095・こ、こいつ!?便乗しやがったしっ!?
「だってほら、恵美の時も名字呼びから名前呼びに変えるまで結構時間が掛かってたじゃん?」
うんうん。亜依子の言うように、彼女だったあの恵美ちゃんでさえも名前で呼べずに、しばらく名字で呼んでいたもんね、光野くん。
だからさ、日にちを掛けてじっくりとあーしの事を名前で呼べるように持っていく腹積もりだったのに、
まさかこんなにも直ぐに、あーしを名前で呼んでくれるだなんて、
「ホントラッキ~だしぃ♪」
この予想外な展開に、あーしは心からニヤニヤが止まらない。
くふふふ、よっしゃぁあいっ!
取り敢えず、あーしの事を名前呼びさせる事には成功した。
後は......
「くふふ~♪光野くんがあーしの事を名前で呼んでくれるってんなら、あーしも今から光野くんじゃなく、名前の朔夜の方で呼ばせてもらわなきゃいけないよね♪ってな訳で今後からは名前の方で呼ぶからねぇ~朔夜くん♪」
この止まないドキドキと緊張で高鳴る心音を何とか沈めつつ、あーしはいつもの様にニシシ笑いを浮かべ、光野くんの事をさりげなく名前で呼んだ。
「―――なっ!?」
そんなあーしを目を大きく見開き、驚愕した表情で亜依子が見てくる。
そして、
「ちょ!?ズ、ズルいぞ心愛ぁ!わ、わたしも!わたしもこれからはあんたの事は光野じゃなく、朔夜って呼ばせてもらうからね!きょ、拒否権はないんだからねぇっ!」
亜依子もあーしに便乗する様に、光野く......おっと、朔夜くんの事をテレた顔を見せ隠ししつつ、名前で呼んできた。
―――こ、こいつ!?
あーしに便乗しやがったしっ!?
それにあのだらしなくしまりのないテレ顔!?
や、やっぱり亜依子のやろう、朔夜くんにマジラブしてんじゃんっ!!
今まで見た事のない亜依子のデレ顔ぶりに、あーしは先程の予感が的中してしまったかと、拳をぐぬぬと力強く握りながら亜依子をジト目でキッと睨んだ。
「コ、コホン!さて、お互いに名前呼びすると決まった所で、ちょいと気になっていた事があるんだけど、朔夜は何でこんな路地裏を彷徨いていたの?」
あーし達に自分のデレた顔を見られたくなかったのか、亜依子は軽く咳払いをして話を別の話へと切り替えていく。
そういや、そうだよね?
何で朔夜くんがこんな路地裏にいるんだ............ん?
い、今朔夜くんの眉が今ピクッと動いたぞ?
「あ!もしかして迷子ちゃんか?」
あーしがそう勘づいて口にすると、
「――ギクッ!」
朔夜くんは正解とばかりに、驚いた表情を見せる。
「どうやら図星みたいだね......」
「うん。図星みたいだねぇ......」
そんな朔夜くんの表情と態度を見て、亜希子とあーしはお互いにこれは当たったなという表情で苦笑いをこぼす。
「あ~でも朔夜ってさぁ、確か最新式のスマホを持っていなかったっけ?」
あーしは朔夜くんがそのスマホの機能を使えば恵美ちゃんともっと効率良く会話が出来ると、ニヤニヤしながら独り言を言っていたのをふと思い出す。
「あれには自分の位置を教えてくれるアプリや、行きたい場所の道案内をしてくれるアプリが搭載したあったと思うんだけど?」
あーしは朔夜くんの持っている最新型スマホの機能を知っていたので、朔夜くんにそれを指摘すると、
「へっ!」
朔夜くんがそんな機能があった事をスッキリ忘れていたのか、目を大きく丸くして驚いている。
「はは。そういう抜けているとこは、いつものあんたらしいねぇ♪」
そんな朔夜くんの肩をポンポン叩きながら、亜依子がクスクスと笑った。
「ホントだよね~抜けているといえば、さっきもあーしらが話し掛けてやっとあーしらだって気付いたみたいだし!」
「あんだけ毎日わたしらと接しておいて気付かないんだもの、地味にショックだったなぁ~」
あーしと亜希子は、朔夜くんが自分達に全く気付いていなかった事に少しだけ不満だったので、その思いの込もったジト目の視線で朔夜くんをジィーと睨んでいると、
「はは...そ、それは素直にゴメン...です。本当にすいません......」
朔夜くんが心から申し訳なかったいう表情で、あーし達に頭を下げてくる。
あ、朔夜くんのあの申し訳ないって表情、可愛い♪
くふふ♪
もうしょうがないしぃ~。
「心から謝っているようだし、許してあげようっ!」
ちゃんと反省しているみたいなので、取り敢えず朔夜くんを許す事にした。
「で、話は戻るけど、朔夜はどこに行こうとして迷子になっていたの?」
亜依子があーしも気になっていた事を朔夜くんに改めて問う。