教室のうわさ
夏のホラー2024
テーマ:うわさ
陽射しに汗ばむ夏。
教室には冷房が完備され、過ごしやすくはなっているが、それでも夏の陽射しは肌を刺し、過酷な夏の熱さを嫌が応にも思わせる。
クラス内で噂話が囁かれている。
狭い教室の中だ。自然と漏れ聞こえてくる。
内容は、今一番ホットな話題だろう。
「――あれ、絶対事故じゃないってー……‥」
「えー? こわーいっ!」
少しだけ視線を上げる。
教室の片隅、最前列窓際。机の上には、一つの花瓶が飾られていた。
去年死んだ先輩の物だ。
私は良く知らないが、卒業直前に死亡してしまったらしい。
彼女が心安らかに冥界で成仏できるまでの期間、49日とか75日とかそんなのだ。
その間、机の上に花を活けているのだとか。
卒業直前だったために、今でも引き続いている。
迷惑な話だ。
噂によると、その机を蹴ってしまった生徒が階段を踏み外したらしい。
足首に手跡があっただとか、彼女の事故には不審な所があるとか、怪談話に花を咲かせている。
(くだらない……。学生の本分は勉学でしょうに……)
私は、噂話に夢中になる同級生たちを尻目に、机に向かう。
私たちももう3年生だ。この先の人生を隔てる試験も迫っている。
(私は、少しでも万全な準備をして臨むのよ。階段から落ちたのも……どうせ睡眠不足や受験ノイローゼとかなんでしょ? そんなの偶然に決まってるでしょ)
自分は違う。他人の足をひっぱるような、そんな人生の落第者になんてならない。
自分の努力で受かるのだ。
落ちるなんて受験生にとっては縁起の悪い話題からは距離を置く。
良い大学に入るための勉強漬けの毎日は、私から友人を減らした。
今では揶揄い混じりの用が無ければ話しかけてくる子も教室には居ないありさまだ。
それでも残ってくれた親友と呼べる本当に仲の良い子たちは、このクラスには居ない。クラス分けで別れてしまった。
もちろん寂しさはあるが、それも後半年の辛抱だ。みんなで同じ大学に進めば現状も変わる。
一人だけ落ちるわけにはいかない。私は、より一層勉強に集中した。
■■■
過ごしやすい秋。
年々秋は短くなってきたように感じる。
カリカリカリカリ。今日も机に齧りつく。
「ほらぁ、あの、○○さん――」
名前を呼ばれた気がした。
教室に流れるくだらない噂話の中には、私の話題もある。どうせ自分たちと違う私に嫉妬しているのだろう。出る杭は打たれる。足並みを揃えない私が、彼女たちにとっては邪魔になるのだ。
(どうかお願いだから……。私はあなたたちの邪魔をしないから、私の邪魔もしないで欲しい)
カクテルパーティー効果だったか、自分の名前は騒めきの中でも聞き取れてしまう。向こうは聞こえないように小声なのだろうが、私には、私の名前を呼ぶ声がしっかりと聞こえていた。
集中が途切れる。
どうせロクでもない話。聞く価値も無い。
カリカリカリカリ。
私は努めて耳を塞ぎ、勉強に集中していった。
■■■
底冷える冬。
カリカリカリ、カッ――
ガタッ!?
「あ、ごめんなさいっ!」
机の横を通りがかった生徒が私の机を蹴ったのだ。蹴った生徒は慌てて謝ると、仲間たちのもとへと逃げるように駆けていく。
ああ、狭い教室で駆けたら、また別の所にぶつかってしまうのに……。
(あれ、全然反省してないわよね……)
わざとではないのだろうけど、あれでは私がイジメたみたいだ。
逃げて行った生徒は、仲の良い友人たちに慰められている。
(しょうがないのかも知れないけど……、イラっとするわね……)
「あの席、○○さんの――」
「えー? 大丈夫ぅ?」
「よしよし。怖かったねー?」
数は力。集まった彼女たちは、あからさまに私の方を見て、ヒソヒソと噂話をする。
親友たちと分かれてしまった私は、この教室では弱者でしかない。
消極、関わらないようにやり過ごすしかない。
私は聞こえない振りをして、机に向かって視界を狭めた。
カリカリカリカリ。
クラスメイトは、もう仲間とは思えない。
やはり私が仲間と呼べるのは、教室が分かれた親友たちだけだ。
卒業後の楽しいキャンパスライフを夢見れば、私は頑張れた。もう少しの辛抱だ。
■■■
春。
麗らかな風が吹きこみ、薄いカーテンを穏やかに揺らす。
カリカリカリカリ。
穏やかな風が教科書をめくる中、私は変わらず勉学に励む。
「ねえ、あの席花瓶が飾られてるよ? 誰か亡くなったの? 知ってる?」
相変わらず教室では噂話が囁かれている。
「あー、あれねー。先輩から聞いた話なんだけど……――」
(まったく……。くだらない。学生の本分は勉学だと言うのに……)
「――2年前に受験に落ちちゃった子が自殺したんだって」
「へぇー……。……なんでまだ飾ってるの? 2年前なんでしょ?」
「それがねー……、…………出るんだって」
「えーっ、幽霊ッ!?」
「それでまだ成仏してないからって、今でも花瓶を飾ってるんだってぇ」
「こわーっ」
「でもね……、本当はあの席じゃないんだって……」
「え? じゃあ、なんであの席なの?」
「本当の席は、教室の真ん中らへん、ちょうどその辺りだから、危ないらしいよ? ……祟り」
「もうっやめてよー!」
「花瓶を倒したりしないように、隅の席に死んだ子の席を移動したらしいよ~」
(また私の方を見て、噂してる……。ほんと、迷惑だわ……はぁ…………)
仲の良かった友人たちとはクラスが別れてしまい、この教室には誰も知っている子が居ない。
その代わりにちょっかいを掛けて邪魔をしてくる子も居ないので、この春の気候のように平穏でもある。
勉強に集中できる環境ではあるが、寂しい限りだ。
(大学に進めば、またみんなと楽しく過ごせる。それまでの辛抱だわ)
私一人だけ落ちるわけにはいかないのだ。
楽しいキャンパスライフを夢見て、私は、より一層勉強に集中した。
カリカリカリカリ、、、、、、、、、、、
ただ勉強だけしてる穏やかな地縛霊さん。
ウルサイのは好きじゃないから、ポルターガイストなんてしないし、
人の足を掴んで引っ張ったりもしない。
でも、人並みに内心イラッ☆としてるよ。だって受験生だもの。
というお話。
よくあるご質問 から抜粋。↓↓↓
Q,ホラーの定義を教えてください。
A,「読者に恐怖感を与えることを主題とした小説」としております。
ホラー???