093・恵美の浮気を思い出す二人
「マ、マジかよ...あいつ......」
光野くんが本当に信じられないという顔をしているな。
そりゃま、あんな表情にもなるよねぇ。
だって古島の野郎、いっつもクラスで男子達...特に光野くんにイキりまくっていたし。
だというのに......
今日の朝も光野くんにニヤニヤした顔でウザ絡みをしていた古島の事を思い出したあーしが、軽蔑と嫌悪感の入り混ざった表情をこぼしていると、
「......って事はこいつら、別にキミ達の友達でも知り合いでもないんだね?」
光野くんが地面に転がって気絶している不良三人に目を移して、有らぬ疑いをあーし達に向けてきた。
なのであーしらは、
「冗談!」
「こんな連中、知り合いでもゴメンだよ~!」
速攻で首を左右に何度も振ってこれと友達な訳ないじゃんという表情で光野くんに否定の言葉を返す。
「そっか、それなら良かったよ!」
そんなあーしらの言葉を聞いて、光野くんがホッとする。
「もしそいつらがキミ達の仲間だったら、こんな目に合わせちゃった事に少しだけ気が咎めちゃう所だったからさ!」
「そいつら仲間どころか、マジクソの強姦野郎だしっ!」
光野くんが来てくれて、ホント助かったし。
「だから光野くんが気を咎める必要なんて全然ないしっ!」
「そうそう、ホント助かったよ、光野!もしも光野がここに来なかったかと思うと、本当にゾッとするわぁ......うう」
「あーしだってしばらく立ち直れず、家に引き込もっていたと思うし......うぐぅ」
あーしらはそんな在ったかもしれない未来を想像してしまうと、顔が青くなっていき、全身がブルブル震えていく。
「そういう事なら道に迷って結果オーライだったね。だってキミ達の危機に間に合ったんだからさ♪」
そんなあーしらの青くなった顔を見て、光野くんがあーしらを助けられて本当に良かったと心から安堵した笑顔で微笑む。
そんな優しさ溢れる光野くんの微笑みを受け、
「――はう!?」
「――なう!?」
あーしと亜依子は頬を真っ赤に染めてしまう。
「ね、ねぇ...心愛。い、今の光野の笑顔を見た?」
「見た見た!これは強烈な威力!こいつは恵美ちゃんがデレデレしちゃう訳だよ!」
こんな笑顔を毎日食らっていたのか、恵美ちゃんマジ羨まし.........ん?
あああっ!?
あ、亜依子の頬が真っ赤に染まってるぅぅうっ!?
亜依子の奴ぅ、やっぱり光野くんに惚れやがったなぁぁあっ!?
信じられないくらいの恍惚なる表情を見せている亜依子の姿に、あーしは目を大きく見開きビックリしてしまう。
「あ、でも恵美の奴......」
光野くんに恍惚な表情を見せていた亜依子だったが、急にその表情を曇らせていき、力なき小さな声でそう呟く。
ん?恵美ちゃんがどうしたっていう........あああっ!?
「そ、そうだった!あいつ光野くんの事を裏切って他の男と......」
あーしも恵美ちゃんから転校先で新しく他の男と付き合い始めたという連絡が来ていた事を、亜依子の呟きを聞いてハッと思い出した。
今でも信じられないし。
だってあれだけ光野くんに愛されていたっていうのに、まさか浮気をしちゃうなんてさ。
流石のあーしもこの話を聞いた時には思いっきりドン引きしたよ。
「光野の奴は知っているのかなぁ、この事を?」
「ど、どうだろ??知っているからこそ、いつまでも経ってあんなにいじいじと暗かったのかもしれないし......」
た、確かに光野くんこの数ヶ月間、何か元気がなかったもんね。
「で、どうする?あいつの浮気こと、光野の奴に教えちゃう?」
「う~ん。でもさ、もし光野くんがその情報を知らなかったら、更に落ち込んじゃうかもしれんし......」
それだけは絶対に駄目だしっ!
もしそんな光野くんの姿を見ちゃったら、罪悪感であーしの心が死ぬほど苛まれちゃうしぃっ!
......でもいつまでも内緒にって訳にもいかないのも事実だし。
う~~~~~~むっ!!!
あーしは恵美ちゃんの浮気の事を、光野くんに話すべきなのかどうか、それを必死に悩んでいると、
「......よし!決めたっ!!」
亜依子が下向きにしていた顔を突如バッと上げて、意を決したという表情でそう呟き、そして拳をグッと強く握る。




