもりだ。


 親からもらうなけなしのお小遣いで買った漫画をダラダラと読み、惰性でオンラインFPSゲームを続ける毎日に、満足しているわけがない。


「そこで、私から提案がある。――異世界に行ってみないか?」


「え、行きたいです!」


 俺は声を大にして、喜びを叫んだ。


 チート能力を付与され異世界に送られた俺が、その能力を活かして魔物どもを駆逐して、老若男女にモテモテ。


 そんな夢が膨らんだ。


「しかし、君をその状態のまま異世界に送ることはしない。なぜなら、君は弱すぎるから」


 身長は低く、顔は歳不相応に幼く、手足は爪楊枝のように細い。


 筋肉?なにそれおいしいの?


 そんな俺が、なんの武器も能力も持たずして異世界に転移させられることは、ワニが入った檻の中に兎を放つことと同じだ。


 世界に行って、何もできず、飢えるか魔物に喰われて死んでしまうという、物語としてたいへんつまらない展開が容易に想像できた。


「そこで、君には最強の剣を授けよう!」


 なに?最強剣だと!?


 ぜひ受け取りたいところだが……


「俺、最強の剣よりも最強の魔法が欲しいです。たとえば……どんな相手も魅了して、仲間にできる魔法とか!」


 俺は、剣士よりも魔法使いに憧れがあった。


 しかし、神様は、俺の我がままを許してくれなかった。


「欲張り言うでない。そういうこと言うなら、何も持たせないまま異世界に送ることにするぞ?いいのか?」


「や、やめてください……それじゃあ俺、異世界で生き残れないですから……」


「では、おとなしく剣を受け取りたまえ」


「はい、わかりました……」


 神様は、白い椅子に座って、呑気に紅茶を嗜みながら、指をパチンと鳴らした。


 すると、天から降り注ぐ神々しい光に包まれて、白い西洋剣が降りてきた。


 大きさ的には、片手剣だろうか。


 神様は、その剣を手に取り、赤い宝石が埋め込まれた柄の部分をじっくり見せてくれた。


「この剣は、どんな相手も一撃で天に召すことができる剣だ」


「おぉ!すごい!」


「現代っ子の君に、より簡単に説明すると、相手に9999ダメージを与えるという感じだ」


「わあ、チート武器じゃん」


 9999ダメージ!?


 ゲームのザコ敵はおろか、ラスボスすらも一撃で倒せるぐらいの威力だ。


 期待を膨らませた俺に、神様は、淡々と告げる。


「――ただし、この剣が一撃必殺の効力を持つのは、一日一回だけだ」


「え……?一日一回だけ……?」


 少な。


 ラスボスとの一対一の決闘なら勝算があるだろうが、100匹の狼に襲われたら、勝ち目がない。


「え、じゃない。こんなに文句を垂れる人間は、君が初めてだよ」


「すみません、ありがたくいただきます」


 それでも、何ももらえないよりかは、はるかにマシ。


 俺は、神様から剣を授かった。


 筋トレの経験が皆無で、腕も細く貧弱な俺でも、容易に振り回せるぐらいの軽さだった。


 本来の剣は鉄製で、けっこう重いはずなのだが……まるで、おもちゃの剣を持っているような感覚だ。


 こんな玩具おもちゃのような剣で、本当に、どんな敵も一撃で倒せるのだろうか……?


「柄の部分に宝石があるだろう?その宝石が赤い色をしていれば、相手を一撃で葬る力があるということを示し、その宝石が青色をしていれば、今日の分の効力は失われいていることを示す」


「便利ですね~今は赤色をしているので、一撃必殺の効力があるということですか?」


「その通り。剣の効力は、宝石に日の出の光を取り入れることによって回復する。理解したか?」


「おっけーです」


 神様の説明に相槌を挟み、頷いた。


 一撃必殺の効力があるか否か瞬時に確認できるお知らせ機能付きとは、なんと便利な剣なんだ。


「では、私はこれにておさらばする。せいぜい、苦境の中でもがき、真人間まにんげんになるんだな」


「え……あの、俺が元居た世界は、どうなるんですか?」


「安心せい。君が異世界に居る間は、あちらの世界の時間は凍結させておく。君がある程度成長して、目的を達成して、真人間になったら、帰してやってもいい。階段の角に頭をぶつけたというドジも、時間を巻き戻して、帳消しにしてやろう」


「わかりました。ありがたいです!」


「うむ」


 一応、現実の世界に戻ることができるかを確認しておいた。


 まあ、もう戻ることはないだろうけど。


 俺は、この一撃剣を持って、新たな世界で多くの人に褒められ認められる人になるんだ!


 剣の力で、一国の王様になっちゃおうかな?


 あるいは、世界を救う勇者になろうかな!?


 夢が膨らむ。


「では、せいぜい頑張るがいい。私は、君のことを見守っている」


「あ、待って!最後に一つだけきたいです。この世界の目的は何ですか?」


 魔王の討伐か、それとも、勇者の仲間になることか……はたまた、最難関ダンジョンを攻略することだろうか?


「目的は、君自身で探したまえ。何をするも、誰と冒険をするも、どんな場所で過ごすも、君の自由だ」


 神様は、もう一度指をパチンと打ち鳴らした。


 すると、俺の体は宙に浮いて、厚い雲の中に放り出された。


「うわああああああ!!」という俺自身の絶叫が、雲の中で反響して、意識は霧にまみれた。


 自由落下に身を任せながらも、右手では、腰に携えた一撃剣をぎゅっと握っている。


 俺は、いつの間にか黒いマント付きの冒険服を身にまとっており、異世界へと降り立った。

 

 俺が放り出されたのは、人々が行き交う、見知らぬ街だった。

作者は、18万文字と28万文字のラブコメを完結させた経験があります。


今作も完結まで走り抜けようと思いますので、応援のほど、よろしくお願いいたします!


それでは、様々な運命が交錯する異世界へ、いってらっしゃいませ~

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