一話
迷宮はすべての帰る場所
太陽が散りついて素肌に焼き付く
歩いても歩いても延々地平線が続いている
いつからこうなったか覚えていない
もう随分と歩いた
腹は減らないし喉も乾かない
三角錐の建物が幾つも聳え立つ
それ以外は何もない
砂の平原が広がっている
既知の感覚で言うところのアフリカの砂漠のどこかだろうが
理由も分からずここを歩いている
かれこれもう3日だ
気づいたらここに
私がこんな目にあうなんて
万歩計の計測限界の実験でもさせられているのか
身体中に砂がこびりつき痒い
ガーンガーンガーンガーン
遠方から鐘の音が聴こえる
砂漠のどこにもそんな影は見えない
幻聴に見舞われてたと思った矢先
目の前に正にピラミッドが出現した
ずっとそこにあったように
地平線は消えたが気力も消えた
勘弁してくれ
『おい、お前、その出口なんて書いてある』
『え』
『え、じゃない お前から見て右側、パネルがあるだろう
数字か書いてあるばすだ
教えてくれ』
ピラミッドの入り口の奥の通路から男が這い出てくるなり問答責めをしてくる
何も分からず歩き続けようやく人に出会えたのだから人間しい人間と出会いたかった
『早く答えろ お前は何してんだ
もう見つけたのか?それとも監査員か?
まさかウォーカーか?』
男は登山家のような出立ちで目をギラギラさせながら私と対峙する
『その中で一番近いのはウォーカーだろう
ずっと歩いてる
やっと変化が起きたと思ったらピラミッドが出てきてアンタと遭遇したんだ
意味がわからない
説明してくれ』
『久しぶりの投下だな
説明しろったって何もできねぇよ
俺だってそうなんだ
ただ、目の前のことをやり続けて今こうなってんだ
今お前と世間話してもお互い何にもならねぇ
さっさと数字教えて俺に恩でも売っとけ』
奥から異臭がする
よくみたら壁に血のようなものがベッタリとへばりついている
私が男の風体やこの状況を理解しようと視線を様々に張り巡らせいることに感づいたのか男は焦燥感を出す
パネルはすぐそばに棒で支えられていた
『bハイフン3690 と書いてある
これはなんなんだ?
何の意味がある
この程度の距離ならアンタが出て確かめても良さそうたが』
『ハイフンなんていらねぇよ
まぁ助かる
知りてぇならお前もこの中入りな
入ったらはれてウォーカーは卒業だぜ
こっち側だからな』
男の意味ありげな応答はこの解読不能な世界からの活路を私に提示しているようだ
『分かった
アンタといこう
一緒にこのふざけた世界から抜け出そう』
無骨なピラミッドへの挑戦が始まるのだ
『ん?
抜け出すってピラミッドからか?
世界ってお前
本当に何も知らないんだな
ここが全部だよ』
『え』
◇
ピラミッドの内部通路は暗い
相変わらず歩くという作業は終わらなかった
登山家のような男は狭い通路をものともせず勇ましく進み続ける
『お前、さっき曲がった角、右だったか左だったか覚えてるか?』
内部通路は迷宮のように入り乱れている
記憶力なんてとうに機能を停止した
『忘れたよ
アンタが全部把握してるんじゃないのか
それより世界が終わったって何だ
ここはなんなんだ
ウォーカーは卒業したんだろう
教えてくれ』
『お前な
俺が味方だと思っているのか
お前が役に立たないならとっとと切る
俺も生きていくためにやってるんだ』
不気味に閑散した構内に二人の会話だけが轟く
『それにここでお前に俺が教えて
その次にお前がどう出るかなんて考えなくてもわかる
明らかなこった
ウォーカー野郎はみんなそう
知りたきゃ貢献しな』
男はあやふなな返答を交わすだけで真を食った会話に踏み込もうとしない
男の唯我独尊な態度はますます強みを帯びてゆく
この世界はどうにもならないが
せめてこの男くらいは私も幅を利かせたいものだ
『あっっっーーーーー!!』
男の精神を揺さぶらせ、私の存在を主張するためあえて奇行に及ぶ
『うるせぇな!大きな音をたてねぇってのはこういうシチュエーションではお決まりだろうが』
『いや、足がめり込んだような気がしたんだ』
『そのまま突き刺さってな』
男は偉大なる大志を抱いて突き進むかの如く、私のことはまるで相手にしない
『うあぁぁぁぁぁぁぁ!!』
男を抜かし、全速力で走り抜ける
『バカ!そっちはまだ先わかんねぇんだぞ』
なんと高揚な気分だ
この世界で私より速く移動してる者はいないだろう
ガラッ
何からも干渉されていない自由な肢体を感じた後、下からの向かい風を受けた