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支援の日の出  作者: hoketsu
第一章 始まりの始まり
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10話 落ちた手がかり


 鳥のさえずりが聞こえ、ゆっくりと目を開ける。

 部屋に備え付きの黒い窓は、今の時間を教えてくれない。

 手慣れた動作で穴から顔を出し、下の部屋の窓から確認。昇り途中の太陽は、光の強さを誇示するかのように光り輝き、目に強い光が差し込んでくる。

 ここに来てから初めて、朝日が昇ると共に起きれたようだ。

 すると、ある違和感に気づく。


「はしごが、外されてない……?」


 朝には外されていたハシゴが、今回は夜にかけたきりになっていた。ひょっとすると、昨日ガイアスは帰っていないのかもしれない。

 もしくはお酒を飲んでリオラの部屋にいるのか。

 どちらにしろ、執事にしては抜けているものである。


 今日を満喫すると決めたため、早速朝の支度を始めた。

 夜話していた通り、明日から学生生活がスタートを切る。新たな生活の始まりは大抵喜ぶ性格なのだが、二年生の終わりからというあり得ないスケジュールが、心の足を引っ張っていた。


「絶対、友達一人は作らなきゃな……。色んな人に話しかけて、仲良くなって」


 学校に行っていたのならまだしも、初めての学校を想像するのは難しい。

 どのようなところなのか、ある程度理解はしているものの子供の頃から学校に通っている学生たちと、感覚がズレているのは必然だろう。

 緊張感に押しつぶされそうになるが、流れに身を任せればどうにかなってくれるはず。

 そう捉えることにする。




 階段を降りラウンジへ行くと、そこには外出用の服を着たリオラが座っていた。

 少し大人びた服を着る彼女は、普段は下ろしている髪を結んでいて印象が大きく異なっている。

 いつもと違う雰囲気には気高さすらも感じられ、貴族であるということを今一度再確認させられた。


「おはよう、リオラ」


 我に返り、朝の挨拶を送る。


「おはようレイド。朝ごはんは作って置いてあるから、後で食べてね」


 リオラはこちらに気づいた様子で、挨拶を返してくれた。

 やはり、ガイアスは戻っていなかったようで、朝ごはんはリオラが作ってくれたらしい。

 本当にできた人である。

 この若さで、ここまでしっかりしている人は他を探してもいないんじゃないだろうか。

 

「じゃあ、そろそろ行ってくるね」

 

 今日も学校に行くらしく、扉を開けて背を見せる。


「行ってらっしゃい」


 扉の閉まっていく狭い隙間に、通すように声を張る。

 リオラに届いたかは分からなかった。




 朝食を済ませ家を出る。今度もしっかり鍵を閉め、再度の確認も怠らない。

 出かけるための全ての工程を終わらせて、扉の前に立った。

 昨日入れたばかりのハレストは、しっかり手のひらに刻まれている。

 しかも最高峰のクラスⅠ。それだけで、自信が内から湧き出てくる。


 今日向かう場所はただ一つ。

 鐘楼(しょうろう)である。

 幾度となく足を運ぼうとするせいなのか、若干の既視感に襲われるが、今回の理由は一味違う。

 無論、街の探索はしたいのだが、昨日の話を聞く限りミクスの魔法には弱点がある。

 詠唱の長さ。これが、ミクスに対抗しうる唯一の方法なのだろう。

 

 しかし、ここで二つの問題が出てくる。

 ミクスは詠唱の長さの弱みを知っているため、おばあさんが死んだ後に姿を現したのだ。となると、詠唱中はどこかに隠れていることになる。

 隠れているミクスをどのようにして見つけるのか。また、狙う相手が誰なのか。

 この二つが最重要課題となる訳だが……一つ、気になることがあった。

 それを確認するためにも、今日は急いで鐘楼に向かわなければならないのだ。


 とその時、果物を大量に乗せた大きな荷車が、目の前を通った。


「ん?」


 商人が荷を運ぶ、至って普通の光景で、そこに対して違和感はない。

 ただ、一つ、二つと、大事な商品を落としながら歩いている。

 上から布を被せて固定をしているようだが、過剰な量を積みすぎているのか。一つ抜けた隙間から階段を下るように落ちていくのだ。

 しかし、落とした本人は気づいていない状態で、そのまま歩いて行こうとする。

 

