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三題噺もどき3

記憶―葬儀

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくさんじゅうなな。

 


 心地の良い青空が広がっている。


 昼間のこの時間は、多少風があれど、まだ暑いと感じる。

 夏の猛暑と呼ばれた時期に比べれば、日差しの痛々しさはなくなった気がするけれど。それは痛みがなくなっただけであって、熱は未だに居座っている。

「……」

 去年あたりのこのぐらいの時期は、もう車の冷房は入れずに、窓を開けて居ればどうにでもなっていた気がするんだけど……いつになったらガソリンの節約ができるようになるんだ。ただでさえ、中古車でそれなりに燃費が悪いと言うのに……。

 まぁ、そんなに節約したいなら冷房を入れなければだいぶ変わると思うんだけど。そんなことしたら暑さでやられてしまう。

「……」

 少し買い物をしないといけなくなったので、車を運転していた。

 田舎というものは、車がなければ移動に手間がかかって仕方ない。

 都会の方は、車を持っている方が邪魔らしいけど……歩ける許容範囲に店が何一つない。あるのは公園と学校と保育園くらい。コンビニですら微妙な距離にある。

「……」

 少し先にある信号が黄色に変わったので、スピードを落とす。

 停止線の前で止まり、気分的には一旦休憩。

 車がないと移動が大変なのはわかるが、運転自体がさほど好きではないので、変に疲れてしまう。緊張状態が長時間続けば、誰でも疲れると思うけど。

「……」

 目の前の横断歩道を、真黒な格好をした女性が通っていく。なんとなく、目で追って行ってしまう。運転中によそ見はいけないが、なぜだか視界が動いた。

 喪服を着たその人が、進む先には葬儀場があった。

 歩道を挟んで奥の方に、この辺りでは大き目な葬儀場である。

「……」

 大き目の看板に誰かの名前が書かれており、入り口には人がそれなりに立っていた。

 皆が皆、喪服に身を包み、うつむいていた。

 小さな子供も見受けられる。彼らは何が何だか分からないままに、手を引かれてきたのだろう。泣いている理由も分からずに、ぽかんとしている。

「……」

 私も一度、あれぐらいの年齢の時にお葬式に行ったことがある。

 あの頃はまだ、幼すぎて、良し悪しも分からずに、下手な発言をしたせいで、叔母に酷く起こられた。

 その後は、それなりの年齢になっていて、変な発言をすることはなくなったけれど。

「……」

 視線を前に戻しながら、思い出す。

 誰もがそうだと思うけど。

 お葬式というものに対して、こう……いい思い出がない。それはそうなんだけど。なんというか……嫌な記憶しか残っていない。

 覚えている限り、葬儀に参加したのは三、四回ほどなんだけど。

「……」

 最初の苦い思いでは、叔母に叱られたことから始まり。

 次は、何か手紙を読まされて、大勢の前で泣いたこと。

 その理由が悲しみではなく、単純に恥ずかしと言うものから来ていたこと。

 その後に参加した葬儀は、ひたすらに苦しかったこと。

「……」

 箱に縋り、嗚咽する親戚の面々。

 それを遠くから見るだけの私。

「……」

 故人との思い出も何も、思いだせずに。

 悲しみに暮れることも、悔むことも何もできずに。

 涙も流せずに。

「……」

 ただ噎せ返るような線香の臭いと、流れ続ける読経に頭痛と吐き気を覚えていた。

 すすり泣く人々の中に放り込まれ、ただひたすらに肩身の狭い思いをするばかりで。

 早くここから逃げ出したと言う一心で、でもそれが出来ないから、ただ俯くばかりで。

「……」

 それだと言うのに、故人との等身が近いからと、前のあたりに座らされ。

 火葬場に移動する際には、骨壺の入った骨箱を持ち列に並び。

 何もできずにいる自分が、あまりにも愚かで、周りに立つふさわしい人たちに許しを請うてしまいたくなるような。

「……」

 惜しむべきなのに。

 羞恥に暮れている自分がいて。

 さらに酷くなる頭痛と吐き気に耐えるだけで。

「……」

「……」

「……」

 信号が青に変わり、アクセルをゆっくりと踏む。

 思いだしたくもなかった嫌な記憶を押し込めて。

 そういえばそろそろ一回忌だなぁなんて思ってみる。
















 お題:田舎・許しを請う・嗚咽

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