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支援の日の出  作者: hoketsu
第一章 始まりの始まり
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02話 見知らぬ部屋


「こんなところで、何をしていたの!」


 自分と同い年ぐらいだろうか? そこには少女が立っていた。

 金色の光を放つ髪を(なび)かせ、少女は声を荒げて言う。

 ところどころが汚れているが上品さを感じさせる服を身に纏い、その手は真っ赤な血で染まっていた。

 僕と少女を挟んだ前には、首から上がないジャイアントベアーの身体が取り残されて立っている。



 < ドサッドサッ



 止まっていた時間が動き出したかのように、胴体は地面に倒れ始める。十体ほどはいたであろう大型の獣が、頭の後を追うように次々と崩れていく様は、まさに壮観そのものだった。


「……すごい」

「なんでこんな所にいたの!」


 質問に対しての答がなされないからか、言い直されての再度質問。

 なぜこんな場所にいたのか。その理由は生きるためと答えるのが正しいが、まさしく死地であったこの場では矛盾が生まれてしまうだろう。

 とにもかくにも助けてくれたので、感謝をしなければならない。

 しばらくぶりの会話であっても、人としての礼儀は弁えているつもりだ。


「助けてくれて、本当にありがとう!」

「……話が通じないみたいね。傷がかなり深いから、家で治療してあげる」


 少女は周りを警戒しながらこちらを振り向き、そう言った。

 ここで初めて少女の顔を拝み、勇敢さや落ち着き具合とは異なって比較的幼いことに気が付く。

 それでいてどこか大人のような、落ち着いた雰囲気が感じ取れた。

 

 君は誰なのか。

 そう聞こうとしたが少女の顔が歪み、二つ三つと増え大きく視界がもたれてくる。


(出血が……多すぎたのか……)


 敵をさらに強くする命懸けの戦法は今日をもって終わりにしよう。

 遠のく意識の中で、そう心に誓ったのだった。




*********************




 ふと目が覚めると、久しぶりの感触がそこにはあった。

 天井を覆う板から始まったこの感覚は、次にベッドへと向けられる。

 反発性の強いベッドに上から毛布がかけられて、長い(あいだ)腕の中で寝ていた頭は、温もりのある柔らかな枕によって包まれている。

 ずっとこのまま寝ていたい。そう思うほどに今の環境は快適だった。


「ここは…どこだ?」


 知らないベッドに知らない枕、ベッドが十個は置けるといった広さの部屋。

 このまま寝ているよりも、今は現状把握に勤めた方が良さそうだ。

 窓は開けっぱなしになっていて、そこから見える景色は夜の最中(さなか)であることを示していた。

 