 追いかけて届けなければ。

 そう思って、何個か持って知らせに行く。


「あの、すみません」


「っ!?」


 声をかけると、商人の男は酷く驚いた様子でこちらを凝視してきた。

 目の下にはクマができていて、瞳はまるで生気を失ったかのように澱んでいる。

 小柄で丸みを帯びたシルエットは、商人のふくよかさを表しているようだった。


「これを。何個か落としていて、届けようかと」


「あ…あぁ、へへっ。どうも……」


 そう言うと、果物を粗雑に戻し布を改めて強く固定。特に気にすることもなく、また歩みを始めた。

 なんとも気味の悪い男である。これが、最初に抱いた印象だ。

 喋り方も含め心配になる人だったが、本人から触れるなというオーラを感じたため、気にしないことにする。

 それよりも今すぐに、確認しなきゃいけないことがあるのだ。

 これ以上何かが起こる前に、慌てて向かうことにした。




*********************




 少女は再び目を覚ます。

 夢から覚めても、光景が変わることは無い。手足の自由を奪われ、拘束されたままの状態だ。

 隙間から入る光は、相変わらず無いに等しいほどだった。

 この状態は一体いつまで続くのだろうか。

 どこかへ運ばれているのだろうが、止まる気配が一切ない。

 一定の速度で長い時間、ずっと動き続けているコレはいつになったら終わるのだろう。

 どこを目的として、何のために動いているのかも分からない。

 先行きが見えないまま、長時間環境が変わらないため、不安を感じるよりも飽きが優位に立とうとしている。

 そんな時だった。



 < ガコンッ



「……?」


 強い揺れと共に突如、動きが止まった。

 目的地についたのだろうか。


「どいつもこいつも、面倒なことさせやがって」


 しばらく声を聞いていないかと思えば、悪態をつき始める。さっきと同じ野太い声。

 男の性格は、非常に良くなさそうだった。

 喋るのをやめたかと思えば、次は呼び鈴を鳴らす音。

 少しの沈黙の後、錆びた金属を引っ掻くような音が響いた。


「いや、本当に助かった。急に呼んでしまって悪いね」


「いえいえ……へへっ。私共はあなたたちの助けになれますよう、力を尽くすのが仕事ですから。存分に、ご利用していただいて結構ですよ」


「そう言ってもらえると、非常にありがたいよ」


 若い男の声。

 それに、今までの男の声は猫撫で声のように高くなり、口調も媚びへつらうそれになっていた。


「して、どのようなご要件で?」


「ふむ。本当はもっといさせてあげても良かったんだが、いかんせん役に立たなくてね。遊ぶにも私の趣味ではないから、君たちに預かってもらいたい」

 

