092・助けてもらった時の心愛の気持ち
――時は昨日の放課後に遡る――
風見心愛ことあーしは、亜依子と帰り道に厄介そうな不良達に絡まれてしまう。
そして路地裏へと連れて行かれ、まさに大ピンチっていう所に光野くんが颯爽と現れて助けてくれた。
「こ、光野くん。カ、カッコいい......」
光野くんがその厄介不良達を次々と薙ぎ倒して地面にドタバタと倒していく様を見て、開口一番にそう小さく呟くと同時に、あーしの頬は赤く染まって光野くんの戦う姿に見惚れていた。
恵美ちゃんから光野くんの強さは聞いてはいた。
けれども、まさかここまで強いとは思っていなかったので本当にビックリしたよ。
「おっと、いかんいかん。惚けっとしている場合じゃなかったし。と、取り敢えず光野くんにありがとって、お礼を言わなきゃ――――」
「―――あ、あんた。こ、光野...だよ...ねぇ?」
あーしが光野くんに助けてくれてありがとうと近づこうとしたその瞬間、亜依子が先に光野くんの下へと近づいて行く。
―――な、ななっ!?
あ、亜依子のあの表情!?
まさか亜依子の奴も光野くんに惚れたとかっ!?
亜依子の奴ぅう、男子の事なんて生ゴミでも見るかの様な目付きでいっつも邪険に扱っていた癖にぃぃぃいっ!!
お、おのれぇぇえ!
出し抜かれてたまるかぁぁぁああっ!!
あーしも遅れてたまるかと大急ぎで亜依子と光野くんの下へ早足で駆け寄ると、
「おっと、あーしもいるぞ~光野くん♪」
ドキドキ心を必死に抑えつつ、光野くんにニカッと笑顔を浮かべてサムズアップを前にビシッと突き出す。
「いや~しっかし、凄かったねぇ~さっきの動きっ!わたしマジビックリしちゃったよぉ!恵美の奴には聞いてはいたんだけどさぁ、あんたって本当に強かったんだねぇっ!」
「うんうん。恵美ちゃんの過大評価だと思っていたよ~♪」
亜依子とあーしがキラキラと瞳を輝かせながら、光野くんの強さに感動していると、
「あはは...あの浮、コホン!恵美を好きだっていう連中の暴走からあいつの身は勿論のこと、俺の身も守らないといけなかったからさ。だから必死になって身体を鍛えたんだよ!」
光野くんが何故ここまで強いのか、その理由を教えてくれた。
「ああ、なるほどねぇ。確かに「あんな陰キャラ野郎なんかよりも俺の方が恵美さんには相応しいっ!」とか宣っていた連中、結構多かったもんな......」
「そうそう。あーし達のとこにも「あの陰キャラ野郎が恵美さんと付き合うなんて!きっと弱味か何かを握られて、無理やり付き合わされているんでしょ!」とか聞いくる連中も沢山いたっけか?」
亜依子とあーしは当時の状況を思い出すと、思わず苦笑をこぼしてしまう。
ホント、ああいう連中って弱き姿を見せるとホンマジで調子に乗ってくるからなぁ。
あーしがウンウンと頷き、光野くんに同意していると、
「あ!そういえば、あいつの姿がどこにも見当たらないんだけど、今日あいつとは一緒じゃなかったのかい?」
と言い、光野くんが周囲をキョロキョロし出す。
「ん?あいつ?」
「え、えっと、ウザ絡みイケメ...じゃなく、古、古......」
「あ、もしかして古島の事?」
亜依子があのクソ野郎の名前を、イラッとした表情で口にする。
「そうそう!古島!あいついつもキミ達と一緒に行動していたからよね?だからここにいないのは珍しいなぁと思ってさ?」
「あの古島のクソ野郎!いた事はいたんだけど、そいつらに絡まれた直後、一目散にわたし達を置いて逃げて行ったよ......」
「はぁあ!?キ、キミ達を置いて逃げていったぁぁあっ?」
怒りで眉をヒクヒクとさせながら、何故古島がここにいないのか、その理由を語る亜依子に、光野くんが目を丸くして「嘘だろっ!?」という表情で驚いている。
うんうん。だよねぇ~マジでビックリするよねぇ~。
あーしもまさかの展開にビックリし過ぎちゃって、逃げるあいつを止める言葉も罵倒する言葉も出てこなかったし。
「わたし達と古島で遊びに行く途中、そいつらから絡まれたんだけどさ。あのクズめ!そいつらに軽~く小突かれただけでビビりまくってさ!」
「でその後、腰を抜かした身体であたふたパニックしながら、振り向く事もなく、あーしらを置き去りにして脱兎の如く逃げ出しやがったんだよ!ホンットあの野郎!最低最悪のクズ野郎だよねぇ~っ!!」
あーしはふざまに逃げ去っていく古島の様を思い出すと、その時の怒りが沸々と沸き上がってきて、額に青筋を立てて拳をブルブルと力強く振るわせる。