 どうやら、日付を跨いだという訳ではなさそうだ。となると、次はこの部屋がどこなのか考える必要が生じてくる。

 体を起こして背伸びをし、部屋を全体的に見まわしてみる。

 床から天井までに木の板が隙間なく丁寧に並べられ、灯りは天井の真ん中に一つ付いてるだけだった。

 その時、あることに気づく。


「この部屋……なんで扉がないんだ?」


 もしかしてこれは夢なのだろうか。

 あまりに無機質で構造上ありえない部屋の構造に、夢の中にいるような気分である。

 あのあと助かったのか、結局あの少女の正体はなんだったのか。

 さまざまな疑問が浮かぶものの、ひとまず動いてみることにした。


「まずはこの部屋の探索かな、って言ってもベッドぐらいしかないんだけど……。これは何のための部屋なんだ?」


 一つの照明でかなり広く照らしてくれはいるものの、それでも隅に光は届いていない。

 見えてない部分に何かがあるかもと希望を抱いていたのだが、無情にもそこはただの角である。

 特に理由はないものの、なるべく音を立てないように探索する。

 家の四隅を壁沿いに歩いたが、出れそうな場所は見つからなかった。

 このだだっ広い部屋はあの少女の家なのだろうか。だとしてもどうして誰もいないのか。

 情報量の圧倒的不足により、頭が回転することはない。


「そうだ、窓!」


 最初に存在に気づいていながらも、窓が情報源になるのを忘れていた。

 外からの景色を見るだけでも、ここがどこで今はどのぐらいの高さなのか、といった情報が手に入るはずだ。

 僕はすぐに窓に近づき、景色を確認しようとする。しかし、外は真っ暗で何も見えない。

 外からの明かりは一切見えず、ここが人里から離れているのだと認識した。

 窓の下を覗きこもうと、身を乗り出すと、頭が硬い何かとぶつかる。


「イタタタタ……なんだ? これは……壁?」


 思わず窓らしき物から少し離れる。

 窓全体が壁のようなもので覆われており、そこでようやく外の景色など映っていなかったことに気がついた。

 おでこをさすりながら現状把握に努めようとする。と、今度は体がふっと軽くなる。

 地面と同じ目線になり、


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



 < ゴンッ

   < バキッ

     < パリン



 下に落ちた後もしばらく転がり続け、背中から壁に当たりようやく静止した。

 全身を前に押し出されるようなそんな感覚が身体を襲い、背中は嫌な汗をびっしりとかく。

 ほどなくして焦点が合ってくると、目の前に人影があると気がついた。


「だ、大丈夫?」


 ゴールドの髪を(たずさ)え心配そうに覗き込んでくる人物は、間違いなくあの少女だ。

 服は変わり顔こそわずかしか見ていないものの、その魅力的なオーラがそうだと確信させてくる。

 少なくともここがあの世であったり、全く関係ない人の家だったりはしないようだ。


「なんとか、大丈夫かな」


 少女からの問いに答えながら、その場で姿勢を動かさずに痛みが引くのを待つ。

 この部屋も先ほどの部屋と同じ構造で、同じ家具、同じ雰囲気から迷宮に迷い込んだ感覚に陥っている。

 ただし、この部屋には扉が付いていた。

 落ちてきた場所を確認すると、一人がすっぽり入るほどの破けたような穴が開いている。穴のフチでは木の板が捲れ、壊れた形に近かった。


「急に地面が無くなって、それで……。これ、僕が壊したのかな?」

「ごめん! 私が不用意に扉を開けたばかりに」

「……扉?」


 もしや、あの穴のことを言っているのだろうか。あれはどうみても穴にしか見えないのだが、文脈的にもそのことを指しているのだろう。

 そうなると、あれが正規の出入り口となるわけだが……


「聞きたいことがたくさんあると思うけど、後で話すから付いてきてね」


 何も分からなくて混乱している僕の手を取り、引いてくる。

 引っ張られるのに身を任せていると、とんでもないものを目にした。


「な…家とか、そんなレベルじゃないね……これは」


 部屋を出ると、そこには赤い絨毯が引かれた広い廊下があった。窓からは光が差し込んでいて、今は昼間だと気付かされる。

 天井は、三人分の高さといえば分かるだろうか。

 その割に廊下は長くないみたいで、部屋二つ分が隣合わせになる程度。

 部屋二つ、階段を挟んでまた部屋二つ。一階分で四つの部屋が配置されており、真ん中の階段は下が吹き抜けになっていた。

 どうやら、僕が目覚めた部屋は最上階である三階のようで、階段の終わり目から降りていく形。

 天井に一つ、巨大なシャンデリアが公然とぶら下がっている。

 閉じられている空間。にも関わらず、なぜか外よりも広く感じた。


 階段を下り、ラウンジのようなところに案内される。

 目の前が玄関になっており、家の出入りが分かる構造だ。暖炉のついたその場所は、暖かく僕を迎え入れてくれる。

 彼女は手を離し、炉の前に置かれた椅子を指差すと、そこに座るよう催促する。

 お互いが椅子に掛けたところで、彼女は会話のスタートを切った。



「私の名前はリオラ・シースリー。()()()()よろしくね!」




表現の修正を行いました(2025/4/10)

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