「へへっ……そういうことでしたら、私どもを呼んだのは大正解ですな。その子は……今どちらにいるんです?」


「あぁ、また隠れてしまったか。ティニエ!!」


 若い男は大きく怒鳴り、半ば脅迫するかのように呼び出す。

 すると声に反応して、少女の声が聞こえてきた。


「あ…あの……」


「ティニエ。なんでお前はいつも、私の手を煩わせようとするんだ……」


「良い子でいる…から、だから、私を……捨てないでください…! お願い、します! なんでも……なんでもしますから!!」


 悲痛な叫びだった。

 聞いてるだけで助けてあげたくなるような、心からの叫び。

 それと同時に、自分たちは捨てられそうになっているのだと自覚する。


「ティニエ、落ち着きなさい。何でもなんてそんなこと、してもらわなくても大丈夫。良い子ならこのおじさんの言うこと、聞いてくれるな?」


「うぁ……あ…」


「お待たせしてすみませんね。この子、いつもこんな調子なんですよ」


「いえ。こちらも子供の扱いには慣れてますんで、お気になさらず」


 その直後、少女の声は一切聞こえなくなった。

 もしかするといま自分たちがされているように、縄で口を縛られたのかもしれない。



 < バンッ



 急に(まばゆ)い光が入ってきた。どうやら、自分たちを圧迫していた屋根が、開けられたらしい。

 久しぶりの空が目に入る。かと思えば、重い()()が落ちてきた。

 見るとそれは、手足を縛られ口に縄を巻かれた少女だった。恐らく、先ほどまで言葉を発していた少女だ。

 そこまで理解したところで、すぐにまた暗い空間に戻ってしまう。

 今度の空間はもっと狭く、定員を超えそうになっている。


 入れられた少女の目には涙が浮かんでいた。

 元々少女といたであろう若い男は、誰が聞いても明らかに気分が高揚していた。

 その声を聞き、少女の目により水滴が集まってくる。

 そんな心情に対して、無慈悲に動き始める暗い空間。

 自分もそうだと言うように、優しく体で彼女を抱え、少しでも慰めようとする。

 

 見通しの立たないこの環境で、少女は泣いている少女を見つめ、ただひたすらに祈っていた。




*********************




 鐘楼に到着した。

 やはり、ここは王都を見るのに適している。

 隅から隅まで見渡すことができる、最高の場所なのだ。


「これ、前と同じものだよね」


 その手に持つのは双眼鏡。初めてここに訪れた際、使わせてもらったものだ。

 そう。確かめたかったこととはまさに、この双眼鏡に関することである。


 おばあさんの死亡は、実際に目にするよりも前の、覗いた時に見えたものであった。

 しかし翌日、おばあさんはしっかり生きており、誰かと見間違えたのだとずっと思っていた。


 『昨日は特に何もしてない』


 ミクスは確かにそう言った。

 あの時見た死体は徐々に青くなり、最終的に死亡が確認される独特の死に方をしている。

 もしこの魔法が一般的に使われるような代物ならば、ミクスが刑場の司裁(プリズンジャッジ)などという呼ばれ方はしないだろう。

 つまり、あの殺し方はほぼ確実に彼女がやったのだと見ていい。

 それにも関わらず、彼女はしていないと言っていた。

 殺人について赤裸々に語る彼女が、だ。

 つまり……

 

「っ!!」


 双眼鏡を目に押し当て、自分の手を確認してみる。

 すると、無いのだ。

 肉眼で確認した時には確かにそこにあるのに、自分の手が映っていない。

 映っているのは、古びた鐘楼の床のみである。


 次に目を向けるは、鐘楼の下の大通り。

 通行人は問題なく映っていた。しかし、何かがおかしい。

 大通りに常駐しているはずの衛兵たちが、軒並みいなくなっているのだ。

 裸眼で改めて確認すると、そこには確かに衛兵がいる。にも関わらず、レンズを通すと見えなくなる。


 最後の確認として、危険な行為をすることにした。

 絶対にレンズを通して見てはいけないもの。しかし、自分の中の仮説が確証に変わる絶対的な存在。


 僕は勢いよく、空を見上げた。


「………………ない」



 ーーそこには、唯一無二の存在、『太陽』がなかったのだ。


 レンズを横に動かしてみると、本来の位置とは違う場所に太陽があった。


「やっぱりこれは、『未来が見える』んだ……!!」


 未来が見える魔法道具。

 今まで見てきた魔法から、十分にあり得る話だと思っていた。

 双眼鏡を作った職人が、魔法を込めて作った一級品。道具に対する知識はないが、相当な値がするはずである。

 なぜ、このような物が鐘楼に置かれていたのか謎は深まるばかりだが、これがあればミクスがどの辺りに現れるのか、大体の予測がつくのだ。


 あのお婆さんが死んだ時と同じように、青くなって死んでいる人を見つければ良い。

 死体を見るのは得意ではないが、やるだけの価値はあるだろう。

 連続殺人犯を自分が、止めてみせるのだ。


 この確認を取ることが今日やることの第一目標で、結果は大成功に終わった。

 あとは、これを見て探すだけなのだが……


「……っ!」


 それは難なく見つかった。

 いや、探すまでもなかったと言うべきか。


 王都の中心には膨大な煙が立ち込めており、その下に先ほどの商人が、真っ青になって倒れていた。




レンズで太陽を見ることは、絶対にしないでください

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